7歳からテニスを始め、世界を相手にプロテニスプレイヤーとして活躍された吉田友佳(ゆか)さん。現役選手時代に培ったメソッドと経験をいかし、次世代の選手育成に力を注ぐ吉田さんは、現在7歳の男の子を育てるお母さんでもあります。自分自身の気持ちにまっすぐ、常に前進する心を持ち続けながら、さまざまなライフイベントを経験されてきた吉田さんが考える〝セカンドキャリア〟とは。現役時代や現在のご活躍、子育てとの両立についてのお話も交えながら、キャリアメイクのヒントをお届けします。
目次
PROFILE【吉田友佳】
元フェド杯日本代表。1976年4月1日生まれ、神奈川県出身。7歳からテニスを始め、1993年に全日本ジュニアシングルス優勝。翌年1994年、プロに転向。自己最高WTAランク52位。2005年に現役引退し、現在は自身で立ち上げたクラブチームでの選手育成に励む傍ら、ヨネックスアドバイザリースタッフとしても活躍。
「目の前の結果にとらわれず、最終目標にむかってコツコツと」ブレない精神力と努力が目標達成への礎
Q,幼少期にテニスを始めたきっかけは?
もともとは両親が趣味でテニスをやっていたのがきっかけで、テニスを始めました。本格的に取り組みだしたのは、小学2年生くらいの時からですね。そこで紹介してもらったテニスクラブの同世代には、杉山愛ちゃんや岩渕聡(さとし)くんも在籍していて、クラブでトップになれれば全国トップになれるような環境で頑張っていたので、振り返ってみても、環境にとても恵まれていたと思います。
Q,プロテニスプレイヤーを目指したきっかけは?
やはり周りの同世代の影響もあり、自分自身を高めていける環境にいたことで、自然とプロを目指したいと思うようになっていったように思います。本格的に自分の今後を考え出したのが、16歳頃だったと思うのですが、その頃、ちょうどナショナルチームのジュニア部門にも選抜していただいていた中で、当時のナショナルコーチから、「プロになるには、最低限日本のジュニアの中ではトップ、世界ジュニアでも、ある程度結果を残す必要がある」と教えられていたんですね。なので、自分の中でも覚悟を決めて、全日本ジュニアでの優勝、グランドスラムジュニアの全米オープン準優勝や単複準優勝など、しっかり結果を残せたことで、プロになる自覚を育てていったように思います。
Q,プロテニスプレイヤーとして活躍する上で心がけていたことは?
目の前の結果にとらわれず、最終的な目標を見失わずに頑張ることです。当時のコーチからもプロとして結果を残していくことの厳しさを教えられていた中で、あえて厳しいヨーロッパの試合などを回らせてもらっていたのですが、やはり初めは全然結果が出ないんですよね。「なんでこんなに勝てないところに来たんだろう…」と思って、落ち込んだこともありましたが、そこで耐え抜いたことが力になって、1、2年後にはきちんと結果がついてくるようになったんです。2年目にはグランドスラムのシニアプロで予選に入れるようにもなりましたし、3、4年目には本選に出られるようなランキングも獲得できました。結果を残すための長期的なプランニングやスケジューリングを大切にしながら、コツコツと日々の努力を積み重ねることが重要かなと思います。
「地元・横浜から世界へ」後悔のない現役生活を経て、次世代育成へ
Q,現役生活を送っていた中でのターニングポイントは?
24歳~26歳頃だったと思います。努力が実って、23歳、24歳で世界ランキング50位を獲得できたのですが、そこから50位以上への壁や、世界の強豪選手との対戦で感じた悔しさが重なって、プロとして今後も活躍していく中で、大きな壁にぶつかった時期だったかなと思います。そこで、当時お世話になっていたコーチから一度離れて、自分自身の心と向き合って、目標設定を考え直したんです。自分なりの目標がないと、この先、プロテニスプレイヤーとして続けていくことは難しいと感じていたので、そこから現役を引退する28歳までの間、自分が定めた目標に向かって、コツコツと努力を重ねることに集中しました。自分なりの目標設定を考え直したことで、後悔なく現役時代を終えることができたなと思っています。
Q,現役生活をふり返って、一番の学びは?
考え方、物事のとらえ方の部分が大きかったように思います。プロとして続けていく上で、技術の向上も大切なことなのですが、ツアーのプランニングスキルだったり、結果に波がある中でどうやってモチベーションを保っていくかという精神力を磨くことのほうが重要だったかなと思います。思うように結果が出ない時は、試合に立ち向かっていく気持ちをもって、自分自身を奮い立たせること。逆にうまくいっている時は、いかに平常心を保ちながら冷静にプレーに臨むか。そういうことに、その都度チャレンジし続けることができないと、結局、良い時はあっという間に落ちていくし、ダメなときはなかなか上がっていけなくなってしまうんですよね。良い時も、悪い時もきちんとやり続けることの大切さを学ばせてもらったように思います。
Q,プロ現役引退後、どのような生活を?
