特集2021.08.17

カバディの普及を目指して。元日本代表キャプテン・下川正將の提言

漫画やアニメ化されるなど、話題沸騰中の「カバディ」。世界大会も開催され、今では日本でも着々と競技人口を伸ばしています。

今回は、カバディの元日本代表・下川正將選手にインタビューしました。下川選手は世界でメダルを獲得し、インドのプロリーグでも活躍。カバディの魅力とビジョンを伺いました。

インタビューに答えてくださった下川正將選手

大学でのカバディでの出会い。抱き始めた日本代表への憧れ

下川選手本日はよろしくお願いします!早速なのですが、下川選手がカバディを始めたきっかけから教えていただけますでしょうか?

大正大学入学後、部活動紹介でカバディ部を知ったのがカバディとの出会いです。

ルール上、鬼ごっこに近かったので最初はなめていました(笑)けど、やってみたらタッチできなかったり、簡単に逃げられたりして……。できそうなのにできなかったことに奥深さを感じ、おもしろい!と思って即入部を決めました。正直、中高は硬式野球部で、大学ではスポーツやるつもりなかったですけどね(笑)

野球からカバディへの転身!意外ですよね!そもそもカバディの部活動が存在しているのがビックリです!

そうですよね。大正大学が仏教系の大学でインドとつながりがあったため、教授の方が日本に持って来て、同好会から部活になっていったそうです。当時部員は20〜35人程度でした。

だから部活動が存在していて、出会えたわけですね!始めてからはいかがでしたか?

始めた頃はただただ楽しかったですね。当初は日本代表になりたいとかはあまり思っていませんでした。ただ、部活のOBの日本代表選手とよくご一緒していて、そこで「日の丸を背負って外国人選手と戦っている姿ってかっこいいな」と感じるようになりました。

しかし、入部して1年後の大学2年生のとき、国内大会の試合中タックルを受けた際に足元を掴まれ、足首を骨折してしまいました。その後1年近くカバディができなくて、正直つらかったですね。でも、入院中も家族や仲間がお見舞いに来てくれて「自分が今できることをやろう」と気持ちを切り替えることができました。たまたま誕生日が早生まれ(1989年3月6日)だった偶然も相まって、アンダー20の日本代表枠に入ることができ、キャプテンとして就任しました。

今思えば、怪我があったからこそ、外から見るカバディの視点やチームに対しての違った世界に触れることができたお陰で、キャプテンとしても大いに役に立ったのでよかったです。

写真ⅰ:試合中の下川選手(提供:下川選手)

個人競技とチーム競技の融合。絶妙な駆け引きがカバディのおもしろさ

大怪我の経験もプラスと糧に変えられて日本代表キャプテンに就任されたのは本当にすごいですよね。それだけ想いが強く、怪我があっても続けられた下川選手にとってのカバディの魅力ってなんだと思いますか?

まずはルール上、「守備側でも得点が取れる」という点ですかね。これは、他のスポーツには無いと思うんですよね。基本攻撃だけが得点できる。そんな中でカバディは「誰でも主役になれる」というのがいいなと感じました。

次にあるのが「個人競技とチーム競技の融合」です。攻撃側は正直個人競技に近いものですが、守備側は7人全員で連携します。

そのため、「絶妙な駆け引き」が常に存在していて、どれだけ「相手の考えと逆」を考えられるか、いかに「相手を騙せる」動きができるか頭と身体を両方使うのも魅力ですね。

下川選手はそんな攻防がある中で得意としているものはなんでしょうか?

本来体格が少しでも大きい方が有利に思われがちで、確かに大きい方がタックルだったり、パワーの面で勝ったりする点はあります。(※規定により現在85kgまでの体重制限がある)

ただし、それだけで有利となるわけではありません。僕自身、そこまで大きくはないのですが、その分、「ボディフェイント」「焦らし」の技術を用いて、陣形を崩すために相手を惑わせながら細かに動いたり、戦略で相手を誘い出して触れて持ち帰ったりなど、駆け引きの部分と細かな動きを得意としています。

写真ⅱ:練習中の下川選手(黒いユニフォーム)

カバディの日本の現状は?環境づくりに課題

ありがとうございます!確かに下川選手が仰る通り、「奥深い」ですね。そんな中で下川選手が2014年から2018年にかけて日本代表のキャプテンをされてきた背景から今の日本チームは世界と比べてどう思われますか?

