母校である関西大学で職員として働きながら、社会人リーグIBM BIGBLUEの主力選手としても活躍中の中谷祥吾さん(写真左、なかたに・しょうご、30、関西大~IBM)。プロ選手としてIBM BIGBLUEに所属し、日本人初のNFL選手を目指す近江克仁さん(写真右、おうみ・よしひと、26、立命館宇治高~立命館~IBM)。2020年には、共に日本代表にも選出され、キャプテン(近江さん)、副キャプテン(中谷さん)として、チームJAPANを率いました。華やかな活躍ぶりでアメフト界を沸かせるお二人が見据えるフィールド、それは「次世代」。「自己成長や自己実現のステージとして、アメフトというスポーツに親しむ人をもっと増やしたい」と話します。「究極のチームスポーツ」とも表現されるアメリカンフットボールを通じ、次世代に伝えたい「学び」を、前編・中編・後編の3本でお届けします。前編では、アメフト界の「今」を牽引する、お二人の「活動」と「アメリカンフットボールの普及への想い」に迫りました。
日本人初のNFL選手を目指して
お二人は今、どのような活動に取り組まれているのでしょうか。
近江さん:IBM BIG BLUEにプロとして所属しながら、「海外挑戦」という形で北米のプロリーグを目指して活動しています。海外挑戦を始めた2020年はアメリカ、去年はヨーロッパでのプレーを経験しました。さまざまな国でプレーする中で得た経験や知識を、母校や大学生、高校生などの「次世代」に繋げていけたらいいなと思っています。
働いていた大手損保会社を退職し、「海外挑戦」への道を歩み始めて3年になるのですが、その時に決めたことが2つあります。1つは「NFL選手になる」ということ。2つめは、「海外生活の中で自分が得た技術、知識、経験を発信すること」です。この2つを実現することで、より多くの方にフットボールを知ってもらい、アメリカという存在を身近に感じてもらえたら嬉しいなと思っています。そして、多くの選手の「海外挑戦」に挑むきっかけになれたら嬉しいです。
「アメリカンフットボールの普及」という点でいうと、自分自身の挑戦や生活を発信する中で、SNSを通じて地方の学生の方からもたくさんのメッセージを頂くのですが…。僕自身は立命館という環境が整ったフィールドで、フットボール人生を歩んできました。しかし、そうではない学生の方にとってはコーチ不足や、知識不足が大きな問題として立ちはだかります。そういった日本の学生アメフト界の問題をどうにかして補いたいという気持ちで、自身のユーチューブチャンネルでレシーバーの技術について発信したり、海外での挑戦や生活についても積極的に発信するようにしています。
https://www.instagram.com/omiomi_y/
▲近江克仁さん Instagram
https://twitter.com/yohmi02?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
▲近江克仁さん Twitter
https://www.youtube.com/channel/UCtA7esmuqHGAlOuKEQ8Ogxg
▲近江克仁さん YouTubeチャンネル「OMI THE HOMIE」
全国各地のチームとの絆が生んだ、念願の対面クリニック
中谷さん:私は母校である関西大学で働きながら、XリーグのIBM BIG BLUEで選手として活動しています。
幼い頃から野球をずっとやっていて、大学でアメリカンフットボールを始めました。友達からの誘いがきっかけで、アメフトを始めることになったのですが、考えて、実践していくことの「楽しさ」であったり、自分がやるべきことを積み重ねてやっていくことで、ちょっとずつ芽が出ていくという「面白さ」に魅了されて、ついに11年の野球歴(アメフト歴12年)を上回りました。
近江選手からも「地方」や「アメリカンフットボールの普及」というキーワードがありましたが…。コロナ禍で学生たちの行動も制限されている中、全国各地の学生を対象にオンラインのセッションを無料でやっていた時期があって。北は北海道、南は福岡、そして中学生から大学生という幅広い年齢層の学生の方たちに向けて、オンラインのセッションをおこない、アメリカンフットボールの知識や指導を求めている人がたくさんいるということを改めて感じました。
かつては未経験者だった自分自身の経験も踏まえ、未経験者の人たちにもアメフトの面白さに触れて、もっと上達したいと思ってもらえるような取り組みができないかと計画してきました。そうした思いが、今年8月に仙台(東北大学川内キャンパスグラウンド)で開催される対面でのクリニック、「FOOTBALL CAMP by rtv」(詳細は7月末リリース予定、クリニックの開催は8月8日(月)10:00~17:00を予定)の実現に繋がったことはとても嬉しいですし、アメフトへの「想い」を広げるきっかけとなればいいなと思っています。