28歳で現役を引退してからは、社会人枠で受験をして、大学へ進学しました。28歳の時、体力的にはまだまだ上を目指せるなという感覚がありながらも、その先の10年間を考えると、ここであと1~2年、現役生活を続けるより、大学に進学して、その時間を通じてもう一度いろんなことを感じたり、この先の10年間を考えたりする時間を持ちたいなと思ったんです。引退後に大学に進学された先輩・兼城悦子さんからも、大学進学についてのポジティブな意見を聞いて、学生生活への期待が自分自身の中でも高まっていったことも決断の大きな決め手になったように思います。
Q,大学生活はいかがでしたか?
あっというまの4年間でした。大学進学後は、たくさん勉強できることを楽しみにしていたので、普段の講義やゼミ活動もすごく楽しかったです。大学生活と並行する形で、NHKでのウィンブルドン試合解説や、これからテニスを頑張っていこうとしている次世代の子どもたちへのクリニックにも参加させていただいたり、学生生活をしながら、今後のキャリアを考えていく材料になるようなことを経験できたことは、自分自身にとって貴重な4年間になりました。卒業後は、学生生活4年間の間、仕事を通じて日本各地に行かせていただいたり、テニス界の世界の動向を見ている中で、地元・横浜から世界で戦えるような選手育成がしたい、という新たな目標ができたので、その目標を達成するために自身のクラブチームを立ち上げました。
「自信がなくても、まずはやってみる」挑戦こそが人生を切り拓く
Q,セカンドキャリアを決めた時の心境は?
現役を引退して、セカンドキャリアを考える時、多くの選手も〝何かに挑戦したい!〟という熱い気持ちがあると思うんです。しかし、もちろん簡単なことばかりではないので、〝挑戦することは大変だよね…〟という気持ちと〝だからこそ何かに挑戦したい!〟という気持ちの狭間で悩むこともあると思います。しかし、当時の心境をふり返ってみて思うことは、〝自信がなくても、まずは挑戦する〟ということがセカンドキャリアを切り拓いていく上では、とても大切だということ。私が挑戦したいと考えていた選手育成という分野は、たくさんの時間と大きなエネルギーを必要とすることですが、こうやってすっきりとした気持ちで新たなスタートを決断できたのも、自分自身の今後を考え抜いた大学での4年間があってこそだったと思います。いろいろな意味で外の空気に触れて、いい意味でリセットできたことが、新たな一歩の背中を押してくれたと感じています。
Q,セカンドキャリアを歩む中で感じることは?
現役を引退してからセカンドキャリアを考える時、様々な壁を感じることもあるかと思います。例えば、自分自身のライフイベントとの兼ね合いや、自分が挑戦したいことに前例がない場合など、人によって様々だと思います。しかし、実際に自分自身のクラブチームを立ち上げてみて感じるのは、〝自分自身だからこそできる〟という部分に大きな使命があるということです。私の場合、本気で世界と戦ってきた選手時代があるからこそ、今、現役で戦っている選手のリアルな気持ちが理解できたり、自分自身が女性だからこそ、女性選手ならではの気持ちに寄り添うこともできる。これからのテニス界を盛り上げていくことを考えると、自分自身だからこそできることを1つずつ丁寧にやっていくことが、テニス界で頑張る次世代の選手たちの今後に繋がっていくのかなと感じています。
Q,選手育成で大切にしていることは?
ただテニスの技術を教えるというよりは、オンコートからオフコートまで、しっかりと選手をサポートできる環境をつくりたい、という当初からの思いを大切にしています。各選手にとって、目標を達成するためには何が必要で、そのためにはどんな環境があるといいのかを考えて、環境を充実させていく。その先に、そこからどんな選手が育っていくのか、というのを見届けたい気持ちが強くあります。そういった意味では、テニス界の発展や〝次世代を育てたい〟という気持ちが、今のセカンドキャリアに繋がった、という感覚のほうが近いかもしれません。そのためには、選手一人一人と向き合うことがすごく重要だと感じています。同じ集合体にいても、個性はそれぞれなので、まずは自分自身が選手たちの感覚を共有することから始めて、そこから技術やテクニックに繋げていく指導を心掛けています。自分自身が現役時代に培った経験や感覚を生かしながら、子どもたちと真正面から向き合うことを第一に、これからも指導に関わっていきたいなと思っています。
Q,今の仕事において一番のやりがいは?
やはり試合を間近で観られる瞬間でしょうか。12歳の小学校の試合もプロの試合もそうなのですが、目標をもって試合の日まで準備してきて、それを試合にぶつけて果敢に挑戦している姿にグッときます。そういう試合を観ると、たくさんのアイデアが湧いてくるんです。試合の大小に関わりなく、〝今日、なんだかワクワクするな〟という日は、決まって試合を観に行く予定がある日ですね。きっと、テニスを始めた頃から、〝勝負そのもの〟が好きだったんだと思います。勝負に向かっていく感じに、今でもワクワクさせてもらっています。
「まずは現役生活に集中、その先はそれから」現役生活をやり切ることがこれからの人生の糧に
Q,私生活とセカンドキャリアの両立についてはいかがですか?
