特集2021.10.25

【スポーツ指導超会議】「できない」を「できる」に変える! スポーツ指導の”革命者”たち

スポーツの指導やコーチング経験がある方には、スポーツ特有の感覚的なものが多く、再現性が低いという悩みを抱えたことがある方も多いのではないでしょうか。そんな悩みを解決に導くため、積極的に活動している方々がいます。

運動神経・センスを向上させるトレーニングプログラム『バネトレ』のトレーナーでもあり、『スポーツ指導超会議』を運営する株式会社HATHM(はずむ)代表取締役の東信幸さん。そして『スポーツ指導超会議』の共同運営者であり、ソチ五輪フィギュアスケート日本代表(ペア)の経歴を持つ高橋成美さんです。

今回は、それぞれの競技キャリアから、お二人の出会い、そして『スポーツ指導超会議』の具体的な取り組みについて、インタビューで詳しく伺いました。ぜひご覧ください。

インドア派で運動音痴の少年が『バネトレ』で劇的進化! 東 信幸さんの場合

東さんとスポーツとのかかわりは?

東:学生時代は約14年にわたりフィギュアスケートをやっていました。でも、元々は運動がまったくできず、いわゆる運動音痴だったんです。

本格的にフィギュアスケートをしていた方が、運動が苦手だったとは意外です…!

東:どちらかというと、家でゲームしている方が好きなタイプでした。(笑) いま振り返ってみると、いわゆる部活ではなく、学校とは別のコミュニティで活動できたため、自分と周りを比べなくて良かったし、個人競技で自分がひたすら努力すれば結果が出ることが、ゲーム少年だった僕にも続けることができた理由だと思います。

劇的に進化したと自覚されるのはいつごろですか?

東:高校時代に伸び悩んだ時期があったんです。その頃、出会ったのが『バネトレ』というトレーニングプログラムを教えてくださった先生でした。
そこから演技力やスキルが劇的に向上するという経験をしました。

具体的にどれほど効果があったのですか?

東: 2回転ジャンプしか飛べなかった私が3回転ジャンプを4種類も飛べるようになったのです。フィギュアスケートでは、通常だと小学校3~4年生時で飛べていないと「才能がない」と言われてしまうものなのですが、
私が大学2年生で飛べるようになったという事例は非現実的とも言える出来事でした。おかげで、東京都の特別強化選手にも選出していただき、代表選手として国体にも出場することが出来ました。『バネトレ』は運動音痴で、体育も大嫌いだった私が劇的に変わったトレーニング、この経験がのちに『バネトレ』を世に広めたいという思いに繋がっていきます。

【バネトレ】
身体の動かし方のベースとなるトレーニングで、どんなスポーツにも応用が可能。
走る、投げる、跳ぶ、転がるなど、「体育」につながる体の使い方・動かし方を、バネトレやゲーム的活動を通して「身体をバネのように上手く弾ませる感覚」を身につけ、運動神経・センスを向上させるトレーニングプログラムです。
(株式会社HATHM WEBSITE より http://hathm.com/index.html

遅咲きのフィギュアスケート人生 ソチ五輪代表 高橋成美さんに聞く

高橋さんとフィギュアスケートとの出会いは?

高橋:3歳から始め、26歳の引退まで選手として打ち込んできました。小学校4年生のときに父親の転勤の都合で中国に渡り、そこでペア競技に出会ったことがキッカケとなって、日本代表としての活動もさせてもらうことができました。
   (主な戦歴:2012年世界選手権ペア銅メダル、ソチ五輪出場)

中国に移住したことがターニングポイントになったんですね。

高橋:父親の転勤が中国かアメリカになるという話題を耳にしたんです。私はまだ小学生でしたが、当時の中国代表で有名だったフィギュアスケート選手と一緒に練習したい、学びたいという気持ちを持っていたので、そのことを直談判して父を説得したことがキッカケになり、中国が転勤先になった というエピソードもあります。(笑) 

直談判!すごい… (笑)

高橋:私は遅咲きの選手でした。シニアデビューが19歳だったのですが、当初なかなか成績が上がらず、他のシングルスケーターはどんどん世界の大きな舞台で活躍するなか、私だけが地味に活動していたという感じがありました。大学を卒業して選手生命を終えるというのが日本のフィギュアスケート界の常識という風潮もあったので、周りから「いつ選手辞めるの?」という話ばかりされてましたね。

『バネトレ』と出会ったのはその頃ですね

高橋:遅咲きで20歳を過ぎてから世界で認められるような選手になることができたのですが、その理由のひとつが『バネトレ』と出会ったことでした。 『バネトレ』はしっかりとした理論をもとに教えてもらえるため、才能だけでなく、理論に基づいて運動の再現が可能になります。自分の努力次第で変化を期待することができるという点にすごく勇気をもらうことができました。楽に体を動かして、自分の能力をより高められることに気づき、そこからさらに、世界選手権からオリンピックへつながるきっかけになりました。
壁にぶつかっていた20歳という年齢から自分を高められたのはバネトレがあったからだと思います。

スポーツ界の仕組みを変える出会いの場 『スポーツ指導超会議』

アスリートとしての人生を変えた『バネトレ』をきっかけに出会った 東さんと髙橋さん。
二人の出会いが新たなプロジェクト『スポーツ指導超会議』を発動させました。

おふたりが取り組まれている、現在の活動について教えてください

東:『スポーツ指導超会議』というネーミングの活動です。運動音痴をなくすことが私のミッションでもあるのですが、現状のスポーツ競技の世界はそれぞれが単独で、活動していると感じたからです。あらゆるスポーツに応用出来る『バネトレ』を通じて、横のつながり、ネットワークを作れるのでは?と思いました。閉鎖的な環境を打破して横の繋がりを強化していき、スポーツの価値を高めていく取り組みをすべきだと。
『スポーツ指導超会議』は「全てのスポーツ指導の基盤を創る」という目的のもとに運営しています。 スポーツ特有の感覚的で再現性が低い という悩みの解決、アスリート・指導者・トレーナーらの関係者がそれぞれの知識や経験の限界を補うための情報共有や、学び交流できる場を目指しています。

「学びの時間」という月に1度のイベントもあると伺いました。どのようなことを実施されているのですか?

