特集2021.12.03

エアロビック競技の普及に燃えるトップアスリート。強い自信と自己肯定感が切り拓いたキャリアの全貌とは?

「エアロビック」というスポーツをご存知でしょうか?運動処方理論でもある「エアロビクス」を起源として派生したエアロビックダンスやエクササイズから発展を遂げた、アメリカ発祥のスポーツ。国際大会も多数開催されており、近年ではオリンピック種目化を目指す、老若男女問わず世界中で愛されている競技です。また、健康促進のためのフィットネスや生涯スポーツとしても注目されています。

今回インタビューしたのは、日本のエアロビック競技を背負って立つ現役選手の上田真穂さん。2020年全日本選手権では女子シングル部門で優勝するなど、日本代表として10年以上国際大会で活躍されているトップアスリートです。

上田さんにこれまでのエアロビック競技人生や今後の展望を伺いました。

もともと好きではなかった?母の影響で始めたエアロビック

まずはエアロビック競技を始めたきっかけを教えてください!

私の場合、指導者でもある母の影響で始めました。でも、最初は別に好きでやっていたわけではなくて(笑)そのクラブに会いたい友だちがいたから続けていたような感じですね。その友だちがすごくやる気があったので、「どうしてそんなにやる気あるんだろう?」と思いながら続けていました。

そうなんですね……!意外なエピソードでした!本格的に競技として始めてから、現時点に至るまでを教えていただけますか?

小学校6年生で初めて全国大会に出たんですよ。結果は一番ビリで、結構ショックでしたね(笑) でも、逆にそういった出来事が本格的に競技に打ち込むきっかけになったと思っています。
あとは、その大会では団体で出場したのですが、エアロビック競技には個人と団体があるため、個人でも表彰台を目指したいなと思うようになりました。

演技中の様子(提供:上田選手)

さまざまな思いが上田選手の起点になっているんですね。当時の指導者はお母さまですか?

そうです。ただ、思春期を迎えた頃、お互いの意見がぶつかることが多くなってしまって。何をしていても、私が母の言うことを聞かなくなってしまいました。

それは指導者として?親として?

両方ですね。中学校1年生の夏までは母の指導を受けていましたが、「このままではいけない」と思って、当時日本で最も強かった現在も所属しているチームに通い始めました。それが今につながっています。

その頃から現在まで、ずっと通っていらっしゃるということですか?

そうですね。週6日、品川から茅ヶ崎まで通っていました(笑)学校が終わって、2時間弱かけて通って、23時に練習が終わって終電で帰る生活を中学生から続けていました。

実際にエアロビックの活動はどうなっていったのですか?

個人としての力はついていきましたね。中学2年生のときにJOC(ジュニアオリンピックカップ)で初めて全国4位になりました。でも、ここからがスタートという感覚でした。個人的にはうれしい出来事でしたね。
高校に進学してからも、全国で4~6位あたりの順位をキープしているような状況でした。団体は特に良い成績をキープできていたので、世界大会なども経験させてもらえていました。

その後、大学の進路選択などはどのような感じだったのですか?

高校3年のときにAKB48のファンだったので、受験の進路相談で「進路どうするの?」と先生から聞かれたとき、「AKBに入りたい」って言いました。ただ、当時大人気でメンバーを募集していなかったので、その目標は断念しましたが(笑)
それと同じくらい、体育大学に進むことにも憧れがあったんです。北京オリンピックの内村航平選手の演技に感銘を受けて「私もトップアスリートになりたい」と思って、日本体育大学へ進学することにしました。

自称“超スーパー遅咲き”。大学の環境で花開いたエアロビックメダリスト

大学生活はどうでした?

「普通の大学生になりたくない」という変なプライドがあって、大学生時代は飲み会に一切参加していなかったですね。「トップアスリートはそんな遊びはしない」みたいな感覚だったのだと思います。
競技成績は大学から急に伸び始めて、大学1年生時に学生選手権で個人優勝してから、卒業まで4連覇を成し遂げることができました。「エアロビ会の帝京大学」と、ラグビーをしていた友だちから言ってもらっていましたね(笑)

いわゆる「遅咲き」だったんですね。大学からそれだけ成績を伸ばせた要因は何だと思いますか?

やはり環境は大きいと思います。日体大に入って、アスリートとして刺激を受けました。もともと周りの影響を受けやすいことは自覚していたので、大学でも良い方向に働いてくれました。

大学時代の上田選手(提供:上田選手)

それまでの苦難や焦りなどはありましたか?

特になかったですね。いつまで続けようかも決めていたわけではないので。でも、それこそ大学3~4年の進路選択時に「ここまで極めたから続けたい」という思いにはなりました。ただ、エアロビックはプロがないので、今後どうしようかは悩みましたが。
少し話は逸れますが、在学中にユニバーシアードに出場させていただいて、世界とのレベルの違いを体感することができたんです。「オリンピアンはこんな感じの気持ちなのか」と思えて、とてもモチベーションが上がりました。
一方で、嫌なことを言ってくるような人もいて、「オリンピック種目でもないのにどうしてそんなに頑張るの?」と言われたときに、カチーンときましたね(笑)「絶対に見返してやろう」と思いました。そこで、若い世代の選手が大学の恵まれた環境で競技ができるように部活動を作りたいと思い、大学専任の教員を目指して大学院に進みました。
その後、私自身も24歳にして初めて全日本選手権で個人としてメダルを獲得することができました。なので“超スーパー遅咲き”ですね(笑)

やっと掴み取ったという思いもひとしおだったんじゃないですか?

