特集2021.08.16

スポーツでアイデンティティを見出す。ネットボール・大曽根菜美選手が感じる生きがい

イギリス発祥の球技、ネットボール。日本ではまだ知名度も決して高くないものの、全世界では2,000万人がプレーし、プロ選手まで存在するグローバルなスポーツです。

今回は、2019年に日本で開催されたアジアユース選手権(21歳以下)で、ヘッドコーチとして大会に参加された経歴を持つ大曽根菜美さんに取材。

ネットボールの醍醐味や、この競技にかける大曽根選手の想いをお聞きしました。

2014年に日本代表として初出場!ネットボールとの出会い

写真ⅰ:取材の際の大曽根選手

ネットボールを始めた経緯を教えてください。

小学校3年生のときにバスケットボールを始め、高校まで続けていました。その後、スポーツトレーナーになるために進学するタイミングで上京したのですが、いろいろなご縁がある中で、「バスケットボールの経験があるなら一度やってみたら?」と紹介していただいたことがネットボールとの出会いでした。偶然知り合った方から、「今度、体験会があるから行ってみたら?」と、19歳のときに誘われたことがきっかけです。

その体験会で指導してくださった方が、私が現在所属しているチーム『WLS netball(ウルスネットボール)』の設立者で、その後にチーム加入のきっかけを作ってくださりました。それが2013年のことです。

現在、日本代表も務められていますが、挑戦のきっかけは何だったのですか?

2014年に日本代表として初めて出場させていただきましたが、ネットボール自体の競技人口はまだまだ少なく、自身もまだ学生だったため最初は勢いでやらせてもらった感覚でした(笑) そのため、最初の頃は自分が楽しむためにネットボールに取り組んでいた意味合いが大きかったのですが、初めてアジア選手権に出場してからは競技としてしっかりと取り組もうという意識に変わっていきました。

どのような出来事が、意識が変わるきっかけになったのですか?

海外のチームとの実力差を感じた経験をしたこと、そして、自分があまり出場機会を得られなかったことが、意識が変わるきっかけでしたね。もっと試合に出たい、もっと勝ちたいと思うようになりました。負けず嫌いではあったので、過去に部活動でよく感じていた悔しい気持ちが再燃した感覚です。

現在はネットボールを通じてどのような活動をされているのですか?

所属チームの『WLS netball』では現在でも選手として所属しながら、日本ネットボール協会の強化担当として競技力向上に努めています。ユース世代のアジア選手権大会でヘッドコーチを任せていただいたことが、実績のひとつですね。ただし、本業ではなく、趣味としてやっていることです。

なるほど。本業はどのようなことをなさっているのですか?

鍼灸あんまマッサージ師の国家資格を持っており、現在はフリーランスとして鍼灸接骨院にも勤務しながら、個人でも仕事を承っています。2年間スポーツトレーナーについて学んだ後、別の学校で3年間通って資格を取得しました。

なぜ鍼灸あんまマッサージ師の資格を取得しようと思われたのですか?

資格があると便利だと思ったのと、スポーツトレーナーとして食べていくのは大変なこともあるので、長く働き続けられる「手に職」という位置づけで取ろうと思いました。現在では『WLS netball』のメンバーにも施術しています。

誰もがスターになれる!ネットボールの魅力

改めてネットボールのことについてお聞かせください!

歴史は古く、イギリスで「女性も楽しめるバスケットボールの代替スポーツ」として誕生したといわれています(諸説あり)。15分間のゲームを4セット、人数は7対7でプレーします。ゲーム展開も速く、1~2回のパスで得点が入るシーンも多いです。

バスケットボールとの違いとしては、コートが3分割されていること、7人それぞれにポジションが与えられ、明確に動ける範囲が制限されていることです。そのため、スター選手がどのポジションからも生まれる可能性があるということも、ネットボールの魅力のひとつなのです。

どんな人が向いていますか?

仲間との協力が最も重要なスポーツなので、みんなと力を合わせて何かをやり遂げることが好きだったり得意だったり方は向いていると思います。また、私のように元バスケットボールプレーヤーであれば、地味だった選手がハマると思います(笑)

非常に頭を使うスポーツだとお見受けしました。

私がこのスポーツにハマったポイントのひとつが、戦術面における駆け引きです。予測を常にしておかないと相手の動作に遅れてしまうので、相手を見て先回りをしていく方法を考えているのが楽しいですね。

さまざまなスキルや総合的な体力も必要になってきますよね。

そうですね、ルール上は接触NGですが、身体が当たってしまうときもあるので。特に足腰は非常に強くある必要があります。

ほかにはどんな魅力がネットボールにはあるとお考えですか?

難しいこともありますが、初めての方でもなんとなく形になるスポーツである点です。コロナ禍の状況になる前は、『WLS netball』でも月1~2回程度は体験会を実施していました。最初に参加者のみなさんにルールブックのようなものをお渡しするところから始め、最後に1時間程度は実戦形式のメニューをやるのですが、大人も子どもも男女も混ざって、ある程度プレーできるようになるところがこの競技の良い点だと思いますね。

写真ⅱ:WLS netballのみなさん(提供:大曽根選手)

立ちはだかる「アジアの壁」。プレー環境に課題

日本と世界の戦い方で違いを感じられたことはどんな点でしたか?

