小学3年生から社会人2年目まで野球一筋で活躍、現在はビジネスパーソンとして会社員と自社代表取締役の二足の草鞋で活躍中の國正光(くにまさ・ひかる)さん。「その人がその人らしく生きていけるようにお手伝いしたい」そう話す國正さんも、かつてはアスリートからのキャリアチェンジで思い悩んだ1人でした。野球に懸けてきたバックグラウンドをはじめ、アスリートだからこそ培ってこられたスキルやキャリアを社会で輝かせるためのヒントを、前編・後編にわたって紐解きます。(写真:株式会社イニアスの皆さんと國正さん(写真中央))
PROFILE【國正光】
1991年生まれ、神奈川県出身。小学3年生から社会人2年目まで野球を続け、怪我を機に現役を引退。現在は株式会社リクルートにて人事採用業務に従事する傍ら、「人が熱中できるきっかけとなる場所を創りたい」との思いから、株式会社iniasuにて代表取締役をつとめる。
▶【アスリートのセカンドキャリア】「キャリアチェンジは〝逃げ〟じゃない」〝競技生活=人生〟からアップデートしていくためにはこちらから
〝何者かになりたい〟が起業のきっかけ
怪我で野球を引退後、株式会社リクルートに転職。転職時はどんな仕事を希望されていたのですか?
前職((株)カナフレックスコーポレーション)では品質管理を担っていたので、他の人と接したり、協力しながらやるというよりは、1人で黙々と仕事をこなす業務だったので、何か具体的なスキルが身に付いている実感がなかったんです。なので、新しい環境で〝〇〇ができる國正光〟という看板をどう作っていこうかと考えた時、1番イメージしやすかったのが営業だったので、営業の仕事に従事したいと考えていました。
その中でも、特に担当したいなと思っていたのが法人側の営業。話が遡るのですが、卒業論文でアップル社に関する市場獲得について調べていた時に、自分が1度も聞いたことのない企業がたくさんあって…。そして、それを動かしている人たちもたくさんいることを知った時に、「こんなに社会に影響を与えられる人たちってすごいな」と素直に感動したんです。その時の素直な思いが今の仕事の起点になっているんじゃないかと思います。
株式会社リクルートに入社後、2021年にご自身の株式会社iniasuを立ち上げられましたが、きっかけは?
会社立ち上げの理由は大きく3つあります。1つは、30歳までに何者かになりたい、自分自身のラベルが欲しいなという思いがすごくあったことです。これは医者だった祖父の影響が大きいのですが、祖父が亡くなった時、本当にたくさんの方が祖父に対する感謝の気持ちを伝えに来て下さって…。そういう場に居合わせた時に、社会や身近な人に何かしらの影響を与えられる人間になりたいと強く感じました。
2つめは、1つめとも少し似ているんですが、自分に付加価値を付けたいと思う気持ちが強かったことです。株式会社リクルートで働き始めて、仕事に誇りをもっていたし、何より楽しくて…。最初は「リクルートの営業です」と声高らかに言っていたんですが、当時、ある経営者の方から「で、君は何ができるの?」と言われたことがあったんですよね。「いや、リクルートの営業っていっぱいいいるからさ。君は何ができるのかと思って」と言われた時に、「あれ?なんか俺、自分で一生懸命やってたつもりだったけど、なんなんだろう」とすごくモヤモヤしてしまったんですよね。
3つめに、これから20~30年、熱量をもって続けていけることを始めようという気持ちが強かったことです。1つめと2つめの思いを実際に形にしてみようというところで、実際に野球教室をやってみたりもしたのですが、自分自身が影響を与えられる範囲は30~40人しかいない。それを20年~30年続けていけるかと考えると、あまりイメージが湧かなかったんですよね。もっと社会の構造上、大きくインパクトが与えられることってないのかなと考えたことが、今の事業を始めるきっかけになりました。
株式会社iniasuではどんな事業をされているんですか?
スポーツチームやアスリート向けのコーチングサービスの提供や、組織コンサルティングサービスを提供しています。
アスリートの皆さんは、現役生活を邁進しながらも、いろんな課題やアクシデント、キャリアチェンジについてさまざまな葛藤を抱えています。しかし、それを上手く周囲に共有できなかったり、自分自身の中で消化できなかったりするパターンが多いので、そういった部分を第三者である私たちからの問いかけによって、自分自身の思考が整理されて、これからのプランも明確になって、アクションもどんどん積極的になるというスパイラルを実現できるようなお手伝いをさせてもらっています。
また、チームや組織の指導者の皆さんに対して、どうやったらチームに所属する選手や子どもたちがポテンシャルを開放しきれるのかということに軸足を置いて、指導におけるコミュニケーションのハウツーを提供することにも力を入れています。
〝生きたいように生きていけるために〟夢の実現に向けてできることを
株式会社リクルートでの本業と株式会社iniasuでの業務、2足の草鞋で働くことについてはどのように感じていますか?
