特集2021.12.03
アイスホッケーの三浦優希さん 高校2年生で海外留学を決断した自分に 「よくやった!」と言いたい。感謝を忘れず、常にチャレンジャーであり続ける25歳 のミッションは…NHLプレーヤーとオリンピック出場!
アメフト、バスケット、野球と並び4大プロスポーツとして全米で人気を博すアイスホッケー。その最高峰であるNHL [ナショナルホッケーリーグ] に日本人初のフィールドプレーヤーとして挑む選手がいます。日本代表としても活躍、日本のアイスホッケー界を牽引する三浦優希さんです。若くしてアイスホッケーの強豪国チェコに留学、現地での活躍を認められ本場アメリカへ渡り、全米大学リーグで実績を積みます。
SNSなどで自らの経験を積極的に発信する三浦さんが大切にしているのが ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige) 「高貴なる者には追うべき義務がある」という言葉。
周囲に助けられて経験を積ませてもらったという三浦さんの感謝の気持ちは、次なる挑戦者へ還元しなければいけない。氷上の格闘技アイスホッケー、激しい一面に秘められたトップ選手の静かな覚悟とは? 日本ではまだマイナーなアイスホッケーというスポーツの魅力とは? 三浦優希さんにじっくり話を聞きました。
目次
三浦 優希 Miura Yuki プロフィール
1996年7月19日生まれ 25歳
東京都東大和市 出身 身長178センチ、80キロ ポジション:FW
日本代表歴:U18(2013年)、U20(2013-2014年)、2016年より日本代表。
プロ選手だった父の影響で3歳からアイスホッケーを始める。
早稲田実業高にスポーツ推薦で入学、17歳で強豪国チェコにアイスホッケー留学する。
その後、高校を自主退学しチェコに移住、当地での選手経験を経て新天地アメリカへ。
NCAAのDivision 1に所属するLake Superior State University へ進学し、2021年4月に卒業。
日本人初のNHLフィールドプレーヤーを目指し、今年度NHL傘下リーグのトライアウトに参加。
NHL傘下(3部)のリーグECHLに所属するチーム、Iowa Heartlandersと契約。
現在に至る
強豪国チェコへの留学が人生のターニングポイントに!
三浦さんの経歴からお聞かせください。
アイスホッケー日本代表としても活動しており、現在は海外を拠点に生活をしています。
父が長野五輪で日本代表選手として活動したアイスホッケープレーヤーだったので、その影響で自分もこの競技を2~3歳から始めました。幼いころは地元のクラブチームでプレーし、早稲田実業学校高等部に進学しました。高校2年時に留学制度を活用し、チェコのU-20リーグのチームに所属して練習や試合に参加させていただいたんですが、、その留学最終日に監督から「引き続きこのチームで一緒にプレーしてほしい」と声をかけてもらえたことがきっかけとなって、高校を中退し、海外で選手としてのキャリアを積む決意をしました。
強豪国チェコでキャリアを積む決断が、大きなターニングポイントになったんですね。
そうですね! まさに自分にとって転機となった出来事でした。
当時は高校卒業後にそのまま早稲田大学へ進学するものとばかりイメージしていましたが、チェコで監督と一対一で話した際にチームに残留する意向をその場で伝えていました。(笑)
自分がこのチャンスを逃せば、もう二度とこのような機会は来ないと感じたのが大きなきっかけでしたね。あとは自分で何とかしようと思っていました。
母親には「高校を卒業してからでは遅いの?」と言われましたが、今しかチャンスはないことを伝えると納得してくれましたし、応援してもらえました。早稲田実業学校高等部は中退しましたが、当時の高等部の先生から推薦いただいた、通信制の学校で高校卒業資格もしっかりと取得することができて今があるので、お世話になった方々には心から感謝しています。
ほかの記事も拝見しましたが、NCAAでは文武両道、「文」の割合が大きいなと感じました。
学生の本分は勉強だという意識は、とてもしっかりしていたと思います。成績が基準に達していないと練習にも参加させてもらえないので、自分にとってはいい環境だったと思います。
両親からも、幼いころから勉強することの大切さをずっと言われていました。父親自身も、大学在学中から国内のプロリーグで選手として活躍するといった大変な経験もしていたと聞きました。そういったことから、息子である私にはスポーツだけではなく勉学にも勤しむ大切さを伝えてくれていたのだと思います。
勉学もおろそかにせず、海外でチャレンジされてきたんですね!