率直に思うのが「チーム連携は強いが、一人ひとりの爆発力が課題」と思っています。

現在、日本の立ち位置は世界的に見るとまだまだ確立されていないところもあり、2010年に私が在籍していたときに銅メダルも獲得したこともありますが、やはり今は二大巨頭である「インド」「イラン」が強いですね。

インドは発祥というのもあり、競技人口も多く、ジュニアから大会が開催されるなど選手層も厚く、幅広いです。ただ、前回の4年に一度開催されるアジア大会ではインドがイランに男女共に負けているんですよ。日本はまず銅メダルをまた狙い、その先に金メダルを狙っていきたいと思っています。

私自身、インドのプロリーグにも参加していました。言葉も通じない、トッププロが集まる中での活動は正直つらいものもあり、なかなか試合にも出れない日々は悔しい気持ちでいっぱいになりました。けれど、その経験があったからこそ世界を知ってしまい、もっと味わいたい、もっと日本でも周りに知ってほしいという思いが一段と強くなり、育成にも興味が湧き始め、世界を体験できたからこそ日本のチーム課題もより見えてくるようになりました。

世界を知っている下川選手だからこそ言える説得力があるお話ですよね。日本での活動は今後どうお考えなんですか?

僕自身最初、カバディをしながら仕事として築地市場で働いていました。当時カバディはもちろん続けたかったので、「平日18時以降練習がある」「年に数回 海外遠征で休む」という条件が必須だったのですが、いろんな企業から断られまして……。

そこで出会ったのが築地市場でした。朝3時半から仕事だったため、生活リズムに慣れるまで大変でしたが、その分、仕事が終わりには仮眠を取ってから練習に行けたり、カバディの活動も応援してくだったり、そんな環境は本当にありがたかったです。

カバディを続けるには、もちろん生活をしないといけません。その点はまだまだ整備が必要だと感じますね。また、「カバディを見たい!体験したい!という思いに応える環境が少ない」ことも課題です。

ありがたいことに、カバディがメインの漫画やアニメのお陰で日本の中でも認知度は高まってきています。

ただ、興味ある!試合見てみたい!体験したい!と思っていただいても、試合数がまだまだ少なかったり、各都道府県での体験会が少なかったりと、「環境作り」が追いついていません。

特に「トップ選手に向けた環境作り」も必要です。競技人口を増やすだけでなく、トップ選手を目指せる場所を作ることで、トップリーグができたりすると、より憧れられるようになっていくと思うんです。

自分が世界を見てきたからこそできることを積極的に行なっていきたいと思います。

課題もありますが、それに対する下川選手の様々な活動に対する意欲や熱量が高いのがとても素敵でした。ただ、やはり世界や日本代表経験もあった下川選手だからこそ感じる日本の環境に対する課題感が多いのも現実なんですね。

そうですね。もちろん認知度向上もさらに大事になってくると思います。

僕も当初は、名刺を自分で作って、交流会に積極的に参加して普及に努めていました。ちなみに今の名刺はすでに5代目です(笑)
知らない人に知ってもらったら嬉しいし、その活動のおかげなのか、今ではよく講習会や体験会に呼んでもらえたり、問い合わせも増えてきたりしているので、身を持って認知度が少しでも上がっている実感は嬉しいです。

さらに最近嬉しかったのは、先ほどご紹介したカバディの漫画化やアニメ化の影響が海外にも伝わっていて、インドの方からもアニメを見て「あれ、すごいね」って連絡もらったり、韓国のスター選手にも褒めていただけたりしました。

それだけまだ世界的にも認知が少ない国もあるからこそ、日本からのこういう発信がカバディ界に革命を与えていると思うとより嬉しく感じますね

写真ⅲ:カバディの練習風景

アジア大会でのメダル獲得が目標!日本のカバディ界の育成も視野に入れて

今後ますます下川選手はじめとして、日本でもっとカバディという存在が知れ渡り、それに伴った環境がさらに整備されていくことを私もメディアを通してご協力できたらと思いました。最後になりますが、読者の方にメッセージをお願いします。

まずは灼熱カバディを読んでみてほしいです。

それから体験会への参加や観戦に足を運んでもらえると嬉しいです。

私自身も今後選手として、アジア大会でメダル獲得を目指して精進します。そして、普及活動として、見る場、プレーする場の整備をし、環境を変えていきたい。

ただただカバディを楽しめる場を設けていきたいのです。

こういう活動も現役選手だからこその説得力ってあると思うんです。

引退した後はまだわからないですが、日本のカバディ界の育成なども視野に入れていきたいですね。

 

取材後記

約1時間のインタビューの中でもひしひしと伝わる下川選手の熱い想いと、カバディの魅力に取り憑かれたあっというまの時間でした。

少しでも本記事にご興味持ってくださった方は下川選手、そしてカバディの普及にご協力の思いを込めて、SNSでのシェアをお願いします。

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