特集2021.08.17

プロ野球選手から転向!クリケット・木村昇吾選手が語るセカンドキャリアとしての挑戦

クリケットはサッカーの次に競技人口が多く、インドを中心に約100か国もの国で世界的に大人気のスポーツ。日本ではあまり知られておりませんが、実はクリケットは野球の原型となったスポーツです。その発祥はイングランドにあります。

今回インタビューしたのは、クリケットで日本人初の海外プロリーグの舞台へ挑戦している木村昇吾選手。木村選手はプロ野球選手として活躍されていましたが、2017年にクリケットに転身 しました。2018年 選出され、日本代表としての出場試合を重ねています。

木村選手にクリケットに興味を持った理由や、これから目指すことについてお伺いしました!

プロ野球選手からの転向は史上初!クリケットに挑戦した経緯

「クリケット」とはどんなスポーツなんですか?

クリケットは、クリケットバットとクリケットボールを用いて、1チームが11人の計2チームの間で行われるスポーツです。長径140メートルほどの楕円形のフィールドの中で、長さ20メートルほどの長方形のピッチを中心に各チームが交互に攻撃と守備を行い、得点数の優劣に基づいて勝敗を競い合います。

今、手元に持っているのが使用するクリケットバットなんですね。

そうなんです。クリケットバットは1.3kgくらいで、野球のバットよりも重たいです。材質の良いクリケットバットの値段は10万くらいしますね。形状はボートやカヌーの「オール」のような形をしていて、折れにくいのが特徴です。ボールを打つためのクリケットバットの先端部分は「イングリッシュウィロー」という木を使用していますが、これ以外でクリケットバットを作ってはいけないんです。ウィケッドにボールを当てないように守る必要があり、下からすくい上げるスローウィングで、ボールを打ちます。ただし、フライになるとボールが取られ、アウトになってしまう。その場合、一打席すぐに終わってしまうので、そうならないために意識して打っています。

今までプロ野球選手として活躍されていた木村選手が、クリケットに転向することを決めた理由についてお伺いしたいです。

それまでは横浜ベイスターズ (現:横浜DeNAベイスターズ)、広島東洋カープ、埼玉西武ライオンズのプロ野球選手として活動していました。戦力外になったとき、ライオンズ時代にチームに帯同していたスポニチの記者・平尾くんから他球団の情報を得ていたのですが、日本クリケット協会から日本野球連盟に「プロ野球引退した方で、誰かクリケットをやらないか」という声があったそうで。平尾くんが「一人いますよ」と自分のことを挙げてくれていて、彼から連絡をもらいました。

なんと、ご縁ですね!

「昇吾くん、クリケットって知ってる?」という電話で、今まで野球選手としてやってきた経験を即活かせることがわかりました。平尾くんの電話を聞きながら、ものの5分くらいで「クリケットに挑戦しよう」と考えていましたね。野球選手からクリケット選手転向は史上初ということと、自分の経験が活きる という点に惹かれました。

もともとクリケットのことをご存知でしたか。

実は、仲の良いインド人がいて、広島カープにいたときから「クリケットをやったらいいよ」とクリケットの動画を見せてくれていました。「あのスポーツか!」と記憶の点と点がつながり、線になった感覚でしたね。野球の方で兼任コーチのお誘いもありましたが、何よりもアスリートとして望まれていることが嬉しかったです。平尾くんからの電話に「やりたい」と即答しました。

野球との違いに戸惑いの連続。クリケットの打ち方をひたすら練習

写真ⅰ:インタビューに答えてくださった木村昇吾選手

クリケットに挑戦してみた最初の感想はどのようなものでしたか?

