特集2022.01.27
【医療 x スポーツ】南港病院の院長 三木康彰さん(62)地元のスポーツチームのように地域に “病院のファンを増やしたい ” ハードなトライアスロンが教えてくれた人生の取り組み方。
今回お話を聞いたのは、大阪市住之江区にある南港病院の院長 三木康彰(みき やすあき)さん(62歳)。水泳3.8km、自転車180km、マラソン42kmの3種目を連続して行うアイアンマンレースで、国内年代別5位にランクインした実力者です。
定期的にラジねえ。と一緒にラジオ体操をしてくださり、医療現場から積極的に地域貢献に携わっています。医師としての取り組み、スポーツへの向き合い方を語っていただきました!
目次
三木康彰(みき やすあき)プロフィール
1959年3月26日生まれ 62歳
大阪府出身
川崎医科大学を卒業し、大阪大学第一外科に入局し外科医として勤務していた。
40歳を過ぎた頃から臨床心理学の勉強を始め、現在は南港病院の院長兼理事長を務めながら心療内科の外来をしている。
ユマニチュードって何? “ありがとう” と言われる医療や介護
ラジねえ。:南港病院ではどういったお仕事をされているんですか?
三木:外科だけでなく、認知症の方たちのためにグループホームや特別養護老人ホームで認知症の人のケアについて勉強できるように環境を整備しているところです。近年は小児科や産婦人科を新設して、地域で生まれてから高齢になるまで、診察することができる、医療、介護サービスができるように取り組んでいます。
三木:また、患者さんをケアするにあたって、我々は「ユマニチュード」を取り入れています。
ラジねえ。:ユマニチュード‥?
三木:フランスのケアの方法で、英語にすると「ヒューマニティ」ですかね。患者さんを「自分と同じ人間なんだ」だと思い「人間らしさ」を尊重したケアを行うことです。こちらがよかれと思ってやったことでも、ケアされる側が満足してるとは限らない。だから相手の気持ちや相手の生活をよく見ながら、自分がその立場だったらどうしたらいいのかなと常に考え、「ありがとう」と言われるような医療や介護をしていこうと、スタッフの皆さんと事あるごとに話し合ったり勉強会をしています。全員がユマニチュードをできるようにしていきたい。
ラジねえ。:医療従事者の皆さんはコロナ禍で今大変なことが多いかと思いますが、意識していること、工夫していることはありますか?
三木:感染予防が第一ですね。利用者さんや患者さんに対応するときは手洗いもするし、マスクもするし、場合によってはフェイスシールドをして接っするわけですが、意外とスタッフ同士はマスクを外して食事しながら喋ったり、休憩室で同じソファー、同じ毛布を使ったりするので、300人程度いるスタッフの皆さんには特に注意するようにお願いしています。うちの病院では、感染してしまった人の経路を調べてみても、共有している毛布じゃない?とか、ロッカールームで隣にいた人が咳をしていた、とか。患者さんから感染してしまったという例はほぼないんですよね。
ラジねえ。:スタッフの皆さんの高い意識で感染対策を徹底されていたんですね。
三木:コロナから逃げるわけにはいかないですからね。我々が「コロナ感染が心配だから熱を出してる人を診察しない」なんて言うと、患者さんは非常に困りますよね。だから、今まで通りの診療を続けています。
過酷なレースは人生そのもの?!トライアスロンの魅力
ラジねえ。:三木さんはトライアスロンをしていると伺いました。
三木:8年前から取り組んでいます。きっかけは外科医の先輩で100キロを走るウルトラマラソンをする方がいて「一緒に行かないか?」と誘われ、宮古島の大会に出場したことです。完走する達成感に感動しました。島中の人が応援してくれて、「また来年も来ますね」と伝えたら、「宮古島にはトライスロンの大会もあって、そっちの方がすごいよ」と言われたんです。それから興味を持ち始めて、オリンピアンである西内洋行さんのトライアスロンスクールに入門しました。スイム、バイク、ラン‥いろいろ教えてもらいながら今にいたります。
ラジねえ。:もともと何かスポーツはされていたんですか?
