特集2021.08.31

大きな怪我がきっかけに。地元愛にあふれるプロバスケ選手が経営者との二刀流を選択した想いとは?

日本初のプロリーグである「Bリーグ」が誕生し、東京五輪で日本代表選手が躍動するなど、国内でも注目される機会が増えたバスケットボール。今となっては海外で活躍する選手も目立つようになりましたが、その前例となるキャリアを作ったひとりが草野佑太選手です。

現在では、経営者としても手腕を振るう草野選手。アスリートとしてのキャリアや、選手と経営者の二刀流を貫く理由を詳しく伺いました。

小4でバスケを始め、中2のときにU-16の日本代表候補に選出

草野選手がバスケットボールを始めたきっかけを教えてください!

当時から身長が大きかったこともあったのですが、友人に誘われてバスケットボールをやってみたときに楽しかったことがきっかけですね。簡単な理由ですが(笑)バスケットボールは小学校4年生からずっと続けてきました。

そこから、プロバスケットボール選手になろうと思ったのはいつ頃ですか?

中学2年生のときにU-16の日本代表候補に選出していただいて、その頃から本格的にバスケットボールで食べていきたいなと思い始めました。

ただ、最も大きかった理由は、私自身が憧れていた角野亮伍さん(現在はBリーグの大阪エヴェッサに所属)が、ロールモデルとして高校の先輩にいらっしゃったことですね。とても刺激を受けることが多く、面倒もたくさん見てくださったので、バスケットボールだけでなく日々の過ごし方なども大変参考になりました。

そこから、「バスケットボールを学びたい」という自分の思いを叶えるため、数校からオファーもいただいていた大学進学ではなく、プロの道を選びました。

写真ⅰ:岩手時代の草野選手(提供:草野選手)

プロプレーヤーとなり、海外挑戦のためスペインへ。

あくまで「海外に行くこと」という最終目標にいち早く到達するための判断をご自身でなさったんですね。実際にプロ選手となって、どうでしたか?

実際に練習にも参加してみて、スキル面でもフィジカル面でもレベルの高さを感じました。大卒で体格的にも成熟している先輩はもちろん、アメリカ出身のプレーヤーも在籍していて、そういった選手たちに混ざってプレーすることになったことが一番の変化でしたね。最初の1年間は準備期間のような、あまり思うように行動できなかった期間でした。

どうやってその壁は乗り越えられたんですか?

とにかく慣れるしかなかったです。イメージや経験がないと乗り越えられない課題もあったので、時間をかけてコツコツ取り組みました。その結果、2年目から少しずつですが結果を出せるようになってきました。

写真ⅱ:スペインでの選手時代(提供:草野選手)

その後、海外(スペイン)に挑戦しようと思ったのは、どうしてですか?

選手の育成にとても熱心な国だったからです。前回のワールドカップでも世界一になっていて、自分の目標であるNBAにもスペインリーグ出身者が3~4割ほど在籍するようなグローバルなリーグになっているので、通過点としてはベストだと思っていました。

なるほど。あくまで、最終的な目標は渡米だったですね。スペインにおける経験で、最も印象に残っていることは何ですか?

考え方や価値観もそうですが、環境も日本とはまったく違いました。専用施設があって、1日中使えるのが当たり前でしたね。ただ、海外は90分ぐらいしか全体練習はしなかったので、当時所属していた球団にあったユースや2部チームなど、「すべてのカテゴリーの練習に参加させてくれ」と自ら直談判して、6時間ぶっ続けで練習していたりしましたね。自分が学ぶために行ったということもありましたし。若いからできたことかもしれません(笑)

すべては「誰かのため」に。アスリートと経営者の二刀流

現在、選手として活動されながら経営者としての顔をお持ちですが、現役と並行して起業されたのは、どうしてですか?

プロ4年目のシーズンに、右半身が麻痺するという運動障害に見舞われました。歩くことも困難になってしまい、「動けない自分の価値って何だろう?」って考えたんですよ。

そこでいろいろと、今後の自分のキャリアについても考えるようになったんです。海外では自国でビジネスをしながらスポーツに打ち込んでいるロールモデルが多く、そういった方々のことをとても魅力的に感じていました。サラリーの金額を度外視して、プロとしていいチーム選びができるというようなメリットも感じたので、私も挑戦しようと思いましたね。

そんなメリットもあるんですね!ただ、前例がないなか、怖さはなかったのですか…?