傍から見たら大変そうに見えるんだろうなとは思いますが、僕自身は楽しいですね。もちろん大変なこともありますが、自分自身がやりたいことをやれているから頑張れるという部分がすごく大きいんじゃないかと思います。
その気持ちの根底は、小学生の時に体験した〝自分が決めたことだからこそ楽しめる〟ということだと思っています。誰かに作れと言われた会社でもありませんし、自分自身の経験から〝こういうことが必要だ〟と思ったことを会社として表現してるだけなので、もちろん苦しいこともたくさんありますけど、それ以上に〝人のために人生を生きているな〟という感覚がすごく幸せだなと感じています。
株式会社iniasuの事業で大切にしていることを教えてください。
株式会社iniasuの事業に関しては、まさに〝思い先行型〟なんです。
それこそ、この事業を立ち上げようと思った時に、さまざまな経営者の方にお話を聞きに行ったんです。その中で、「自分が思いを持って動かせる事業じゃないと続かないよ」という言葉をいただいて…。あたりまえのことかもしれないんですけど、当時の僕にはその言葉がすごく刺さったんですよね。マーケット的に旨味があるからという理由も間違いではないけれど、「いい意味で國正くんは不器用だから、好きなことど真ん中で突き進んだほうが楽しいと思うし、それで上手くいかなくても〝思い〟があればちゃんと考えることができると思うから」というふうに背中を押していただきました。
そういったエピソードもあって、〝夢中になる〟ということと〝自分の好きなことに没頭する〟ということを、株式会社iniasuでは大切にしています。後先のことを考えることももちろん大切なことではあるのですが、今生きている時間をどれだけ大切にして、アクションしていけるかというところからしか、本当に自分がやりたいことや好きなことって見えてこないんじゃないかと思います。
株式会社iniasuの事業を通じて〝伝えたいこと〟はありますか?
人間ってどうしても、何かをやろうとして壁が出てきてしまった時、どうしてもできない理由を探してしまうと思うんです。1人で考えているとモヤモヤしてきてしまって、ネガティブに考えてしまいがちですよね。そういった時に、僕たちのアプローチでそのモヤモヤを取り除いてあげたいなと思っています。
僕たちが掲げる〝挑戦する人と組織の才能を開放して社会に還元する〟というビジョンに向かって、溢れるポテンシャルを持つすべての人に、いきいきと輝くきっかけを提供していきたいです。その人自身が生きたいように生きていけるお手伝いをすることで、その人自身の才能をしっかり解放させてあげることができたらと思っています。
キャリアチェンジは〝逃げ〟じゃない
國正さんが描くこれからのビジョンを教えてください。
〝もったいないをなくしたい〟という一言に尽きるかなと思います。人はそれぞれ、絶対にいい所があるのに、それが発揮されない状況や考え方、そしてアクションが、〝この人、もっとこうしたら良くなるのに〟という状態を作り出してしまうんじゃないかと思います。そういった状況を極限まで無くしていきたい、という思いが強いですね。〝もったいない〟という状態からどう脱却していくかということにフォーカスして、自分自身をアップデートしていくことへのハードルを低くしていきたいなと思っています。
特にアスリートの場合、あれだけスポーツの現場でいきいきと輝いていたのに、社会に出た瞬間、やりがいを見失ってしまったり、自分自身のポテンシャルを開放しきれないというシーンをたくさん見てきました。そういった経験も踏まえて、〝もったいないをなくす〟というのは、株式会社iniasuにとっても僕にとっても、すごく大切にしたいビジョンです。
セカンドキャリアやデュアルキャリアを考える現役アスリートの皆さんに伝えたいことはありますか?
〝競技生活=自分の人生ではない〟ということはしっかり伝えたいなと思います。僕もそうだったのですが、スポーツをやってる時はスポーツが1番楽しくて1番の生きがいで、自分を表現する1番のツールだと思っていました。〝自分には野球しかない〟とすら感じていましたが、スポーツから離れてみて、もちろん紆余曲折はありましたが、今もすごく楽しいんですよね。〝野球をやっていなくたって、心から楽しいと思える毎日がある〟ということは、すごく伝えたいなと思っています。
これから自分の人生がどうなっていくのかが、すごく楽しみなんです。今、自分自身が見ていること、知っていることが全てじゃなくて、そこからどのようにアップデートしていくかのほうがすごく大事。これからの人生をいかに楽しめるか、どのようにアップデートしていくのかということにシフトしていくのは逃げではないんだ、ということを伝えたいなと思いますね。
また、〝自分をアップデートしていくことを恐れない〟ということも大切です。僕自身も株式会社リクルートに入社したての頃、過去の栄光を捨てきれず、自分本位の提案ばかりしてしまっていた時があったんです。そんな時、当時の上司の方から「いつまで野球をやってた自分で生きているんだ」と言われたことがあって、すごくグサッときてしまったことがありました。野球をやっていると、ファンの方が応援して下さったり、企業の方から商品を勧めていただいたり、何だか自分がすごい人間のように思えてしまっていたんですよね。でも、その一言のお陰で、〝もう野球選手じゃないのに、そういう看板を捨てるのが自分じゃなくなってしまうような気がして、何だか怖かったんだな〟と気づいて、すごく涙がでてきて…。〝あ、自分すごく強がってたんだな〟と気づくきっかけになったことを覚えています。
セカンドキャリアやデュアルキャリアを邁進する〝新しい自分〟を始めていく時は、今までの栄光はフルリセットして、フレッシュな気持ちで吸収していく姿勢や気持ちがすごく大切だと思います。過去にとらわれず、いい意味でそれを捨てて、新しい目的地へ向かって走っていくことが重要。そうすれば、きっと道は拓けていくはずなので、まずは〝ポテンシャルを開放することを自分自身で決める〟、というところからスタートしてほしいなと思います。
▸【前編】はこちらから
取材・文/秋山彩惠 写真/國正光さんご提供
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