特集2021.10.26

神戸に根差し、100年続くフットサルチームに。神戸にゆかりのない代表が「デウソン神戸」を支える理由

子どもから大人まで、幅広い年代に愛されるスポーツに成長を遂げつつあるフットサル。

この競技の日本トップリーグである「日本フットサルリーグ」(通称:F.LEAGUE<Fリーグ>)所属の「デウソン神戸」を運営する一般社団法人神戸フットサルスポーツクラブの代表理事を務めるのが、今回取材させていただいた武田茂広さんです。

今回は、チーム運営や組織づくりに対する武田さんのポリシーや価値観についてもお伺いしました。

“なんでも屋”を自称する「デウソン神戸」代表理事は元自衛官!

武田さんの自己紹介をお願いいたします!

中学からサッカーをはじめ、自衛隊に入隊したあとも各地でサッカー部に所属して全国大会出場を目指していましたね。30歳を過ぎた頃に長期の教育を受けることとなり、東京へ転勤となったため、選手としてのキャリアは終えることになりました。
その後都内での勤務となり、その際、子供が所属
していたジュニアサッカークラブの指導に関わり、指導者専任としてのキャリアが始まりました。その頃、都内の狭い校庭でサッカーを指導するためのヒントとして、本格的にフットサルを学びはじめましたね。

現在、代表理事としてのメインのお仕事はどのような内容なのですか?

“なんでも屋”ですね(笑) デウソン神戸の場合、自身の本業と並行してクラブの運営にボランティアのような関わり方をしてくれているスタッフが多いので、私は基本的に仕事を選ばず何でもやっています。営業企画、事業計画作成、決算処理、ホームゲームのための準備や広報、HPやSNSなどのメディアなどは自分が主に担当しています。

自衛隊が主なキャリアと伺いましたが、どうしてそこまで幅広いビジネススキルもお持ちなのですか?

自衛隊時代には、総合的なマネジメントの知識を約2年間にわたって学ぶ機会を与えていただきました。また、自衛隊を辞めてからすぐに日本サッカー協会のスポーツマネージャーズカレッジというマネジメントプログラムに参加する機会を頂きました。
日本全国各地で講義を受けたりする中で、スポーツマネジメントやスポーツビジネス、マネタイズに触れられたことも大きかったですね。

自衛隊時代の経験が活きているんですね!

そうですね。自衛隊での様々な経験は活きています。
転勤族ではありましたがサッカーだけにはずっと関わってきたので、各都道府県のサッカー協会の仕事なども若い頃からやらせてもらっていました。そういう経験も活きています。

歴史ある「デウソン神戸」を潰してはいけない。使命感に押されて代表に就任!

デウソン神戸との出会いのきっかけは何だったのですか?

監督の鈴村とフットサルの指導者講習で同期となり、そこで意気投合したことがきっかけです。ほかにも、日本代表クラスで活躍してきた同期たちと「なにか一緒にやりたいね」と話しているうち、鈴村からチーム運営の手伝いをしてほしいと依頼がありました。

デウソン神戸の経営状況悪化に伴い、Fリーグ脱退の危機の際にFリーグ側とも交渉などをする中で、新しく公益性の高い法人を設立するするしか存続する方法はないとFリーグより提案を受けました。そこで、誰が代表理事を務めるかということになり、クラブのレジェンドである鈴村が代表を務める方向でしたが、鈴村は監督として引き続きがんばりたいとの強い意志があったため、私が代表理事を務めることになりました。それが2019年はじめのことです。

ご自身がその立場に立とうと思われることがすごいです……!

やろうと思ったというより、責任感や使命感に背中を押されたという方が的確かもしれません。デウソン神戸は歴史のあるチームで、Fリーグが設立された当初の8チームの中のひとつなんです。その頃から存在していたチームが、どんな理由であれ、潰れてしまうようなことがあってはいけないと思ったんです。

自身が競技を続けたり、指導者として選手たちに指導している中で、「夢を持ってやろう!」「プロ目指そう!」と言い続けてきたのにもかかわらず、トップリーグのチームが無くなっては話にならないですよね。自分が選手としてプロになれなかったので、今度は指導者としてトップになろうと思ってがんばってきました。次はクラブの責任者として、これまで関わってきた選手たちや子どもたちのために、苦境にあるデウソン神戸のためにがんばろうと思いました。

