全国に数多くの社会人サッカーチームが存在するなか、地域に根付いた活動やユニークな取り組みが話題となっているクラブチームがあることをご存じでしょうか。そのチームこそ、観光地で有名な神奈川県鎌倉市を本拠地とし、2018年1月に設立されたサッカークラブチーム「鎌倉インターナショナルFC」。今回は、キーパーソンの2名にインタビューさせていただきました。
設立5年目のクラブチームが、どのような経緯で設立されたのか。そして、どのような課題に取り組み、どのような解決策を講じてきたのか。前後編の2部構成でご覧ください。
目次
プロフィール
吉田 健次(よしだ けんじ)
2014年にIT業界からサッカー業界へ転身。カンボジアのプロサッカークラブに就職し、営業・広報・試合運営などを兼任。2016年、帰国後にアビスパ福岡に就職。企画課課長としてマーケティング、試合運営などを担当し、2017年11月より鎌倉インターナショナルFCのGMに就任。
杉之尾 剛太(すぎのお ごうた)
日本体育大学出身。IT企業で10年間勤務。直近はグローバルのコンサルティングファームでベンチャー企業の支援を担当。2021年からCOOとして、鎌倉インターナショナルFCのビジネスオペレーションを統括。
屋台で話した戯言がきっかけ!?鎌倉インターナショナルFC創設の裏側
まず、『鎌倉インターナショナルFC』(以下、鎌倉インテル)とはどんなチームなのか、教えていただけますか?
吉田: もともとは、2012年にJリーグがアジア戦略室というのを設置して、展開していこうという動きをスタートさせていました。
鎌倉インテルが創設されたのはそこから5年後のことです。その間、Jリーグのアジア戦略室を通して様々なクラブや行政の皆さんがシンガポールを視察したのですが、そこでスタジアムのアテンドをしたのが鎌倉インテルの発起人の四方です。
シンガポールにはタンピネス・ハブという街の様々な機能とスタジアムが併設されている複合施設があったのですが、日本ではなかなか取り入れるクラブ・自治体がなく、四方はその状況に悶々としていたようです。
彼は「自分がスタジアムプロジェクトの主体者になれば実現できる!」と思っていたわけです。
今でこそ北海道でボールパーク計画が進んだり、長崎にJapanetスタジアムが建設されるなど新しい取り組みが出てきていますが、2017年当時はなかったのです。
一方で当時私は2012年から約2年間、カンボジアのサッカークラブで仕事をしていました。そこでいろいろと見たり経験したことをもとに、自分がサッカー競技における日本と海外との接点になることで、より大きな価値を社会にもたらすことができる気がしていたところで、四方と出会って意気投合しました。“サッカー”と“インターナショナル”を掛け合わせたら、とても価値のある活動ができるんじゃないか、という発想からスタートしたクラブが鎌倉インテルですね。
ちなみに吉田さんは福岡県のご出身とのことですが、なぜ鎌倉の土地に飛び込むことを選んだのでしょうか?
吉田:発起人の四方とシンガポールの屋台で吞みながら話していた時に、たまたまそこに居合わせたのが鎌倉出身の人だったんです。「鎌倉には有名なサッカーチームはないけど、スタジアムが建てられるような土地はあるから、やってみたらどう?」みたいな会話が、最初のきっかけでした。
たまたま出会った人のふとしたアイデアが実は大きなきっかけになったわけですね。
吉田:そうですね。正直最初はただの戯言ようなものでした。(笑)
その後四方がたまたま日本に来るタイミングで、鎌倉に立ち寄れる時間ができたんです。その際、地元の人を紹介してくださるという流れになったんですが、実はそれが市議会議員など鎌倉の地で大きな影響力をお持ちの方々だったんです。
資料も持たず手ぶらで伺うのは失礼だろうと、そこで初めて戯言だった内容がプレゼン用のパワーポイントになりました。実際現地に行って話をするといろいろなものがトントン拍子に進んで。やはりその場に誰か担当者がいないと何も進まないということで、自分がジョインしました。
まさに、ベンチャー企業を立ち上げる時のような感覚ですね。夢物語から現実になっていくプロセスとして、最初にどのようなことに取り組まれたのですか?