野球の経験があったので、クリケットでも「まあまあ打てるだろう」と思っていました。でも、想像以上に難しかったです 。最初、クリケットの学生チームが練習をさせてくれたので、はやく慣れたい一心で6時間ほどひたすら打たせてもらいました。バットを使って打つとき、自分の感覚と実際に起きていることが違いましたね。思うように打てなかったり、逆にファールだと思ったものが「すごい」と賞賛されたり。意図してやっていないので、当初は「できた」と思えなかったです。クリケットはワンバウンドのボールを打つので、打ち方もポイントも野球とは違いました。

最初は戸惑いがあったんですね。

はい。クリケットと野球では、打ち方がそもそも違います。クリケットは、下からすくい上げるように打つので、下をずっと見るんです。ヘルメットの重さが首にかかり、初日は「むち打ち」のような状態になってしまいました。せっかく学生が来てくれたからいっぱい練習したいし、少しでも上手くなりたいと思って6時間練習したら、翌日「車と衝突でもしたの?」と言われるほどの「むち打ち」の状態でした。

衝撃です……!打ち方が野球とクリケットではかなり違うんですね。

クリケットで野球の打ち方をすると、「野球の打ち方しかできないんだ」と思われてしまう。上手になるためには、クリケットの打ち方を身に付けなければなりません。ずっと野球の打ち方に慣れていたので、最初の頃は癖がなかなか抜けませんでした。クリケットはキャッチャー道具のようなものをつけるので動きづらく、「こんなに違うのか」と驚きましたね。慣れるまでに時間がかかりました。

それでも頑張り続けることができる理由を教えてください!

できないことは宝で、やろうとすることは成長につながります。できないと必死に考えて、次の日にもチャレンジすると「1日で大きく変わった」と言ってもらえました。そうやって、できるようになることが成長だと思っています。ただ、日本ではクリケットを練習する場所がないので、その次に練習できるのは1週間後。そうなってしまうと、身体が一から覚え直しになります。始めたばかりの頃は、クリケットの打ち方をひたすら練習していくことの積み重ねでした。ようやく最近になって、クリケット選手っぽくなってきたと思えるようになってきましたね。

海外で感じた日本との実力差。クリケットも子どものスポーツの選択肢に

オーストラリアやスリランカへ、強化トレーニングに行かれたそうですね?

スリランカ代表チームの強化トレーニングに参加しましたが、彼らのようになるためにはどうしたらいいか、自身と比較しています。比較することで 課題がわかり、取り組むべきことが見えてきます。アスリートとしての経験 自分の方が上かもしれませんが、クリケットに関しては彼らが先輩。学ぶことばかりです。

海外のクリケットチームはどんな雰囲気でしたか?

スリランカ人は日本人が大好きです。英語なので敬語がなく、「Shogo!Shogo!」と呼んでくれます。フランクで、とても良い場所だと思いました。一方、オーストラリアは実力がすべてだと感じました。オーストラリアのチームに入ったとき、若い選手に最初は話しかけられることもなく、「何をしにきた?」という感じでしたから。ただ、クリケットの試合で打ったりすると「Shogo!」と歓迎ムードになりました。19歳の選手に頭をくしゃくしゃされます(笑)認め合えると仲良くなれる、実力社会でした。

海外のクリケットチームとかなりレベル差を感じましたか?

そうですね。日本のクリケットのレベルを上げていく必要があると感じています。もともとクリケットはイギリス発祥で、ラグビーの強豪国はクリケットも強い。クリケットの強豪国では、夏シーズンはクリケットを行い、冬シーズンはラグビーの競技をしているくらい、国民的スポーツです。

ラグビーとクリケットがワンセットになっているんですね!

そうなんです。冬になるとクリケットのショップが閉まります。クリケットシーズン終了後、周りの選手から「おいShogo!ラグビーやろう」と声をかけて来ます。クリケットを練習しにきているのに(笑)もちろんクリケットのトップ選手は、年がら年中赤道を渡り、クリケットをいろんな国で練習しています。クリケットの競技人口が多いので、言葉が喋れなくても、スリランカ人に「バッツマン?」「ボーラー?」と聞くだけで会話ができます。クリケットそのものが、共通言語になっています。

なぜ海外のクリケットチームはレベルが高いのでしょうか?

