特集2022.02.18

元バレーボール日本代表監督 中垣内祐一さん(54)と語る未来の “ファンづくり”

バレーボール界の至宝にして、現在は堺ブレイザーズのGM 中垣内祐一さんと、ライブ配信の企画、制作などをマルチに展開するベンチャー企業 r t v の須澤壮太代表の対談、進行役はラジオ体操の普及を通じて地域貢献を目指す ラジねえ。こと上羽悠雅です。
地域、スポーツ、ファンづくり、二人が描いているそれぞれのビジョンを語ってもらいました。

イントロダクション

スポーツを通じて地域を元気に!
『堺ブレイザーズ × rtv』
新プロジェクト始動!!

堺ブレイザーズが産声をあげたのは、今から22年前、2000年12月のことでした。バレーボールの国内トップリーグである「Vリーグ」の前身「日本リーグ」は、女子で言えば日立、ユニチカ。男子では、日本鋼管(現JFE)、専売公社(現JT)等、そしてブレイザーズの前身 新日本製鐵など戦後の経済成長を支えた企業が名を連ね、アマチュアスポーツのシンボル的存在でした。経済の成長期が終わり、福利厚生の延長線上にあったチームが、その役割を終わるかのように次々と廃部となる中、ブレイザーズを持つ新日本製鉄は、チームを地域に根ざしたクラブチームに変えるという決断をしました。チームと選手に生き残りのチャンスをつくったのです。それから22年、堺ブレイザーズは生き残り、Vリーグの雄として今もバレーボール界になくてはならない存在となっています。

もっとも、これまでの22年が順風満帆だった訳ではありません。スポーツの人気バロメーターは何といってもオリンピックでどれだけ好成績を残すかです。テレビをはじめとする様々なメディアに露出し、ファンを拡大、スポンサーを獲得し、競技あるいは次世代のプレイヤーを育成していくことが重要になってきます。かつてミュンヘンン五輪で金メダルに輝いた男子バレーは、1992年のバルセロナ五輪以来、2008年の北京五輪まで16年間もの長きにわたり予選敗退、オリンピックに出場すらできなかったのです。出場権を獲得した北京五輪でも一勝もできず、停滞は続いていました。

株式会社rtvは、代表の須澤壮太が立命館大学時代に学生アメフトの試合をUstream(動画共有サービス)でライブ配信したのが始まりとなります。その後、須澤は社会人となり、電気機器メーカーの営業、コンサルに携わりビジネスを学んだ後、スポーツの配信をメインビジネスとする株式会社rtvを起業。配信の技術は他を圧倒しており、放送局も注目しています。今やメディア、スポーツチーム、自治体など取引先は多岐に渡っています。rtvが特徴的なのは、技術の請負業者、単なる配信業者にとどまることなく、〈ファンづくりをプロデュースする〉をミッションに掲げ、地域活性化に貢献することを宣言していることです。22年前の設立以来、地域に密着した経営方針を掲げ〈コミュニティづくりを目指す堺ブレイザーズ〉。そして、〈ファンづくりをプロデュースするrtv〉。思いを同じくする両社が共に動き出すのに時間はかかりませんでした。その第一歩として、企画されたのが今回の対談です。

対談に応じてくださった中垣内祐一さんは、堺ブレイザーズのGM、現場のトップ。1992年バルセロナ五輪6位入賞時のスーパーエースで、バレーボール界のスーパースター。サッカー界でいうと三浦知良さんのような存在です。2021年の東京五輪では監督として29年ぶりのベスト8に導きました。日本男子バレーの世界への扉を再び開けた立役者といっても過言ではないでしょう。
対談では堺ブレイザーズが設立された経緯、ホームタウン堺市について思うこと、これまで22年間でできたこと、できていないこと、そして、日本バレーボール界がもつ可能性と課題、さらに、バレーボールの奥深さまで踏み込む、多岐にわたる内容となりました。中垣内54歳、須澤32歳。年齢差22の対談となりましたが、世代を超えたスポーツへの愛、地域密着への思いを存分に語りあう場となったのです。両社のプロジェクトは今、始動したばかりです。

GrowSでの連載では、地域に密着したスポーツクラブと、スポーツを通じて〈ファンづくりをプロデュース〉するスポーツマーケティング会社のタッグに密着。果たして今後どう展開していくのか、大いに期待したいものです。