周囲からのサポートも非常に大きいと感じました。
本当にそう思います。スポーツ推薦で早稲田実業に入学したので、3年間の高校生活をアイスホッケー部で過ごす前提でした。部活内でも主力でしたし、早稲田実業のアイスホッケー部は経験者よりも未経験者が多く入部する部活動だったので、私がチームから抜けることによる戦力ダウンは少なからずあったかと思います。
そんな時に当時のチームメイトやコーチ、父兄のみなさまが「優希、行っておいで!」と言ってくれたことには、すごく感謝しています。チェコに行くことを決断したのは自分自身ですが、その行動を周囲の方がリスペクトしてくださったことは、自分にとって大きな出来事だったかなと思います。
実際にその決断をしたことを振り返ってどう思いますか?
やはり行ってよかったと思います。もしチェコに行かず、日本に残ってプレーを続けていたらどんな人生になっていたのか…、いまでも考えてしまうことがあります。その人生も楽しかったとは思いますが、高校2年生でチェコ行きを決断した当時の自分自身に「よくやった!」と言ってあげたいぐらい、自分の人生をものすごく豊かにしてくれました。
海外で挑戦するという生き方を選択できたことで、人生がより楽しく感じられるようになったとも思います。高校生の自分がした決断のおかげかなと思っています。
チェコでの2年間はどういった気持ちで過ごされたのですか?
当初はチェコに行くことを、当時のチームメイトにしか言っていなかったのですが、次第に私の活躍を見てくれていたメディア関係者が増えてきたなかで、自分の考え方にも変化がありました。最初は、何事も自分が活躍することを中心に考えていましたが、時間が経つにつれ、自分はアイスホッケー界のチャレンジを背負っているという感覚になっていきました。
もし自分が挫折してしまったら、後に続こうとしてくれている選手たちはどうなるんだろう…と考えるようになったのです。今後、日本のアイスホッケー界がどれだけ発展するかは、自分の挑戦にかかっているという責任感は強く感じていました。
更なる高みを求め渡米、アメリカ生活で学んだこと
高校を自主退学した三浦さんは2年半をチェコで過ごし、20歳になる年に渡米しました。
アメリカのU-20リーグのチームに所属、1年間プレーをした期間の活躍を評価され、
大学スポーツ1部リーグ(通称:NCAA Division 1)の選手として経験を積みます。
ことし4月に大学を卒業、スポーツの本場アメリカで学んだこととは…?
チェコでの実績が認められ渡米されていますが、アメリカの生活はいかがでしたか?
楽しかったですね!
言葉や勉学の壁など、もちろん大変なことは多かったですが、そこでもチームメイトやコーチなど、周囲からの支えがあり、いまでも感謝しきれないエピソードがいくつもあります。
朝から晩までいっしょに過ごし、本気の勝負の世界で4年間さまざまな思いを一緒にしてきた仲間なので、大学を卒業する時には、涙を流さずにはいられないような存在になっていました。
アイスホッケーやスポーツ全般において、日本と海外の「違い」は感じられましたか?
学生スポーツを比較したときに、「お金を生み出す力」や「組織の規模」の差はあります。
NCAA所属の学生アスリートたちと接したときに、一人ひとりが「責任感」や「いま自分がここにいる理由」をしっかりと持っていることに気が付きました。
おそらくですが、ものすごく激しい競争を勝ち抜いてNCAAまで来ている人たちなので、他人の痛みも理解できるし、自分の力でさまざまな壁を上ってきたのでしょう。
互いにリスペクトしあっている人は多い印象ですね。社会貢献への意識や自己認知力のようなものも、とても高いと思います。
私自身も海外で挑戦できているこの状況は、普通のことではないと思っていますし、自身の気付きや経験を世のなかの人たちに発信していかなければいけないと感じています。
自らの経験を積極的に発信! ノブレス・オブリージュ 責任から逃げないということ
『note』には140記事以上を投稿されていますよね…!