吉田:まずは四方が市議会議員の方に会って話をしました。感触としては悪くない反応をいただくことができ、次はスタジアムを建てられそうな広い土地を紹介していただいて見に行ったりしました。
また、その3カ月後くらいに、ちょうど鎌倉市長選挙があったのですが、そこでも現職が公約に、「鎌倉にプロスポーツの試合ができるスタジアムがあったらなんて素晴らしいだろう!」という内容を掲げていました。その方が無事当選されたことを確認して、「これは間違いなくプロジェクトが進む」と思ったので、その時に勤めていた会社を辞めて鎌倉に飛んできたという流れになります。
すべてのタイミングが合わさって、運命だったとしか思えないですね。
吉田:そうですね。その後は、まずチームのエンブレムをつくるというトピックがありました。サッカークラブといえば、エンブレムがないとダメだということで、四方がクラウドソーシングで世界中の人に募集をかけたんです。いろいろな人達が応募をしてきてくれたんですけど、だいたいモチーフにされるのが大仏なんですよね。
正直あまり印象的ではないコテコテの定番がいっぱいあったなか、唯一、扇をモチーフにしたエンブレムをデザインしてくれたカナダの人がいました。それを直感で四方が気に入って、プレゼン用のパワーポイントに埋め込んだという経緯があります。
現在のロゴは4年目にリニューアルしたものになります。
▲現在のロゴ
ちなみに今のロゴにはどういう意味があるんですか?
吉田:それまで3年間活動してきて、本当にやりたいことを突き詰めて考えていった結果、ユニフォームにも入っている〝CLUB WITHOUT BORDERS〟というキャッチコピーが定まったんです。その言葉の意味に合うロゴを決めた結果、できたものが現在のロゴです。
鎌倉の海の波紋だったり、木の年輪をモチーフにしたという捉え方もあるんですが、自分の中ですごくしっくりきてるのは、それぞれ異なるバックグラウンドが人が混ざり合って、唯一の格好いい模様を織りなしているというイメージですね。
練習場所も、資金もない…ゼロから始めたチームが専用グラウンドを持つまで
鎌倉インテルがスタートをして、選手の1人目、2人目の獲得から現在に至るまで、どんな苦労がありましたか?
吉田:最初はサッカーをやる人数を集めるのにも苦労していたような状態でした。恥ずかしい話なんですが、最初は選手から会費を集めてグラウンドを確保したり、ボールなどの用具を揃えたりしてたんです。
このカテゴリーとしては当たり前のことではあるんですが、鎌倉の人でもない、本当に何をするのかわからないような人達が作ったチームに対して、周囲からは少し距離を置きながら見られていた感覚でした。
また、鎌倉市内には練習する場所が全くないといっても過言じゃないような状態でした。最初は、昔スーパーマーケットだった場所を改装してつくった室内のフットサル場で、天井が2.5メートルぐらいしかない、広さもすごくフットサルコートよりも狭いような、グラウンドとも言えないようなところで練習をしていました。
他の市の施設も土がカチカチで石が転がっていて、スライディングすると血だらけになるようなところか、雑草が伸びきったグラウンドの2択しかなくて。
結果、鎌倉市外の場所でずっと練習をして、試合も市外で実施するという状態が創設4年目の途中まで続いていました。クラブとしてそもそも鎌倉で活動できていないし、強くなるためにちゃんとした練習環境があるところで選手にプレーさせてあげたいと思っていました。
実は地域の人もサッカーをやる環境がなくて困っていたそうです。小学校までは校庭でサッカーができるのですが、中学校以上で真剣にサッカーをやろうとすると、ほぼ100%市外のクラブチームに出なければいけない状況でした。この課題を解決できると地域の人からも応援されるし、自分たちの悩み事もクリアになると思い、3年目からグラウンドを作るためのプロジェクトがスタートしました。
▲グラウンド写真
選手たちのモチベーションも高まりそうですね。選手はどのように獲得することが多いですか?
吉田:クラブ、チームの強化方針をYouTubeで配信したりしてるので、それを見て連絡してくれることもあります。あとは、選手だけでなく地元の方々を通じて練習に参加して来てくれたことがきっかけになるパターンが多いと思います。
現在の活動状況の概要を教えてください。
吉田:所属選手は約25名です。今は新しいチームで始動したばかりという状況ですね。これからチームメンバー全員が集まってミーティングをして、今年はどういう目標を掲げ、それぞれどういう役割を持って達成していくかということを共有する場を設ける予定です。
昨年10月半ばにグラウンドが完成して、それまでと全く活動の環境が変わりました。観客席も超満員で立ち見が出て、ゴール裏にも並んで観ていただけるような状態になっています。おそらく、このカテゴリーでは一番人が入っていて、最も選手と近い距離でひとつになって応援できる環境ができていると思います。選手もこれまで経験したことないような一体感を味わえる場が出来つつあると思っています。
鎌倉に”フルコミット”!勝つことが目的のチームではない理由
地元の方々と一緒に育て上げているブランドのチームだと感じますが、地域との関わりという点ではどんな活動をされていますか?