そうだったんですけど、2位までが個人で日本代表になれるんですよ。3位で喜んでいた私ですが、当時はメダル取れればいいと思っていたんですよね。

モデルや非常勤講師としても活動。根拠のない自信で挑戦を続ける

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そこから自分のキャリアをどうしようと思ったんですか?

社会人になると考えたときに、「まだ続けたい」という思いがあったんですよね。辞めようと思っていた矢先に、成績を出せてしまう競技人生です(笑)そこでコーチに相談した際に、大学の非常勤講師という選択肢が見つかり、その道に進もうと決めました。現在は2校で、ほぼ毎日、一般体育の授業を担当させてもらっています。

プロもないと仰っていましたが、社会人になって続ける人はかなり減りますか?

そうですね。大学卒業と同時に辞める人はすごく多いです。ただ、コロナ禍になって試合がなくなり、競技を続けられないスポーツ競技界の現状を目の当たりにしたときに、これからの時代は競技だけでは生きていけないと感じました。
そのとき、競技以外に他の活動を続けていたので「私、いつ引退しても大丈夫だ」と思うようになって、逆にいろんなことに挑戦できるような、自分に適した生き方ができていて良かったと思うようになりました。

だから今も複数の肩書きがある状態で楽しくお仕事もされているんですね!その自信はどこから得られるものなのですか?

難しいですが、私自身が自分のことが大好きなんですよね。それが根拠のない自信につながっているのかもしれません(笑)昔からですね。でも、その自信が結果を作ってきたのだと思います。
現在のモデル活動も、全日本選手権前に美容院で読んだ雑誌で募集を見かけた際に「絶対いける!」と思ったので、応募しました。動機としては、エアロビックをスポーツ競技という枠だけでなく、他の業界でも知名度を広めるためでした。

モデル活動もされる上田選手(提供:上田選手)

上田選手が積極的にSNSで情報を発信していらっしゃるのも、そのような想いや考えがあってのことでしょうか?

それこそ、積極的にSNSで発信するようになったのは昨年からなんです。コロナ禍になり、私も大学での仕事が減るなどして、金銭的に自身も競技活動が継続できなくなるかもしれないと思い始めました。「このままではいけない」と感じ、まずはSNSでの発信からスタートしました。Facebookでは、最初800人ぐらいの登録数が、いまは4,800名ほどになりました。

どのようにして、それだけ多くのフォロワーを獲得したんですか?

友だち候補に上がってきた方々に、ひとりずつメッセージを送ったんです。「私はエアロビック競技をしている上田真穂です!」という感じで、自分をPRしていきました。
その後、毎回コメントをくれる方もいらっしゃるので、とても嬉しいですね。ただつながっても、自分が発信しなければ意味がないので、その行動に一歩踏み出せたのは良かったです。

目指すは五輪種目化!エアロビックの普及に情熱を燃やす

これまでも「エアロビックをなんとかしないといけない」という思いで、いろんなことに挑戦してこられましたよね。

今年は東京五輪もあって、開会式を家族で見ていたんですけど、途中からすごくイライラしてしまって。「どうして私がここにいないの?」と思って、「開会式見たくない!」と言って親とケンカしていました(笑)その後、すぐにオリンピックの開催予定を調べてコーチに連絡し、「このオリンピックでエアロビック競技が採用されたら、絶対出場するんで!」って伝えました(笑)

上田選手らしい、意志の強さを感じられるエピソードですね。今後の展望についてはどのようにお考えですか?

昨年初めて全日本チャンピオンになったからこそ、できることや伝えられることをたくさん経験させてもらったので、引き続きエアロビックの普及と五輪種目への選出に貢献していきたいです。
どこでどんな方とつながれるかわからないので、ひとりでも多くの人にエアロビックを知っていただけるように努力したいです。今はタクシーの運転手さんとかにも宣伝しています(笑)

さすがです!最後に、個人として成し遂げたいことを教えてください!

自分の名前が付いた大会を開催したいです!あと、ショーのような取り組みもしたいですね。以前、ジャニーズのコンサートに行く機会があって、「見るんじゃなくて出たい!」って思ってしまって(笑)途中から照明やBGM、演出についてなど、すごいメモしてました。音と光と身体表現は、人を感動させる力を持っているので、現役のうちにプロデュースして出演したいですね!

ショーの開催を楽しみにしています!ありがとうございました!

取材後記

取材全体を通して、上田選手の言葉や視線から「自信の強さ」や「自己肯定感の高さ」を感じました。ただ、その裏には上田選手が自ら考え行動し、結果を出すための絶え間ない努力を行ってきたからなのだと知ることができました。
いつでも、どんなことに対しても高いプロ意識で取り組む上田選手が牽引する、今後のエアロビック競技界の動きから目が離せません!

上田真穂 選手の情報はこちら!

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