中垣内祐一 プロフィール

1967年 福井県福井市で生まれる。
     福井・藤島高から筑波大を経て新日本製鐵(現 堺ブレイザーズ)でプレー
1989年 筑波大在学中に日本代表初選出、跳躍力を武器にウイングスパイカーとして活躍
1992年 バルセロナ五輪では6位
2000年 シドニー五輪出場を逃し、代表を引退
2004年 堺ブレイザーズで現役を引退
2011年 4月から2013年1月まで男子日本代表のコーチを務め、2017年から監督に就任
2021年 東京オリンピック7位の結果を残し、日本代表監督を勇退
2021年10月 堺ブレイザーズ ゼネラルマネージャー(強化部長)に就任

「日本バレーボール協会提供」
FIVBバレーボールネーションズリーグ2019(2019年6月9日撮影)

須澤壮太  プロフィール

1989年 長野県生まれ 立命館大学 卒業
卒業後は放送機器メーカーの営業、教育・経営コンサルティングのベンチャー企業を経て、 株式会社rtvを立ち上げる。スポーツ競技団体をはじめ、テレビ局やスポーツ用品メーカーと共に コストパフォーマンスを追求したライブ配信の企画、制作などをマルチに展開、「ファンづくりのプロデュース」をミッションにローカルスポーツ・地域文化の発展を支える事業をしている。

中垣内GMが語る堺ブレイザーズ “元祖” 地域密着型スポーツクラブ

ラジねえ。: 早速ですが、中垣内さんの経歴なども含めた自己紹介をお願いします。

中垣内: 私は1967年、福井市で生まれ、高校まで福井にいました。筑波大学を経て1990年に新日本製鐵に入社しました。当時は新日鐵バレー部だったのですが、ブレイザーズに所属して32年目です。2017年からは日本代表監督をやっていたので、4年半ブランクがあって、2021年10月よりまたGM(強化部長)になりました。

ラジねえ。: チーム名は堺ブレイザーズ、会社名がブレイザーズスポーツクラブですよね。新日鐵から子会社化されたわけですが、その経緯や当時の思いを教えて下さい。

中垣内: 堺ブレイザーズの設立は2000年12月ですから、もう22年目になりますね。設立当時、毎週のように企業運動部の廃部というニュースが流れていて、我々は、伝統あるこの部を廃部にしないため、地域密着のスポーツクラブを選んだんです。
我々がブレイザーズスポーツクラブを立ち上げると発表したのと同じ日、女子の名門 日立バレー部が廃部されるという衝撃ニュースが新聞に出たんですよ。その時、新日鐵の気持ち、懐の広さみたいなものに感謝した記憶がありますね。

須澤: 新日鐵から堺ブレイザーズとチーム名も変わって意識としては何が変わりましたか?

中垣内: それまでは、自分のためや会社のために活動するという意識だったんですが、チームが新しくなってからは、ファンサービスを要求されるようになったんです。応援してくれる観客の皆さんへのサービスの大切さは、もちろん頭では分かっていても、しんどい時にはちょっと出来なかった記憶がありましたね。

ラジねえ。: 今はいかがですか?

中垣内: 今の選手たちはファンサービスありきのバレーボールチームだと思っていますね。練習が終わって、見学に来たファンの皆さんと交流するのが当たり前のようになっていて、私達の時代よりもどんどん進化して、意識も変わってきているなと感じます。

中垣内: 今はコロナ禍でかなり縮小されていますけども、以前はファンを集めたイベントや、映像配信もやってきました。チケット販売でも、バレーボールを観てもらうだけという視点から、よりエンターテイメントに近づくような取り組みも徐々に出ていますね。例えば、ベンチ裏の観客席を設けているのもそれですね。選手がベンチで何を言っているのか、どういう表情でいるのかが間近で見られるきわめて臨場感のある席もファンサービスですね。

※コートサイドの1列目は、ブレイザーズシートとして販売。価格は11,000円と安くはないが、人気のシートとなっている。

ラジねえ。: ベンチ裏の観客席はいつから作られたんですか?

中垣内: 堺ブレイザーズ発足後ですね。今ではどこのチームでも当たり前になってきていますよね。うちでは、新しい観客用の椅子を購入して顧客満足度を上げています。やっぱり座り心地のいい椅子の方がいいでしょ?(笑)

須澤: 22年前、組織が変わった時に堺ブレイザーズならではの取り組みはありましたか?

中垣内: 「新日鐵」っていう名前の代わりに「大阪」ではなくて「堺」にしたんですよ。チーム設立当時、堺市は政令指定都市になるというタイミングで、行政も堺市をアピールしていました。それとリンクさせて我々もチーム名に「堺」を付け、この街をホームタウンにしていくという流れになったんです。「堺」っていうのは我々にとって非常に重要だった。地域貢献として、今も市内の多くの学校での出前授業やスポーツ教室を続けていますよ。

ラジねえ。: 地域密着型スポーツを目指したチームとしての目的ってありますか?

