特集2021.08.16

本気で遊ぶ大人はカッコいい!かくれんぼ・岡村尚美さんが伝えたい人生の余白の使い方

誰もが子どもの頃に経験する定番の遊び、かくれんぼ。日本だけでなく、世界中で愛されていますが、近年では“大人の遊び”としても発展を遂げています。2010年からは18歳以上のための「かくれんぼ世界選手権」が開催。かくれんぼは、今や注目を集めるアクティビティなのです。

日本では、2017年に初の代表チームが立ち上がりました。その発起人で、初代日本代表リーダーが今回インタビューさせていただいた岡村尚美さん。大手スポーツメーカーのミズノ株式会社で研究開発部員として働きながら、一般社団法人 日本かくれんぼ協会の理事も務められています。

岡村さんに、かくれんぼを始めたきっかけや、競技としての特徴や魅力、かくれんぼを通して伝えたいメッセージをお伺いしました!

鬼に見つからず、ホームを目指せ!かくれんぼ世界選手権のルール

大人のかくれんぼは、どのようなルールで行われるのですか?

さまざまな遊び方があり、すごく細かいところまで決まっているわけではありません。例えば「かくれんぼ世界選手権」でのルールは、日本でいう「缶蹴り」や「ポコペン」をイメージしていただけるとわかりやすいです。

まずは「ホーム」と呼ばれる目印を作り、その後、1分の間にプレイヤーは隠れます。そして、制限時間5分以内に鬼より先に「ホーム」までたどり着くと勝ちになるルールです。鬼は「赤色見ーっけ!」のように、見つけた人が着用しているユニフォームの色を言い、その人より先に「ホーム」まで戻らなければなりません。

鬼は大変そうですが、少し不利ではないのですか?

公式大会の場合、鬼は大会や協会が公認する人たちが専属で担います。出場者は全員隠れる側なんですよ。

前回大会だと1試合につき20名が同時に隠れました。最初に「ホーム」に到達した選手に20点、2番目に19点……と、到達順位により点数が決定されるので、どこで勝負を仕掛けるべきか、隠れる側のせめぎあいもかくれんぼの醍醐味のひとつです。

制限時間5分のかくれんぼを数回行い、参加者の合計得点で順位が決まります。隠れている人全員を制限時間内に見つけることはかなり難しいですね(笑)。

写真ⅰ:かくれんぼ大会の様子①(提供:岡村さん)

写真ⅱ:かくれんぼ大会の様子②(提供:岡村さん)

奥が深いですね!協会公認の鬼も強そうです(笑)

そうですね!かなり頭も使います。現在、鬼を増員しているところで、最近はビーチテニスの日本代表選手に加わっていただき、日本選手権では元箱根駅伝ランナーや陸上競技会の『歴代十傑』に名を連ねるような方にもご参加いただいています。

試合中に鬼は代わるんですか?

鬼もチームが組まれており、1試合ごとに代わります。「低い姿勢でプレイヤーを探すのが得意な人」や「最初に自分から見て右側を探す傾向の強い人」など、その人によってクセもさまざまです。そのクセの読み合いなんかもおもしろいポイントですね。

隠れる側も交代するんですか?

世界選手権の場合ですと、1チーム5名で構成され、1試合につき1名ずつ出場します。20チームで1ブロックを形成し、予選を実施しています。出場していない他の4名は、試合の様子を俯瞰できる場所で作戦を練りながら観戦し、自分のターンに向けて準備をします。

写真ⅲ:かくれんぼ大会の様子③(提供:岡村さん)

きっかけはスポーツ鬼ごっこ!かくれんぼを始めた意外な理由

かくれんぼを始めたきっかけを教えてください!

すべての発端は、「スポーツ鬼ごっこ」を大学4年生の冬に始めたことです。実は、当時取り組んでいた卒論が辛すぎて……(笑)理工系の学部だったんですが、Excelのデータと毎日8時間以上向き合うだけの生活をしていて、やってられなくなったんですよね。少し気を紛らわせたいと感じ、自分のようなド素人でも始められるニュースポーツをネットで探しました。いくつか出会った中で、最もハマったのが「スポーツ鬼ごっこ」だったんです。

その後、大学院在学中に半年間、イギリスに留学する機会がありました。その際、せっかくなら日本以外の場所で「スポーツ鬼ごっこ」を広めてみたいなと思ったんです。そのことを「スポーツ鬼ごっこ」の発起人でもある、鬼ごっこ協会の会長に相談しました。すると、「イタリアでかくれんぼをやっている人がいるから、時間があったら交流しに行ってみたら?」と提案をしてもらったんです。ただ、せっかく行くなら日本代表のかくれんぼチームを作って、世界選手権に出場してしまおうと思ったことがターニングポイントでしたね。実際に大会に出場したら、その魅力にハマりました。

最初の頃は「かくれんぼって地味だな」と思っていたんですけどね(笑)走力に差があると、鬼ごっこは人によって有利・不利や苦手意識が生じると課題に感じていたのですが、かくれんぼなら老若男女問わず楽しめることを知りました。

そういった経緯で出場されたのが、第8回世界選手権だったんですね。

そうです。「アジアからチームが来たぞ!」「ジャパン!ジャパン!」と注目いただき、来年以降も出場しないといけない昂揚感がありました。

自分で言うのもおかしな話ですが、日本代表も変な人たちなんです(笑) 9月の頭に、かくれんぼをするためだけにイタリアに来ちゃうような人なんですよね(笑)

確かにおもしろい方々ですよね!どんなメンバーなんですか?