高橋:「超会議セミナー」という研究セッションですね。スポーツビジネスの話題や、アスリートのメンタル強化・コンディショニング、スポーツとメディアの関係性、トレーナーによる現場の実状、最新鋭の動作分析についてなど、毎回、オリンピアンや国内のトップアスリート、優秀な指導者ら、素敵なゲストにお越しいただいています。

東:知識を伝えていくことは難しいので、考え方を共有していく場にすることに重きを置いています。また、参加者が互いの経験や知識アウトプットをするためのディスカッションも大切にしています。
この月イチの「超会議セミナー」、例を挙げるとこの2021年11月度は、「トップアスリートの救世主!ゴッドハンドが伝える成功の考え方!」をテーマに、近畿医療専門学校創立者・理事長の小林英健さんをお招きして開催します。
■日時:2021年11月20日(土)19:00-21:30
■料金:非会員5500円(会員無料)
■詳細:
https://hathm-study.jp/news-28/

過去には、「日本のスポーツを世界に!」というテーマでアイスホッケーの日本代表 三浦優希選手、プロバスケットのスペインリーグで活躍する草野佑太選手らによるトークセッションや、スポーツアナウンサー  田中大貴さんによる「メディア視点!スポーツの価値を高めるためには?」というテーマで開催しました。

超会議セミナーの事例

方法や手段だけではなく「なぜやるのか」という意義までシェアされているんですね。

高橋:そこにはとても自信があります! 私自身も1年前とは別人格になっているような成長を感じています。毎回刺激を受けて行動力や具体性が増し、さまざまな方の失敗談や経験談を学べたことで、ネガティブになるのではなく自分のリスクヘッジに活かせていることが多いので、以前よりも積極的になれた感覚があります。

どんな方々が参加されているのですか?

東:現在200名以上の方にご参加いただいています。アスリート、トレーナー、整体師、管理栄養士、弁護士、キャリアアドバイザーなど多岐に渡ります。

同じ思いを共有する仲間とスポーツ指導の価値を高めていきたい 「できないこと」を分解して考えると、誰でも「できる」ようになる

今後の企画案はありますか?

東:7月から『スポーツ指導超会議』のメンバ―で構成された6団体がスタジオで各々のコンテンツを展開しており、「縄跳び世界チャンピオンの縄跳び教室」や「ドッジボール日本代表のドッジボール教室」など、専門家による教室を開催しています。

スポーツを敬遠してしまっている方々でも、夢が広がるきっかけになりそうですね。

東:私のなかでは、「できないことを、できないままにしているから、できない」のだと思っています。「できないこと」を分解して考えると、誰でも「できる」ようになります。それをどこまで自分の課題に落とし込めるかによって、次にやるべきことが見えてきます。

細かい「できる」を積み重ねて行くイメージですね!

東:まさにその通りです!『バネトレ』を例に挙げると、私はジャンプが苦手だったのですが、そもそもジャンプの正しい跳び方なんて誰にも教わったことがなかったんです。ただ、明らかに上手い跳び方と下手な跳び方があるんです。その理論を説明できないという状態は跳び方を分解できていないだけで、関節の使い方やタイミングなどの原因を見るだけで、必ず課題は解決していけます。

高橋:私も幼い頃に、ジャンプは「足を曲げてから伸ばす」と言われましたが、それをたまたま理解できたから上手く跳べただけで、言葉の解釈によっては「足を曲げてから伸ばす」という動作にはいろんな動き方があります。そのことを指導者が理解していれば、子どもが上手に跳べないことを諦めたりする可能性も格段に減ると思います。

高橋さん(左)東さん(右)

最後に、おふたりの今後の展望を聞かせてください!

東:再現性のある仕組みづくりの中でスポーツ指導の価値をどんどん高めていきたいと考えています。これまでの競技経験で得られたことが、そのスポーツのなかでしか発揮できない強みだと感じてしまっていることが非常に多いです。各自の強みを可視化することで、スポーツ活動以外に活かしていただきたいですね。

高橋:横の繋がりを広めること、専門性を高めること、人の何倍も努力をして何人分もの能力を持つ意識は大切にしています。自分の専門性を上げつつ、仲間を作ることは非常に大切だと思います。そんな場を生み出し続けられる存在でいたいですね。

取材後記

おふたりの実体験から生まれた気づきが、スポーツという領域を超えて社会にまで影響をおよぼす日が心から楽しみになるような、学びの多い取材となりました。
また、おふたりから「誰かのためにできることを」という想いを溢れるほどに感じました。この熱量がいい起爆剤となっていくことを、スポーツに関わる一員として心から願うばかりです。今後の『スポーツ指導超会議』の展開にから目が離せません!