*note(ノート)
様々なコンテンツ配信ができるWEBサイト、収益化が可能で、ユーザーがクリエーターを応援できるシステム
大学生の頃から始めて、気付けばそれだけの数になっていました。(笑)
続けられた一番の理由は、自分がどれだけ恵まれているかということを、海外に挑戦して気付くことができたからだと思います。日本国内のアイスホッケーチームは、試合に出場するために必要な人数が集まらなかったり、深夜にしか練習場所が確保できない。でも、自分は好きな時間に好きなだけ練習できる環境があり、試合も毎週のようにできる。
そのような経験を、自分のなかだけに留めていてはいけないと思い、アメリカにいる自分が日本の人たちに伝える方法として、SNSがベストだと感じて発信を始めてみました。
また、「成長過程を届ける」というSNS全体の共通テーマを置いているのですが、先述した私の夢である「NHLとオリンピックに出場すること」を達成するまでのプロセスをみなさんに見せていきたいと考えています。
たとえ、ニュースで自分の活躍を取り上げていただいたとしても、活躍の結果だけをタイムラインで見てもらうのと、ここまでの成長過程を知ってもらった上で現在の活躍を見てもらうのとでは、後者のほうが応援してくれている人たちに大きな「感動」を届けられると思っています。
だからこそ、包み隠さず成功も失敗も届けたいと考えています。
自分の見ている景色のありのままを届けようとされているんですね。
ノブレス・オブ リージュ(「高貴なる者の義務」の意)という言葉を大切にしています。
ヨーロッパで使われていた言葉が語源になっているのですが、私は「自分が得た恩恵を人々に返していく」という言葉として捉えています。
自分は恵まれた環境にいることを理解すべきだと思っていますし、一方で、アイスホッケーを続けるなかで過酷な環境に置かれている人たちがいることも認識しておかなければいけません。
だからこそ、情報を発信することについては「やりたいこと」というよりも「責務」のようなものだと考えています。だからこそ、『Twitter』や『note』も続けられているのだと思います。
一歩を踏み出す勇気 その背中を押す存在になりたい
現在は具体的にどのような活動をされているのですか?
アイスホッケーのオフシーズンが5月~8月頃で、シーズンが始まる10月に向けて準備をしている段階です。ウエイトトレーニングなどのパーソナルトレーニングを週4回程度で実施しながら氷上でのトレーニングも増やしていき、時機を見て渡米して、数チームのトライアウトを受けるような流れになるかと思います。
私の夢が「NHLとオリンピックに出場すること」なのですが、まずはNHL傘下(AHL、ECHL)のチームに加入することを今年は目標にしています。
編集部注:取材段階では、トライアウトを受けてNHL傘下のチーム入りを目指していた三浦選手。
無事にECHLリーグに所属するIowa Heartlandersというチームと契約し、プロとして活躍中とのことです!
まだ、道の途中かとは思いますが、意志が目標がすごく明確な印象を受けます。
そうですね。目指すところははっきりしているとは思います。
だからこそ日頃のことをコツコツがんばれているのかなと思っています。
三浦さんの最終的なゴールはなんですか?
いまはアスリートとして「NHLとオリンピックに出場すること」を目指すことになりますが、ほかには「チャレンジャーであり続ける」ことです。いまの自分があることは、挑戦の連続を経験してこれたからだと考えています。その姿勢を見せ続けて、これからの若い世代に自分のような生き方の選択肢があることを伝えたいです。
もうひとつは、「一歩を踏み出したい方の背中を押せる存在」になりたいです。
自分が経験したことを整理して体系化し、多くの人たちに伝えられたらいいなと思っています。
なぜ、そう思ったのですか?
これまで本当に多くの人たちのサポートを受けてきたり、1人だけでは叶えられないことも実現できたので、その体験を多くの人たちに還元していきたいという想いが強いですね。
三浦さんから見た、アイスホッケーの魅力を改めて教えてください。
ほかのスポーツにはないスピード感、激しいぶつかり合い、氷上でのスポーツなどさまざまな魅力がありますが、個人的には「要求されることの多い難易度の高いスポーツ」という点が特徴なのかなと思っています。まず、氷の上を滑らなければいけませんし(笑)、道具も使い、コンタクトもあり、前後左右いたるところに移動しなければいけないなど、いろんな要素が詰め込まれているところに楽しさがあると思います。
ただ、この魅力をどのように伝えていくかが今後重要になってくると考えています。競技人口の増加や、スポーツとしての認知の拡大などは、現役のプレーヤーである私たちがもっと真剣に取り組み、アイスホッケーの価値を上げていきたいです。
最後に…三浦選手にとって、アイスホッケーとは何ですか?
仕事でもあり、先生のような存在だと思っています。
このアイスホッケーという競技に対しては感謝の気持ちが止まることはありません。
また、この競技を通じてたくさんの方々に出会うことができ、こうして記事を読んでいただいている読者の方にも私のことを知っていただけていることは大変うれしいです。そう思うと、人生のすべてになっているものですね。
取材後記
インタビュー中も、これまでの環境や出会ってきた人たちへの「感謝」を常に言葉にし続けていた三浦選手。これまでもアイスホッケー界で結果を残しながらも、これからも高い目標に向かっていく謙虚な姿勢を感じた取材でした。間違いなく今後のアイスホッケー界を背負って行くことになる三浦選手から、今後も目が離せません。
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