https://www.instagram.com/shogonakatani/?hl=ja
▲中谷祥吾さん Instagram
https://mobile.twitter.com/sho917
▲中谷祥吾さん Twitter
「日本でもアメフトがもっと盛り上がっていいはず」
アメリカンフットボールの普及に対する熱い想いが、今のお二人の活動にも繋がっているように思います。日本でアメリカンフットボールの普及が進まない背景には、どんな事情があると感じていますか。
近江さん:日本人って比較的、アメリカの文化や娯楽、エンターテインメントに対して肯定的なんじゃないかと思うんですよね。海外セレブや有名人の真似をしたり、ジャスティン・ビーバーを聴いたり…。
そんな、日本人の「憧れ」が詰まったアメリカで、1番人気のある「アメリカンフットボール」というスポーツが、なぜ日本で盛り上がらないのかということに対して、すごく疑問を感じていて。(憧れの対象である)アメリカでアメフトが盛り上がっているなら、日本でももっと盛り上がっていいんじゃないかというシンプルな思いを持っています。
では、なぜそれが実現に至らないのかと考えると、そもそも、日本におけるスポーツビジネスの成功例が少ないのかなと感じるんです。野球やサッカーなどのメジャースポーツの世界でも、同じようなことが言えるんじゃないかと思います。
例えば、ドイツでは日曜日になると、スーパーマーケットやお店が全部閉まるんですね。日本では考えられない光景だと思いますが、そんな日曜日にドイツ人は何をするかというと、スポーツ観戦に行ってビールを飲むんです。日本の休日といえば、お店も全て開いているし、行ってみたいカフェなんて山ほどありますよね。
「娯楽が楽しめすぎる国」、それが日本だと思います。そういった背景がある中、アメフトも含め、スポーツに目を向けてもらうムーブメントを作ること自体、とても難しい課題であるとは思いますが、アメリカンフットボールがもっと日本で普及し、ムーブメントのリーダー的存在になってくれたら、という気持ちを常に持っています。そのためにも、自分がどう活動していくか、どう広めていくかという部分をよく考えていますね。
「〝究極のチームスポーツ〟に恩返しがしたい」
なるほど。海外生活の中で「スポーツと国民の親和性」を肌で感じられたからこそのご意見ですよね。そういった背景も踏まえ、日本におけるアメリカンフットボールの普及の「カギ」を握るのは、どういった点だと思いますか。
中谷さん:ただ技術を向上させるということだけでなく、「スポーツを通じた人間形成」を意識することがすごく大事だと思っています。こういった考え方はアメリカでは「一般論」とされていて、大学スポーツに関しては、特に教育的な観点にフォーカスしている印象があります。
そういったスポーツに対する考え方が根付いているアメリカにおいて、アメリカンフットボールは「究極のチームスポーツ」と表現されていて…。ラグビー(15人)やサッカー(11人)は試合に出る人数が固定されているのに対し、アメフトは各ポジションそれぞれにたくさんのメンバーがいて、入れ替えも激しい。それゆえに、ポジション内外問わず、チーム内での綿密なコミュニケーションが必要とされるスポーツでもあります。そういった意味で、アメフトというのは珍しくもあり、とても魅力的なスポーツだと感じます。
また、アメフトはさまざまな頭の使い方が要求されるスポーツでもあります。例えばフィジカルトレーニングに関しても、ただ鍛えるだけでなく、試合で対応できるだけの肉体的な強さや速さを効率的に引き出すトレーニングをしなければいけません。そういった背景を踏まえ、トレーナーやコーチ、スタッフなど、チーム全体の頭脳を結集させて試合の勝敗に懸けるスポーツ、それがアメリカンフットボールだと思っています。
人間誰しも、多くの人と関わる中で、たくさんの失敗を経験し、成長のきっかけが芽生えるのだと思います。アメフトというスポーツの楽しさを広く伝え、競技人口の増加にも繋げていくことは、私を成長させてくれたアメフトに恩返しすることにも繋がるんじゃないかと感じています。
次回、【中編】では、アメリカンフットボールを通じた「自己成長」、「次世代への思い」に迫ります。
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