特集2022.08.03

「指導者のプロ」が懸ける! 体操をフックに日本全国を、そして世界を健康に

東京23区で最も人口が多く、子育て世代も多く住む街、世田谷区。そんな世田谷区で人気の体操教室、「子ども向け器械体操アカデミー」はキャンセル待ちの状態だといいます。そのアカデミーを監修する高橋正典氏(体操競技元日本代表)の長男・高橋信博さんと次男・高橋俊補さんは、「T-sports」で子どもたちに体操の指導をおこなっています。 子ども向けに留まらず、成人や高齢者を対象としたプログラムも視野に入れて事業を拡大していきたいと話すお二人。その裏側には「人生の基盤づくりとして体操に親しんでほしい」という、幅広い世代の健康づくりに対する熱い想いがありました。

体操は幼少時代の「ルーティーン」


▲高橋信博さん(写真左)、高橋俊補さん(写真右)(高橋さんご提供)

器械体操を始めたきっかけを教えてください。

高橋信博さん(以下、信博さん)ːきっかけ自体を覚えていないほど、幼い頃から器械体操は身近な存在でした。というのも、父親が体操競技の元日本代表(高橋正典氏)であり、高校の教員をしていたというバックグラウンドが大きく影響していたと思います。そういった背景もあり、幼い頃から高校の体操部の練習を見に、よく体育館に遊びに行っていたというか…。「(体操をしに)体育館に遊びに行く」というのが、僕自身にとって毎日のルーティーンのようなイメージでした。

高橋俊補さん(以下、俊補さん):兄と同じく、僕も幼少期から器械体操というものをとても身近に感じながら育ちました。器械体操との距離感が近いがゆえに、(体操が)嫌いになったことがなかったといえば嘘になりますが、「体操しかない!」と、自分を奮い立たせていた部分は大いにあったと思います。

競技者生活を経て「指導者」へ

お二人とも大学までは「選手」として競技生活を続けられたとお聞きしました。選手から指導者へ舵を切ろうと思われた経緯を教えてください。

信博さん:大学2年生の頃から選手と成績を残すことより、「人に教える」ということに魅力を感じ始めました。というのも、当時、腰や手首をケガしていたんです。100パーセントのパフォーマンスや練習ができないという時期が続く中、自分なりにどうやって体操と関わっていこうかと考えて、先輩や後輩に技のアドバイスをしていたんです。その過程で、自分が教えた人たちがどんどん技のコツを習得していく様子を見て、純粋に嬉しかった。新たな角度から、体操の面白さや喜びを認識した瞬間だったと思います。大学3年生の頃、父親が携わる器械運動アカデミーで、アルバイトとして体操を教え始めました。最初は、気恥ずかしさや自分の殻を破れないもどかしさもあって、なかなか素直になれませんでしたが、2,3か月ほど経った頃から子どもたちと素直に向き合えるようになりました。教育の楽しさや面白さを感じ、「指導者として一歩踏み出してみよう」と思うようになりましたね。

俊補さん:僕は実家の東京を離れ、鹿児島県で高校時代の3年間を過ごしました。その3年間で、器械体操の真髄に触れたというか…。器械体操は「自分との戦い」が問われる競技なので、どういった心持ちでパフォーマンスに臨むべきなのかという「心」の部分で大きく成長できたんじゃないかと思います。大学まで積み重ねた競技生活を経て、卒業後は、体育の非常勤講師をしながら、父親が携わる器械運動アカデミーを手伝っていました。教えることは昔から好きでしたし、何より子どもたちが好きなんです。なので、自分が指導者としての道を歩むことはごく自然な流れであり、今も天職だと思っています。高校時代から「自分で考える」ということを意識してきて思うことは、苦労して自分自身が身につけた技と人から教わった技は似て非なるものだということ。苦労して体得したという根拠があるからこそ、伝えられることがあると思っていますし、それを子どもたちにも伝えるようにしています。父親の子どもたちとの向き合い方、母親の教え方や子どもたちとの接し方を、幼い頃から見ていたことが指導者としての自分の考え方に大きく影響していると思っています。

「指導者のプロ」目指し、奮闘した日々

選手として器械体操を突き詰めた経験があるお二人だからこそ、子どもたちに教えられることがありますよね。そんなお二人の指導者としての拠点ともいうべきT-sports。設立までの経緯を教えてください。

信博さん:選手から指導者に舵を切るタイミングで、父親から「指導者としてプロになりなさい」とアドバイスをもらい、自分なりにその言葉の意味を考えた末、「大学院に進学してスポーツの本質を学ぼう」と決断しました。大学院でスポーツ心理学について研究していた頃、当時大学生だった弟と卒業後のキャリアについて話していると、弟も指導者として今後のキャリアを積みたいと考えていることがわかって。「指導者としての知見を深めながら、会社設立に向けて経験を積んでいこう」と意気投合したことが原点になりました。


▲エクアドルで指導者としての経験を積む信博さん(高橋さんご提供)
そこからは、JICAのプログラムを通じて発展途上国のスポーツ環境を2年間視察しに行ったり、小学校から大学まで幅広く、体育にかかわる教育現場に非常勤講師として年単位で在籍して、子どもたちとのコミュニケーションを学び、「指導者としての肉付け」に力を注いできました。こうした経験で得た知見をもとに、2021年の11月、T-sportsの開業に至りました。