日本国内では元バスケットボールプレーヤーの方も多いため、細かいパスをつないで、なるべくゴールに近づいてシュートするというスタイルが一般的です。自分たちもそう教えてもらってきましたし、しっくりくる感じがします。ただ、海外の強いチームでは、長いパスを使って思いっきり走りこむような、ダイナミックなプレーがよく見られます。フットボールやラグビーのような感じもしますね。

日本は海外の中でどのようなランキングに位置しているのですか?

直近のアジア選手権では7位でした。ちなみにスリランカ、マレーシア、シンガポール、香港の4か国がアジアでは優勝を争うようなレベルのチームです。

その4か国は、どんなところが日本と違うのですか?

小学校ぐらいから各校にクラブチームが存在しているような、競技人口や競技レベル自体の環境に差があります。また、体格的にも恵まれた選手が多いです。2m以上の到達点からシュートを打てる選手もいるので、そんな場面ではまさに「見ることしかできない」です(笑) また、プレーすることで報酬を得ることができるような仕組みにもなっていますね。

世界の競技人口は2,000万人と言われていますが、日本はどうですか?

国内では300人程度かと思います。女性がやや多く、200名程度を占めます。特殊なリングとコートが必要なので、現状どこでも誰でも実施できる環境が日本国内にないことも課題のひとつです。

選手と指導者の「一人二役」として日本のレベルアップに注力

写真ⅲ:日本代表として活躍する大曽根選手(大曽根選手提供)

大曽根さんが選手として目指していることがあれば教えてください。

日本代表として活躍するために引き続き努力したいと思っています。体格が小さいほうではないのですが、動きの速さなどに関しては若手の台頭も目立ってきていますので、負けないように頑張りたいですね。

日本代表として目指している目標もありますか?

現在のアジア内で5位を目指そうとしています。4強(スリランカ、マレーシア、シンガポール、香港)に少しでも近づきたいなと思っています。

10月には日本選手権を控えています。全国大会ではありますが、どんな人でも出場できるので、誰でも日本一を目指せます。そこで活躍すれば日本代表も夢ではないので、当面はその試合が目標です。

そのためにチームとしてはどんなことに取り組んでいますか?

チーム全員でインプット量を増やすことを心がけています。海外チームのプレーを映像で見たり、練習メニューを仕入れたりして、とにかく勉強しています。体育館を使える時間も限られているので、効率よくプレーに磨きをかけられるように頑張っています。

ネットボールを今後どのように広めていきたいですか?

認知の拡大にも努めていかなければいけませんが、私個人としては指導者としても現プレーヤーのレベルアップに注力しなければいけないと考えています。広めることが得意な方もいらっしゃるので、そこは任せて自分にできることをやろうと思っています。

デモンストレーションや体験会の依頼も増えているので、そういった活動にもますます取り組んでいきたいです。

「なくてもいいけど、あるから楽しい」。ネットボールが生きがいに

写真ⅳ ネットボールをする大曽根選手(提供:大曽根選手)

大曽根さんにとって、ネットボールとは何ですか?

「なくてもいいけど、あったら楽しい」ことですね。必要不可欠なものではないかもしれませんが、あるからこそ人生を楽しめていると思っています。

ネットボールを通して伝えていきたいことを教えてください。

私自身バスケットボールをやっていた頃は、広くそつなくプレーをするようなタイプだったのですが、ポジションによって役割がはっきりとしているネットボールを始めてみて、自分の得意不得意や存在価値を見出すことができました。「何かやってみたいけど何からやろう……」と悩んでいる人がいれば、ぜひ一度トライしていただきたいですね。

どんどん全国に広まっていくといいですね!

そうですね!イギリス発祥のスポーツなのですが、外国人の方から「ネットボールをプレーしたいんだけど、どこでできるの?」という問い合わせも増えています。実際にインターナショナルスクールには施設があったりもするので、知名度が上がればプレーできる場所を広げることはできるかと思っています。

では、この記事を読んでくださっている方に、ぜひメッセージをお願いします!

私自身、ネットボールと出会って自分にアイデンティティを持てたことが、非常に大きな出来事だと思っています。『ネットボール日本代表』ということが名刺代わりではないですが、自分の肩書きができて生きがいにつながっています。ネットボールに限らず、個々人の取り組みを誰もが応援してくれるような時代だと感じるので、これからどんどんいろんな方にネットボールに挑戦してもらいたいですね。

また、競技に対する距離感は人それぞれで良いのかなと思っています。どっぷりハマって日本代表を目指したい方も、エクササイズのように取り組みたい方も一緒のチームでプレーしていますので、ぜひ気軽に挑戦してください!

 

取材後記

日本国内では、まだまだ知名度に伸びしろがあるネットボール。人それぞれの強みを活かせる競技性や、初心者からベテランまで同じチームでプレーできる環境に魅力を感じました。ぜひ一度、プレーしてみてはいかがでしょうか。

大曽根菜美選手の情報はこちら!

イベント情報

11/21 全日本選手権(安中市総合体育館)

公式サイト/SNS

WLS Netball(ウルスネットボール) Facebook
日本ネットボール協会