結婚して、子どもが生まれると、やはりライフスタイルが変わってくるなと実感しています。何よりも子どもを優先しなくてはならない時もありますし、息子も年齢が上がるにつれて様々なことへの興味や挑戦心も出てきているので、やはり母親として今、彼にできることは全てやってあげたい。そういう気持ちの上に毎日の生活と仕事があるので、家族の協力は、私にとってかけがえのない絆です。夫も両親も、子育てに関してすごく協力してくれるので、本当に助かっていますし、みんなで協力し合うことがいかに大切かということを、日々実感しています。選手時代は、綿密なプランニングやスケジューリングを経て1年間を過ごしていましたが、子どもは本当にスケジュール通りにいかないので…(笑)。仕事と子育ての両立の難しさに行き詰ってしまった時もありましたが、そういう部分を夫と話したり、両親にも応援してもらいながら頑張れているので、感謝しています。
Q,女性アスリートがセカンドキャリアを考える上で大切だと思うことは?
その人その人によっていろんな考え方があると思いますが、女性の場合はどうしても、仕事のことのみならず、出産や子育てのことを同時に考える場面に多く出会いますよね。現役生活を頑張れるところまで全うして、引退後のことを考えるステージになった時、〝10年後、どんな自分でいたいか〟ということに思いを馳せるということを大切にしてほしいなと思います。自分自身をふり返っても、そのステージはすごく貴重で重要なポイントだったなと思っているのですが、その時に自分自身としっかり向き合ったからこそ、いろんな可能性のもとに何事にも挑戦できたなと感じています。自分自身から湧き出る〝やってみたいこと〟を大切にしてください。その中に、出産や子育てがあるかもしれないし、もっと現役で頑張ってみたいという気持ちが出てくるかもしれない。その時の正直な気持ちを大切に、いろいろなアイデアと可能性に挑戦してみてほしいなと思います。
Q,今後の目標は?
今あるテニスクラブを、より選手たちが頑張りやすい環境にしようと頑張ってきている中で、いろんな試みをしてきたのですが、最終的には地元・横浜からいろんなイベントやプロジェクトを発信していきたいなと思っています。今、チームの中にもグランドスラムの予選に入っている選手たちもいるので、そこからもう一歩、本選に組み込める選手を育てていくというのも、私たちにとって重要な役割だと思っています。こういった目標をチームで達成するために、あと10年は現場で頑張りたいなと思っています。そして、その10年後は、羽ばたいていった選手たちが戻って来られるような環境をつくっていけたらいいな、と思います。
Q,現役引退後も社会で自分らしく輝くためには?
現役中に、引退後のことを考えるのも勿論大切なことなのですが、現役時代は、まずは競技生活にとことん打ち込むべきだと思います。競技に打ち込める期間というのは、そう長くないので、日々やれることを最大限やって、挑戦しながら進んでいくということが大切だと思います。現役時代、毎週発表される世界ランキングを見て、プロスポーツ選手としてあるべき姿勢が詰まっているな、と感じたことがありました。というのも、プロの世界で戦っていると、常に同じことをやっているだけではランキングが上がらないどころか、維持すら難しい。やはり、どんな状況でも前に進む努力をしている人だけが上に上がっていける世界なんですよね。なので、現役中は努力し続け、やりきることが大切なんじゃないかと思います。競技人生の後のことを考えるのは、それからでいい。ある程度まで頑張ると、いろんなことに気づいたり、新たな景色が見えるようになってくるので、そうなったら、今度は自分自身と向き合って考える時期が訪れたと思って、しっかり考えたらいいんじゃないかなと思います。また、選手経験がある人に話を聞いてみる、ということもすごく大切だと思います。やはり、個人差はあっても、スポーツ選手ならみんな同じところを通って、同じ壁を乗り越えてきていると思うので…。同じ競技の先輩でも、競技は違うけれど世界で戦い続けている人でも、自分のアンテナが向く方の意見や思いに触れてみることが、自分自身の次のステージを考えるヒントになります。そういう人たちが、どういう気持ちで、どういうことを考えて、次のキャリアを考えているのかを積極的に取り入れる姿勢が大切かなと思います。
セカンドキャリアを考えるみなさんへ
Q,セカンドキャリアを考える現役アスリートのみなさんへメッセージをお願いします
スポーツというのは、嬉しさや悔しさ、悲しみや喜びなど、いろんな感情を経験できるすばらしいものだと思うんです。スポーツを通じて感じた感情や経験は、競技生活だけでなく、自分自身が生きていく上で、大きな糧になってくれる財産になると思います。今、全力で競技生活に打ち込めることに感謝して、とことんやりきること。それがスポーツ、さらには自分の人生と真剣に向き合うことに繋がると思うので、そういった部分を一番に、今を頑張りきってほしいなと思います。
写真/吉田友佳様、ヨネックス株式会社ご提供 文/秋山彩惠
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