日本は野球、サッカーが主流なスポーツです。昔からの歴史もあるため、野球、サッカーに身体能力が高い子たちが集まっていく印象があります。野球やサッカーの中で競争社会が起きているんですよね。でも、クリケットが昔から根付いている国では、当然のようにクリケットも選択肢に入ります。日本は野球が強いように、だから強豪国はクリケットが強いんです。日本では野球人口が多いけれど、僕はクリケットという選択肢を増やしていきたいです

写真ⅱ:クリケットボールを握る木村昇吾選手

セカンドキャリアとしてチャンスあり!クリケットの認知を広めたい

クリケットが選択肢に上がるために必要なことについてお伺いしたいです。

現在、日本では日本クリケット教会 が講義などを行い、クリケットの認知を広げています。日本は、2019年にU19クリケットワールドカップ東アジア太平洋予選で全勝し、2020年に国内全代表チーム初となるICC国際大会に出場しました。ただ、初めての歴史的快挙にもかかわらず、日本人はほとんど知りません。まず、この競技といえばこの選手というように、アスリートとして前を走る人が必要です。やることはたくさんありますが、自分がやるのはアスリートとして活躍することだと認識しています。

どんな方にクリケットに興味を持ってほしいですか?

例えば、野球に挑戦してきても、どこかで壁にぶつかります。「裏方に行こう」と思う瞬間も来るはずで、その中には身体能力が高い子もいます。そんな子にクリケットという選択肢があったらと思っています。野球の文化がある国で、野球の経験が活かせる競技だと思うので、ぜひ選択してもらいたいです。

なるほど。クリケットの認知を広げる必要がありますね。

日本でクリケットを検索すると、「木村昇吾」の個人名が表示されるのは嬉しいことではありますが、変えていきたいところでもあります。いろんな選手がクリケットに関連し続けるのが理想です。僕自身もクリケットを広めるためにアスリートとして目立つ必要がありますが、他の選手が世界の舞台に立てるように次世代のことを考えなければなりません。

クリケットを伝えていくうえで、どのような課題がありますか?

今はスマホでいろいろと調べられる時代ですが、その人の興味関心のある事柄しか入ってこない側面もあります。昔はテレビが情報源として主流でしたが、ネットに移り変わってきたことで得られる情報が偏ってきているのも事実です。そもそも興味関心がないとクリケットの情報にたどり着きづらいですが、少しでも出会える確率を上げるためにもクリケット選手がさまざまなメディアに出て露出を増やしていくことが大事だと思っています。「クリケットはおもしろい」と伝えていきたいですね。

これから木村選手が取り組んでいきたいことについて教えてください!

今年の2月からスリランカの強豪チームに選手登録が決定しました。これをステップアップとして2021年後半から、インドのクリケットプロリーグ「India Premier League(IPL)」に挑戦します。今は日本におり、スリランカに早く戻りたいのですが、5月いっぱいは新型コロナウイルスの影響で練習ができず、戻れていません。まずはお金をもらってクリケットができる選手になりたいですね。将来的にやりたいことは、日本でアカデミアを作って、海外でも負けない存在を育成したいです。

最後に「これからクリケットに挑戦したい」と思っている方々へメッセージをお願いします!

僕みたいに野球をやっていた人はもちろん、スポーツで伸び悩んだり、何か挑戦したいと思っていたりする人にチャレンジしてもらいたいです。セカンドキャリアとして、チャンスは何回だってあります。何十回、何百回挑戦したっていいと思っています。何歳になっても諦めることなく、今回僕がクリケットを選んだように「何回もチャレンジをすることができる」ということを伝えていきたいですね。

木村選手の未来と、スポーツ「クリケット」の今後の展開が楽しみです!

クリケットを始めれば、世界中の人と知り合いになれます。国際的な競技で、努力すれば日本代表にもなることができますから。僕はクリケットに出会えて本当に幸せな人生だと思っています。人生の厚みができました。ぜひ皆さんにも一度体験会に来てほしいです。

写真ⅲ:木村昇吾選手(左)とインタビュアーの津久井智子(右)

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