同じ留学プログラムでオランダに行っていた友人を最初に誘い、ほかの3名の友人は日本から来てくれました。ミラノ空港ではじめて5人が出会ったのですが、それが日本代表チーム誕生の瞬間です。年齢も性別もバラバラでしたが全員非常に仲が良く、「君たちは家族で出場するの?」と他国チームに間違われたほどです(笑)

写真ⅳ:インタビュー中の岡村さん

誰もが主人公になれる!かくれんぼの醍醐味

かくれんぼの最大の魅力はなんですか?

どんな人でも主人公になることができ、些細なことも褒め称え合えるところです。目立たない人が見つからないまま勝つと、最後に一番目立つんですよ。そんな遊びって、なかなかないですよね(笑)スポーツが苦手な方や運動することにコンプレックスのある方が、いきいきとした表情をされているときが、個人的には最もうれしい瞬間です。

反対に、難しいところはどんな点ですが?

普段の生活ではなかなか考えないようなことに気付く必要がある点ですね。「自分がしゃがんだらどれくらい小さくなるのかわからなかった」とか「思っていたよりも鬼との距離感がわからない」とおっしゃる方は非常に多いです。現代人が失っている感覚なのかもしれないです。

岡本さんは「スポーツ鬼ごっこ」のご経験があると先ほど伺いました。実際にやってみて、鬼ごっこよりかくれんぼが魅力的な点はどんなところですか?

「スポーツ鬼ごっこ」は、走ることが苦手な子どもたちが楽しくなる遊びを作ろうというきっかけで生まれたのですが、「鬼ごっこするよ!」と言うと、まだまだ最初の段階のハードルが高いと感じてしまわれていました。

でも、「かくれんぼするよ!」と声をかけると、「それなら私にもできる!」と思ってくれる人たちが多かったんです。「私、全然走れないからね」と言っていた女性の方が、気付けば猛ダッシュしていたこともありました(笑)

やはり人は楽しくなると夢中で走りたくもなるし、本能的に掻き立てられるものです。このような遊びから、どんどん他のスポーツの挑戦などにつながっていけばいいなと思っています。

写真ⅴ:岡村さんとかくれんぼ大会に参加した皆さん(提供:岡村さん)

かくれんぼを通して、忘れてしまった「遊び心」を取り戻してほしい

かくれんぼを通じて、岡村さんが伝えたいことを教えてください!

世界選手権に出場して感じたことでもありますが、「本気で遊んでいる大人はカッコいい」ということです。世の中、満員電車で毎日人にぶつかりながら過ごしているような方々を見ると、「この人は普段笑えているのかな……?」と思ってしまいます。世の中のみなさんに、自分が忘れてしまっている童心や感覚を取り戻してほしいという気持ちは強いですね。

毎日同じルーティンで過ごしていると、「遊び心」って忘れてしまいがちですよね。

かくれんぼ参加者へ連絡している持ち物の欄に「ちょっと汚れてもいい服装」と「遊び心(これを忘れると参加できません)」って必ず書いています(笑)デジタルな機器は一旦置いて心も開放し、生活の中の余白を遊びに変える。人生に遊びを取り入れることで、余白が十分に保たれる状態を作りたいです。

あくまで、かくれんぼは「遊び」なんですね!

かくれんぼ世界選手権の本部の方も、「かくれんぼをスポーツと決して呼ぶな」と言うんです。確固として「遊び」なんだという気持ちの表れですよね。私たちのホームページでも「競技」ではなく、「競戯」という表記にしているのも、そういった理由からです。

岡村さんの夢や目標があれば教えてください!

「かくれんぼのプロ」と日本人全員が世界や宇宙に対して名乗れるような、ガチで遊べる世界観を作りたいと思っています。「かくれんぼといえば日本!」「日本人全員が、遊び心が溢れすぎていてヤバい!」という状況が理想的です。ゆくゆくは、国民の幸福度や、健康寿命の向上に寄与できればいいですね。

とても素敵なビジョンです!最後に読者のみなさまにメッセージをお願いします!

かくれんぼをすれば、大人が童心にかえることができます。大会では順位は付きますが、勝ち負けがすべてではありませんし、賞金もありません。心を開放して、みなさん無邪気になりましょう!ぜひ私と一緒に遊んでください!(笑)

写真ⅵ:インタビューに答えてくださった岡村さん

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取材後記

本日のインタビューで、岡村さんから遊び心やワクワクすることの大切さ、それを通じて誰かの思いをプラスにしたり、ポジティブにしたりしていきたいという強い意志を随所に感じました。

また、かくれんぼのような遊びがスポーツやアクティビティの原点でもあるということ、それらを通して感じた楽しさや喜びといった感情が、人々の健康や幸福度の向上にも大きくつながることを再認識できる機会でした。

かくれんぼの今後の発展、岡村さんの活躍に目が離せません!大人になったいまだからこそ、みなさまもこれを機に童心にかえってかくれんぼで遊んでみてはいかがでしょうか。

岡村尚美さん/日本かくれんぼ協会の情報はこちら!

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