三木:いや。全然。子どもの頃からスポーツとは縁がなかったですね。学業で表彰状をもらったことはあるけど、スポーツではなかった。(笑)
ラジねえ。:トライアスロンはすごくきついイメージがあります。三木さんが競技を続ける理由は何ですか?
三木:過酷だからこそ達成感があるし、練習を一緒にする仲間やライバルがたくさんいることかな。僕の周りのトライスリート(トライアスロンの選手のこと)は尊敬できる人ばかりで、自分にないものをいっぱい持ってる人が多いんです。その人たちの頑張ってる姿を見ると「自分も頑張らなきゃ」って。それは競技中だけじゃなくて、人生のいろんなところでも思うんですよね。苦しいスポーツは本当に人生の糧になると思います。
それから種目が3つあるので、怪我をしてしまっても他の種目に取り組むことができます。僕は今「足底筋膜炎」といって、足の裏を痛めているので走るトレーニングができません。でもバイクやスイムで心肺系のトレーニングをすることができます。
ラジねえ。:それだけ過酷な競技でしたら、途中で「もう無理だ」と心折れそうになるときはないんですか?
三木:マレーシアのランカウイの大会で自転車の事故で鎖骨と肋骨と気胸の大怪我をしたことがあって、そのときはさすがに無理だと思いました。でも、近くで足をつった人がまた走り出すのをみたる、腕がないパラアスリートが走る姿を見たりすると、やっぱり頑張らなきゃとやる気がでます。
気温の高い夏場のレースは特に過酷で、若い人もふらふらになってしまうことがよくあります。そんなときに、僕のような年齢の選手でも30代、40代の若い選手を追い抜くことができるのがトライアスロンの醍醐味です。オーバーエイジが活躍できる競技ってあまりないですよね。最後のフィニッシュラインまで何が起こるかわからないから面白い。
アイアンマンレースは「人生そのものだ」と言う人もいます。初めてレースに出場した人が「こんなにしんどいことを二度とするものか!」と言って、レース後に自分の靴をゴミ箱に投げ捨てていくことがありました。でも、また次の年にはスタートラインに立っていた。チャレンジしたいという思いがなくならないんでしょう。
ラジねえ。:トライアスロンの経験は日常でも生きていますか?
三木:そうですね。“工夫する習慣”がつきました。レースでは、スイムからバイクに移るまで、バイクからランに移るまでに着替える「トランジション」という時間があります。より速いタイムを狙うようになって、いろんなことを考えながら工夫しています。また、より効率的な練習ができるように工夫します。工夫する習慣は仕事にもすごく役立っています。他の選手を真似したり、勉強するのはトライアスロンから身についたと感じますね。トライアスロンはいいことだらけです。(笑)
ラジねえ。:そういった経験や考え方はスタッフの方にも伝えておられますか?
三木:コロナが流行する前は、同じ病院のドクターが毎週木曜日にスタッフを引き連れて近くの大きな公園を走っていました。終わってからみんなでビールを1杯飲んで帰るのが恒例でした。スポーツをきっかけにコミュニケーションするのはすごく素敵だと思います。また病院のみんなで一緒にスポーツを楽しめる日が来るといいな。
地域をひとつに!ラジオ体操で病院のファンを増やしたい
ラジねえ。:ここからは、南港病院スタッフ(栄養科科長)の田貝泉(たがい いずみ)さんにラジオ体操のお話を伺います。南港病院のスタッフの皆さんは住之江区オンラインラジオ体操(ラジねえ。との取り組み)に参加していますが、どんな思いで取り組んでいるんでしょうか?