『誠実・献身・挑戦』を体現する「デウソン神戸」の魅力

デウソン神戸のチームのことについてぜひ教えてください。

当チームの魅力は、『誠実・献身・挑戦』という3つの言葉を大切にがんばっているところだと思います。この合言葉自体が自衛隊チックなんですけどね(笑)私がクラブを引き継いで最初に決めた言葉なのですが、これがすべてだと思っています。
この言葉をどこまで選手や運営に関わるメンバーが理解しているか、定かではない部分もありますが、社会性を損なうようなことは一切しない体制が整えられています。例えば、練習時にも、ショートソックスなどの適当な服装ではなく、必ずハイソックスを着用しレガース(防護具)も着けています。
そもそも、それが当たり前であるべきだと思っています。人としてどうあるべきかという考えが先にあり、その基盤のうえにプレイヤーとしての在り方を考えるべきです。そこを踏み外してしまうと、選手として伸びません。フットサルは特に人間性が表出するスポーツなので、普段からしっかりとした振る舞いができることが求められます。そうした姿勢が選手としてのパフォーマンスに跳ね返ってきますから。
何よりも、スポーツの在り方が昔とは違ってきているので、ただ選手として活動していれば応援してもらえる時代ではありません。我々の人としての思いやドラマ、ストーリーを見出していただけることにチャレンジしなければいけないと思っています。

チームや選手の個性や人間性を知ってこそ本当のファンになりますよね。

そうですね。まずは選手として、人としてやるべきことをやる。苦しいかもしれませんが、トップリーガーとしてデュアルキャリアで選手活動にも一生懸命に取り組む。そういった姿勢に共感し、ファンになってくださる方がいるのだと思います。YouTubeやインスタグラムなどの広報活動は、あくまでその先にあることだと感じています。

デュアルキャリアという表現があったように、選手のみなさんは本業をしながらトップリーガーとして活動されているのですね。

本来は全員がプロ契約できてフットサルに専念できる環境がベストですが、私たちのクラブの現状ではそのような環境は作れません。選手・スタッフには申し訳ないと思う一方、今できることをしっかり行うことに注力しています。
現在は企業に就職するか、個人事業で生計を立てられる証明がある選手がデウソン神戸でプレーしています。以前は午前中に練習をしていましたが、その状態では働くことができる企業も職種も限られてしまいます。そのため、現在は夜の時間帯に練習をするようにし、練習頻度も減らしました。帰る時間が遅くなるため、選手たちは大変なこともあると思いますが、セカンドキャリアを作らなければいけない状態を生み出すより、デュアルキャリアを取る方が良い選択肢だと考えています。選手としての時間を無駄にすることなく人生設計をすることができるためです。

『神戸のお兄さんたち』として身近な存在に。100年続くフットサルチームを目指す

今後、どのようなチームにしたいですか?

デウソン神戸を、100年続くチームにすることが目標です。ビジネスとしては課題も山積みで泣き言も言いますが(笑)
そんなチームを作りたいので、我々はフットサルをするだけでなく、さまざまな形で社会にコミットして価値を示していく必要があります。
時代の変化から、一生懸命プレーするだけでは人々の共感を得られません。スタッフも選手も全員が、フットサルという競技、デウソンというチームをもっともっと広め、共感してもらう努力をしなければなりません。
「デウソン神戶は身近な存在だよね」と言ってもらえるチームになりたいですね。『神戶のお兄さんたち』というような立場を目指しています。道は険しいですが(笑)

最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

フットサルは、展開もスピーディーで非常に面白みのあるスポーツです。サッカーで上手くいかなかった選手がする競技であったり、初心者が楽しむものというイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、とても魅力的なスポーツです。ぶつかり合いも激しく、選手の「生き様」が見えるスポーツなんです。だからこそ、デウソン神戸は以前よりも強くなってきたのだと思っています。ぜひフットサルの試合を一度ご覧ください!

取材後記

インタビューの質問にお答えいただく武田さんの言葉の一つひとつに強い思いや意志が表れていました。「アスリートである前に1人の人間としてあるべき姿を大切にしたい」。そんな信念が感じられた取材となりました。
メジャー化を目指すフットサル競技の未来を背負う、デウソン神戸の飛躍にご期待ください!