中垣内: 堺市のほかに北九州市、和歌山市もホームタウンとしているんですが、それぞれの街に「根付こう」とやっています。堺市民からどれだけうちが認知されているのかは、まだよくわからないところもあります。堺市は人口82万人くらいの大都市で、住民の大半は大阪市内へ仕事に出ていく人が多い。皆さんそれぞれが堺市に対して誇りや愛着を持っておられると思いますが、我々としては堺に「根付いて」、堺のために役立てる存在になりたいと思っています。堺が誇れるものとして、打刃物や仁徳天皇陵がありますが、誇れるひとつに「堺ブレイザーズ」って言ってもらえるようになりたいと思いますね。

須澤:  競技をまたいで連携するのはどうですか。例えばバレーボールとかでも、BリーグとVリーグの共催とか、サントリーさんがやってますよね。ああいうのはどうでしょう?

中垣内: 我々も以前からスポーツ教室では、バスケットやサッカーのセレッソといった競技種目を越えた連携はやっているんですよ。20年近く、合同教室やジュニアスポーツクラスを開いています。試合共催というのは現在やっていないですけど、イベントでの共催は行ってます。

日本バレーボール界の課題 …企業とクラブのハイブリッド型チームを模索中

ラジねえ。: 中垣内さんは昨年まで日本の代表監督でしたが、日本のバレーボール界全体を見て、現状と課題ってどういったところにあると思いますか?

中垣内: やはり、代表チームは価値があると思うし、評価されるところはあると思うけども、一方でリーグの価値が低く見積もられているのも事実でしょうね。そこがバレー界の現状、そして、それが大きい課題なんじゃないかなと思います。日本のバレー界っていうのは過去に栄光に輝いたスポーツではあるけれども、企業によって支えられてきたという面があるんですよね。日紡貝塚だとか日立だとか、いわゆる企業体がバレーの歴史を作ってきた。これは一つの独特な世界です。ただ、リーグ構成するチームが企業運動部だけの集まりだったらあまり価値はないんじゃないか、という評価もある。でも、そうじゃなくて、企業運動部のままで我々も含めたハイブリッドのスタイル、つまり企業運動部とクラブスポーツの共存という形で、どう価値を生み出していくのかが求められていると思うんです。企業チームには企業チームなりのオリジナルみたいな部分を存続していくのも可能だと思う。答えは出てないけど、そういう方向でいくんだろうなと考えています。

須澤: 堺ブレイザーズからリーグを変えていく。

中垣内: 我々はその気持ちで何十年も取り組んできたと思います。今になっていろんなチームがクラブチーム化していますけども、そういう意味でいうと、我々は22年前からの先駆者であるという気概と誇りを持っていますね。

須澤: そこが肝心ですよね。堺ブレイザーズが、他のチームによい影響を与えるようなチームになっていっていただければと思います。

新しい価値が生まれる? 堺ブレイザーズ × rtv の可能性

ラジねえ。: 須澤さん、堺ブレイザーズはファンづくりを強化されているっていうところで rtv やGrowS と向いてる方向は同じだと思いますが…

須澤: そもそもスポーツは地域と非常に密接ですし、スポーツもチームもそこに紐づいてます。最終的には「人」なんで、「人の思い」がどういうふうに繋がるかだと思うんですよね。rtvとしては「人の思い」「チーム」「地域」をうまく繋げるような取り組みをサポートさせてもらえればと思い、GrowSの取り組みをやっています。中垣内さんとお話しして、なぜこのチームがここに存在するのか? どういう機能を堺市に置くことによって相互関係が生まれているのか?そのあたりを一緒に企画、プロデュースしていければいいのかなと思います。
もう一つは、ビジネス的にどういう展開をするかですね。経営面もあるし、スポーツをやりたい選手もいれば、地域に対しての思いが強い人もいる。そういう人たち個々の思いを広げていけたらいいのかなとrtvとしては思います。その中で、堺ブレイザーズさんとは目指すところは同じだと思うので、その共通項を見つけていきたいと思いますね。
あとは、スポーツも地域も歴史があると思うんです。配信だったりとか、ファン向けのサービスだったりとかも歴史が積み重なった上でベストなものが生まれると思うので、既存のソリューションでそれが機能するかっていうと、決してそれだけじゃないと思います。スポンサーともいろんな意見交換しながら、今までの堺ブレイザーズの歴史を継承する形でアップデートしていけたらいいなと。そういうところでもサポートさせてもらえればなと思います。