田貝: 住之江区まちづくりセンターの方からのお誘いがきっかけで始めました。住之江区みんなでひとつになろう!という感じ。私たちスタッフは、コロナ禍で三木院長の後ろについて走り回って「はいはい」って夢中でやってきました。すると、うちの病院の栄養士や実習生に「南港病院は本当に地域に誠実に向き合われていますね」と言われました。周りからそんなふうに見られていたんだなと、嬉しくなりました。三木院長は常日頃「とにかく地域に愛されるようになりなさい」と言われて、それを実行している私たちの活動は誇れることだと思います。
三木:田貝さんが言ったように、愛されるって大切だと思います。病院を信じてもらえる、応援してもらえるファンがいないと成り立たない。ファンをできるだけ多く作れるようにみんなで頑張ってほしいと思います。
田貝:私たちは三木院長が作る道すじを進んでいるだけです(笑)。
三木:田貝さんは突っ走るタイプだから(笑)、私が手綱を引くように方向を示している感じですね。でも田貝さんが突っ走ってくれるから、いろんなチャンスが出てくるし、いろいろ考えさせられることがある。熱心なスタッフの存在はありがたいです。
ラジねえ。:なんだか素敵な関係ですね。
ラジねえ。:三木さんにとってラジオ体操の魅力は何ですか?
三木:ラジオ体操は取り組みやすく継続しやすい。勉強にも仕事にも言えることですが、スポーツって継続することが大切ですよね。毎日計画を立ててトレーニングをしていくことが大事です。
私はこの年齢でトライアスロンを続けていますが、ラジオ体操はもっとご高齢の方もされているし生涯できる運動として素晴らしいと思います。私自身、今後もっと年齢を重ねてもトライアスロンの選手として活躍できるように、トレーニングの一環でラジオ体操を取り入れるなどしたら、さらにいいんじゃないかなと感じています。
ラジねえ。:ぜひ今後も一緒にラジオ体操をやっていきましょう!
“工夫” 次第で人生は変わる 医療従事者からのメッセージ
ラジねえ。:三木さんがこれから実現したいことはありますか?
三木:いま僕は62歳。
トライアスロンって、5歳刻みでカテゴライズされ、エイジランキングが出
るんです。2年前「アイアンマン」というロングディスタンスのトライアス
ロンの大会で、日本ランキングエイジ5位に入ったんですよ。
ラジねえ。:えっ!日本で5位ですか?素晴らしいですね。
三木:僕もすごく嬉しかった。
尊敬する友で、自転車の練習中に事故で亡くなった人がいるんだけど、彼が同年代で1位だったんです。彼が「いつか一緒に世界大会に行こう」って言ってくれて‥。その夢を叶えるのが今の目標です。それに向けて今、トレーニングしています。まあ70、80歳になっても続けていたらいつか叶うかなと思います。(笑)でも、できるだけ早く。
ラジねえ。:本当に頑張ってほしいです。応援しています!
ラジねえ。:最後に、医療現場で働く三木さんからGrowSを見ている方にメッセージをお願いします。
三木:僕は心療内科の外来をしていますが、コロナをきっかけに仕事のストレスが増えたり、家庭でストレスが増えたりする人が多くいます。
どんな物事にも良い面と悪い面があります。コロナだから今までやってきたことができなくなったとか、どうしても悪いところばかりに目が行きますが良いこともあると思います。今まで全然やっていなかったことをやり始めたとか。手洗いとマスクの感染対策を始めて、風邪を引くことがなくなりました。
捉え方を変えてみると、新しい楽しみが出てくるし、諦めていたことを “工夫” することで、できることもあると思います。ぜひ、悪い面ばかり見ずに、 “工夫” して良い面を探すようにしてもらいたいです。
また、繰り返しになりますが、大会や試合、レースの時間はあっという間ですが、自分と向き合い、自分と戦って練習する時間はすごく長い。
その長い時間を大切にしていくといいですね。年齢を重ねていくと、どうしても筋肉が落ちてくるので、ラジオ体操のような運動を継続することが大事だし、生涯運動が大事だなと思っています。
【ラジねえ。取材後期】
三木さんは今後の目標を聞いたとき、目に涙を浮かべながら事故で亡くなったご友人のお話をされていました。・・・「いつか一緒に世界大会にいく」その目標を語る三木さんの想いの強さ、話す姿は輝いて見えました。
医療現場で働く仕事だけでなく、トライアスロンという過酷なスポーツで鍛えられた三木さんの体力、精神力、人間力、全ての力の強さを感じました。その想いをこのGrowSを通じて、より多くの人に届けたい、そして私自身ももっともっと頑張らないといけない!という思いが増し、取材を通じて強いパワーをもらいました!
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