毎回、子どもたちにフレッシュな学びを

「指導者としてプロになりなさい」というお父様からのアドバイスが「幅広い教育機関現場を肌で学ぶ」という意識に繋がったんですね。小学生から大学生まで、幅広い年代の子どもへのアプローチ経験がある指導者のもとで体操が学べるということは、T-sportsならでは大きな特色ですよね。

信博さん:僕自身、名プレイヤーと名監督は性質が異なると思っていて。運動がもともと得意な子も大歓迎なのですが、運動があまり得意でない子にこそ、T-sportsでの経験をきっかけに運動に親しんでもらうきっかけを得てほしいなと思っています。


▲T-sportsで体操に親しむ子どもたち(高橋さんご提供)

僕たちは、学校での体育の授業とT-sportsでの学びが乖離してはもったいないと考えています。T-sportsでの学びが学校という大きなフィールドで生かされた時、初めて子どもたちの笑顔や自信に繋がると思っています。また、毎回、同じような内容で授業がルーティン化されてきてしまうと、子どもたちも私たち指導者も成長が止まってしまうと思っているので、毎回、面白いことを子どもたちが味わえるように工夫しています。

俊補さん:指導者として「ただ教える」だけではもったいないと思っています。教えたことを「ただやらせる」のではなく、どうやったらもっと上手くできるようになるのかコツを掴んでもらえるような指導を心掛けています。また、成功や失敗に関わらず、そうなった背景や根拠まで考えられるように指導していくことがT-sportsならではの価値に繋がっていくと思っています。


▲T-sportsで体操に親しむ子どもたち(高橋さんご提供)

体操ってすごく難しい分野だと思うんです。自分ですることも、教えることもコツが必要なスポーツだと思いますし、教育現場のプロである学校の先生でさえも補助の仕方を毎日、試行錯誤していらっしゃいます。ですが、体操はすべてのスポーツや運動の基礎になるものだと思いますし、難しい分野だからこそ、自信も育ちやすい分野だと感じています。

「自分の課題を発見し、解決できる力」をもった大人に

競技者としても指導者としても、深い知見と経験をお持ちのお二人だからこそわかる「難しさ」がありますよね。

信博さん:そうですね。ですが、体操というのは運動能力の基盤をつくってくれたり、ケガをしない体づくりを育んでくれたり、数あるスポーツの中でも特に私たちの生活に密着したものだと思っています。その上で、体操を通じて子どもたちには「自分の課題を発見し、解決できる力」と「課題解決のための挑戦を恐れない心」というものを身につけてほしいなと思います。もちろん、器械体操の技を磨くことも大切な要素ですが、長年、教育現場に精通してきたからこそ、子どもたちにとって「人として伸ばす」という部分がいかに大切かということを感じています。また、T-sportsを小さな子どもから、シニア世代まで運動に親しめるような場所にしたいという思いがあって…。

子どもからシニアまで!「幅広い世代に向けたプログラムを」という気持ちに基づく「想い」とは。

信博さん:小さなお子さんはもちろんですが、シニア世代の方々にとっても心身ともに健康を保つことは生活を営む上でとても大切な要素になると思っています。また幅広い世代の方と接することで指導者としてブラッシュアップしていくことにも繋がりますし、常に多くの引き出しを持って、それぞれの個性に合った指導ができるのではないかと思っています。


▲指導をおこなう信博さん(高橋さんご提供)

▲指導をおこなう俊補さん(高橋さんご提供)

「運動が楽しい」という気持ちを大切に

まさに生涯を通した健康基盤づくりを提案するT-sports、とても興味深いです!T-sportsの今後について、どのようにお考えでしょうか。

信博さん:校数の分布(千歳鳥山教室【火曜日】・松原小教室【土曜日】が開校中、2022年8月3日より下高井戸教室【水曜日】が開校予定) を増やすことを念頭に置きながら、大きな店舗を借りて、T-sportsの拠点となる場所をつくりたいなと考えています。また、器械体操だけにこだわらず、ダンスなどを通じて、新しいことに対するチャレンジ精神や自己課題解決力に繋がるきっかけを子どもたちに体験してもらえるようなプログラムを考えていきたいなと思っています。また、今、体操を教わっている子たちが大人やシニアになった時にも、運動に親しみ、健康な毎日を過ごせるようT-sportsでの経験を通じて、子どもの時から「運動が楽しい」、「運動が好きだ」という気持ちを形成できるような機会をたくさん作ってあげたいなと思っています。

俊補さん:東京のみならず、日本各地、さらには世界にも視野を広げて、T-sportsのメソッドを浸透させていきたいなと考えています。T-sportsの「T」はトライアングルのTです。体操を架け橋として子どもたちと私たち指導者、そして地域といった3点が繋がり、技や心を育てることで社会に貢献していこうという思いが込められています。体操を皮切りに地域貢献や地域活性に貢献していきたいなと考えています。

http://tsports-club.com/
▲T-sportsの情報はこちら【2022年8月3日より下高井戸教室(水曜日)開校予定】