中垣内: ネットのことは正直言ってあまりよくわかってなくて(笑)
でも、12月にインターネット放送で中学バレー*のライブ中継の解説をさせてもらったんですけど、バレーボールを真剣にやっている中学生たちがあのライブ配信を観て、今後の参考にしてくれたらいいな、頑張るきっかけになってくれたらいいなと思っていたんですよね。テレビのように視聴率を気にしなくてもいいし、純粋にバレーボールを好きな子どもたちが役立つようなものであればいいなと思っていますね。
*JOCジュニアオリンピック都道府県対抗中学バレーボール大会:rtvが配信を担当

須澤: 日本のスポーツ全体を見たとき、バレーボールをどう変えていきたいと思われますか?

中垣内: やっぱり自分が携わっているこのスポーツが、メジャースポーツであり続けてほしいっていうのが第一の思いですよ。弱いものは淘汰されていく世の中ですから、なんとかそこには淘汰されないようにという気持ちがあります。日本のスポーツ全体がアマチュアだとかプロだとかっていうところの境目にきていて、正直、アマチュアといった言葉なんてどうでもよくなってきていると思うし、何の意味も成さないと思います。

須澤: スポーツの価値って人それぞれだと思うんですよね。プレイヤーさん側もいるし、ファン側からの見方も違うし、地域や自治体からも違う。様々な要因があると思うんですけど、チームとしての価値をどう作っていくか、そういう方々との関係性によって成り立つわけじゃないですか。大衆に受けるようなチームを作ればいいかっていうと、単純にそうではなくて、コアであることによってコアなファンがついてくれることがある。チームのあり方って変わってきていると思います。強いからこそファンがたくさん付くかっていうとそうではなかったりする。これからの時代の新しいチームの在り方っていうのは、今日話していただいた地域への貢献など、いくつかのポイントがあったと思います。他のチームや地域に派生していく取り組みが、堺ブレイザーズさんと共に出来たらいいなと思います。

中垣内: ずっと思ってきたことの一つに、プロでもなくてアマチュアでもなくて、ハイブリッド云々っていう話を今日、私はしたんですけど、究極的に我々は独自の文化を作るべきだと思いますね。文化っていう言葉を大事にすべきだと思うんですね。そして、そこに共感してくれる人がコアなファンになってくれるだろうし、ゆるぎない存在感を示していけるんだろうと思う。
さらに、そこにオリジナリティをもっていけば、存続はしていけるんだろうと思いますね。

須澤: はい、そのあたり一緒に作っていければと思います。

ラジねえ。: 最後に…中垣内さんのバレーボールへの思いをお聞かせください。

中垣内: バレーボールって6人でやるスポーツですから、チームワークは外せない。一人では練習しづらいスポーツでしょ?一人でドリブルしてシュートを打てるというサッカーやバスケなどとは明らかに違いますからね。バレーにはありとあらゆる状況があるんだけど、瞬発的な要素も必要だし、ダイナミックで爆発的なパワー、高度なテクニック、非常にデリケートなタッチを要求されます。人間の身体能力の要素としてはありとあらゆるものが入っていると思いますよ。
あと、ちょっと玄人風の見方でいえば、今日、相手チームはどんな作戦で来ていて、こっちのチームはどんな作戦で、「あ!展開を変えた!」なんていうことがわかるようになってくると楽しいですね(笑)

ラジねえ。: 読み合いがあり、深いですね。堺ブレイザーズの試合が観たくなります。
チームの目標はやはり…

中垣内: そうです。9年ぶりの優勝ですね。

須澤: 優勝することだけで完結するんじゃないと思うんですが、その先にある何かに期待したいですね。

中垣内: そうですね。まず、優勝することは堺市に対して大きく胸を張れる一つの材料になると思うんです。堺市の方々も誇りに思ってもらえばと思います。そして、それをきっかけにして和歌山や北九州でも同じような関係を作っていく必要があるんじゃないかなとは思いますね。
新しいスポーツ文化、堺の地域文化をつくっていきましょう。よろしくお願いします!

須澤: よろしくお願いします!

ラジねえ。: よろしくお願いします。中垣内さん、須澤さん ありがとうございました。

左から、ラジねえ。、中垣内GM、須澤rtv代表、亀田年保rtvセールスコンサルタント。亀田は、読売テレビスポーツ局に所属していた時、中垣内選手の引退ドキュメント番組を制作。今回、堺ブレイザーズとrtvを、つなぐ橋渡し役となった。

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