必要だと思ったら、やるしかないという感じです(笑)怖さはないかもしれません。これまで高卒でプロに挑戦したことなども、誰かのマネとかではなかったので抵抗感もありませんでした。

すごいですね!なかなか誰にでもできることではないです。ちなみに、会社の事業内容やビジョンについても教えていただけますか?

地元である相模原市のバスケットボールチーム「相模原プロセス』を、プロリーグに参入させるための活動をメインにしています。その動きに合わせて、相模原の競技発展や青少年育成にも力を入れています。

3人制や5人制バスケットボールで注目に値する人材をここからたくさん輩出して、バスケットボールシーンにおいて「相模原プロセス』出身の選手がたくさん活躍している状況を作りたいですね。そうすることで、市外や県外からも多くの人が相模原に目を向けてくれると思うので、地元を盛り上げることにもつなげていきたいです。

写真ⅲ:青少年育成に取り組む草野選手(提供:草野選手)

経営者として行動し始めた際、最初はどんなことから始めたんですか?

お世話になっている方々にまずはたくさんヒアリングして、自分にできることを模索することから始めました。どうせならアスリートとしての活動とビジネスが相互に良い作用をもたらすものにしたいと考えていたので、どんなことができるか想像を働かせていましたね。

その際に、「自分がどうしたいとかではなく、誰かのためになることをしなければいけない」と、いろんな方々に共通して言われました。

とても本質的なコメントだと感じました。ただ、アスリートと経営者の二刀流では、時間の制約なども出てくるかと思います。実際は、どのようなことが大変ですか?

どちらかに時間を割けなくなる懸念はしていましたが、最終的には自分がいなくても回るような経営をしなければいけないと思っていたので、どんなビジネスモデルを作るかで課題は解決できると考えています。まだまだ未熟な部分はありますが、少しずつ理想の形にはなりつつあります。

あと、ビジネスというワードこそ使っていますが、自分の好きなことを楽しみながらやって対価をいただいているだけであって、一般的に言う仕事のような感覚ではないですね。決して大変な感覚はないです。

リアルな話、お金の心配とかなかったんですか?

もちろん心配はありましたが、世の中に必要なことだと思ったので、利益は後からついてくると思いましたね。どの経営者の方からも「最初は投資するつもりでやるべきだ」と言っていただいていたので、その意識で事業はやっていました。

そこからまったくブレずに、いまもビジネスに向き合っていらっしゃるんですね。他にも、経営者として大事にしていることを教えてください。

最も大切にしているのは、当初から変わらず「誰かのためにやる」ってことです。あとは、人と人のつながりを大切にするという部分だけですね。いろんなご縁があって、考えの変化や今の自分があると思うので。

自分次第でどんな道も歩める!誰かの背中を押してあげられる存在に

たくさんのことをこれまでも実現されていますが、今後の夢や目標を教えていただけますか?

選手としては、最終的にアメリカでプレーしたいと思っています。自分なりにも年齢のリミットは決めていて、27歳までにスペインリーグで定着できなければ今後のキャリアを考え直そうと思っています。周囲からは「まだ若い」と言っていただけますが、自分としては「あと3年、3シーズンしかない」と思うと、比較的焦ってはいますね。

いよいよ、最終的な目標へのチャレンジに向かって行かれるんですね。最後になりますが、草野選手が人として目指したいビジョンを教えてください!

パイオニアのような存在でいたいですね。自分が行動し、これまで誰も歩んできたことがないキャリアを切り拓けたので、エリートではなくても自分次第でどんな道でも歩めるということを伝えて、いろんな想いを持つ人の背中を押してあげたいです。

写真ⅳ:インタビュー中の草野選手

取材後記

過去に前例のないキャリアやチャレンジに対しても、まったく臆することなく挑んできた草野選手。「自分は運がよかった」と語ってくださりましたが、本質的に問題や課題に常に向き合ってこられたからこそ、今の草野選手がいらっしゃるのだと感じました。

また、経営者として貫いてこられた「誰かのためにやる」という想いにも、強い意志を感じた取材となりました。選手と経営者の二刀流を楽しんでいる草野選手は、これからもパイオニアとして、日本バスケットボール界の新たな可能性を私たちに見せてくれるに違いありません。

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