吉田:現状実施していることはゴミ拾いなど、全国のJクラブもやっているような取り組みです。ただ、その根底としては、鎌倉インターナショナルFCとして地元にフルコミットしたい、Jクラブを含めたすべてのチームで最も地域に深く入っていきたいという考えや思いがあります。
チームとして地域に対してどんなことを還元していきたいか、どんな関わり方をこれからもしていきたいかというイメージはありますか?
吉田:実は、四方も私もビジネスをしている中で、好きなサッカーで何か面白いことを、社会に役立つことをしたいという考えがあります。なので勝つことが最優先というよりも、チームやクラブを通じて、社会や地域に価値をもたらしたいという思いが強いんです。そういった点を評価していただけるとうれしいですね。
勝つために作ったチームじゃないということですよね。
吉田:そうですね。「サッカーに興味はなかったけど、鎌倉インテルがやってることはすごく共感できるから応援したい」という方が増えて、結果チームが強くなるのではないかと思っています。だからこそ私たちは地域や応援してくださるファン、興味を持ってくださる方々に対してどんどん価値を提供していきたいと思っています。
例えば昨年、グラウンドが完成してから「後払い入場料」というものを設定しました。入る時は無料なのですが、帰る時に試合の満足度に応じて金額も決めていただき、私が帰りの出口で立ちながら持っている箱に入場料を入れていただくという取り組みです。そうすると、いかにお客様に喜んでもらうかということに目を向けられる。まさに私たちが目指しているあり方を表現できるアクションになるかと思っています。
すごく本質的なシステムですね。実際のお客様の声を聞くこともできますし。
吉田:以前、他のJリーグのチームで働いていたことがあるのですが、その時は代理店でチケットを販売していました。運営上、仕方のないことなのですが、お客様と選手の間にすごく距離がありました。いまは全く違う感覚で、臨場感も味わっていただけている気がして、すごく良いなと感じてます。
地域課題を解決できる存在へ―目指すは「鎌倉を象徴するクラブチーム」
現在のチームに課題はありますか?
吉田:ここまで私が話したことは、自分が最初からいて、このチームのことをすべて理解しているから考えて言えることだと思うんです。それを、選手やスタッフみんなが理解をして、それぞれが考えてアクションするという段階には至っていないと思っています。
だからこそ、どれだけの人が協力してくださってグラウンドが出来たのかなどの経緯や背景を上手く私たちから伝えることで、選手自身から感謝の気持ちを伝えるアクションをしたり、応援してくださってる方々に恩返しできる環境を作るのが、これからの裏方の仕事だと思ってます。
鎌倉インテルは、インターナショナルという言葉もチーム名に入っていますが、国際交流などの観点でも取り組まれていることはあるのですか?
吉田:クラブ創設後の1〜2年目は、毎年1回は海外遠征を実施して、日本で学べないようなことを経験できるアクションを取っていました。その期間を通じて、まさにインターナショナルというような、海外に行ったからこそ知れた内容はもちろんあったと思います。、
ただ、同時にこれまで生きてきたバックグラウンドや文化の違いは、日本人同士でも実はたくさんあるということを再認識する機会にもなりました。それらをお互いが理解し、尊重することがとても大切だと思います。
地域とチームがリンクするために重要なことはなんだと思いますか?
吉田:地域の課題をいかに解決できるかだと思っています。私たちのように、発起人も含めて外から来た人を受け入れてもらうには、自分たちがやりたいことだけやっても応援していただけません。サッカー以外でもいろいろな課題を抱えてるなかで、「鎌倉インテルが来たから、こんなによくなった!」というのを、いかに具体的にたくさん生み出せるかがポイントだと思っています。
今後のチームとしての目標やメッセージをお願いします!
吉田:約2年間のコロナ禍で、人との関わりが分断されたなか、鎌倉インテルや鳩スタの存在が、たくさんの人と喜びの感情を共有できるコロナを克服した象徴になれると思っています。今後、鳩スタで超満員の試合勝利後、選手とファン全員で集合写真を撮るイベントも企画しています。その時の笑顔や雰囲気は、とてもすごいものになると思っているので、今年の春のタイミングでぜひ実現したいですね。
後編へ続く
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