特集2021.12.29
目指すは “社長オリンピアン” カヌースプリント 菅原彩花さん(30) バレー選手として10年間補欠だった彼女がカヌー競技と出会い、独自の道を拓く。フリーランス × アスリートでパリ五輪出場を目指す!
みなさんはカヌー競技について、複数の種目があることをご存じでしょうか。カヌーといえば、日本ではスラローム種目の羽根田卓也選手をイメージされる方も多いかと思いますが、実はこまかく分類すると10種目以上もある五輪競技でもあるのです。
19世紀にイタリアで発祥したこの競技、そのスプリント種目で活躍する菅原彩花さんに取材しました。バレーボール選手としてずっと補欠だった彼女がひょんなキッカケで、カヌー競技と出会い、フィジカルな強さを武器にフリーランスとしてパリ五輪出場をめざす。
菅原さんのカヌー競技にかける強い思いを聞きました。
目次
菅原 彩花(すがわら あやか) プロフィール
1991年生まれ 東京都出身
青山学院高校→青山学院大学→日本体育大学 大学院
日本体育大学 大学院時代に日本スポーツ振興センター主催の「タレント発掘・育成プログラム」に出会い、カヌー競技と出会う。100名以上が参加するトライアウトで合格し、日本カヌー連盟から強化指定資格を得る。現在は、フリーランスでさまざまなビジネスに携わりながら、仕事と競技を両立している。
【主な戦績】
2020年 全日本選手権 WC-1 500m : 8位
2019年 海外派遣選考会 WC-1 200m : 4位
2018年 全日本長距離選手権 WC-1 10000m : 準優勝
片っ端から受けたトライアウト、最後に残ったのがカヌー競技だった
早速ですが、カヌースプリントを始めたきっかけを教えてください!
実はすごく早い段階から始めたわけではなくて、6年前にカヌーとは出会ったんです。きっかけも、体育教員の免許を取得したくて進学した日本体育大学の大学院で「タレント発掘・育成プログラム」という機会と出会いまして。日本スポーツ振興センターが東京五輪に向けて即戦力を集めたいということでスタートした取り組みなんですが、そのポスターを見たことがきっかけでした。
*カヌースプリント種目 静水におもに直線のコースを設置し、着順、タイムを競う。乗組員数によりシングル・ペア・フォアの区別がある。
それまでは、10年間バレーボールをやってきたのですが、大学では全然試合に出られなかったんです。全員春高に出場しているような選手ばかりで、でも「何かで勝ちたい!」という思いがあったので、筋トレは人一倍取り組みました。試合には出てないのに、フィジカルはチームで一番強かったです。(笑) そんな私を見てくださっていたトレーナーの方の、「他競技だったら五輪を目指せるんじゃないか?」という言葉に背中を押されました。だから、大学院生最後の年に挑戦してみたんです。
すると、一次選考を通過し、ボート・ラグビー・自転車トラック・カヌーの4競技から二次選考を受けないかとお声をかけていただきました。その時は、「ここまできたら、最後まで残った競技をやろう」って思ってましたね。(笑)
すごいですね!全部トライアウトを受けたってことですか?
片っ端から選考を受けました。(笑) 自転車トラックとカヌーがその後二次選考も進んだのですが、自転車トラックは最終選考でダメで、残ったのがカヌーだったんです。その後、国立スポーツ科学センターで実施された、2カ月間の合宿で最後のテストに挑みました。その結果、なんとか修士論文と両立しながらカヌー競技で合格をいただいたという流れです。
ちなみに、カヌー競技自体のことはご存じだったのですか?
全然知らなかったです!最初は「ディズニーランドのアトラクションで乗るやつ?」「中学校の体験学習のカリキュラムで見たっけ?」などと言ってました。(笑)
そんなにも知らなかった競技と出会ったわけですよね!どんな気持ちでした?
それはもう、とてもワクワクしていました。大学の時は裏方で周囲のサポートに全力でしたし、こんなにも自分のためだけにコーチが指導をしてくれるなんて、すごく幸せなことだと思いました。やり始めた2カ月間はとても苦しかったですが、それと同時に「絶対にこのチャンスを掴みたい」って思いましたね。
「お見合い結婚」が熱愛に!挫折と成長を繰り返しながら歩んできた競技生活
トライアウト合格後はどのような期間を過ごされましたか?
最初の半年間は打ちのめされました。
トライアウトに合格した時は大学院も修了して、一番幸せな状態だったんですよね。当時はその「タレント発掘・育成プログラム」の影響もあって注目してもらっていたりしたこともあって、いろいろ期待されていました。でも、そこからは修行の日々。関西で2年間、コーチとマンツーマンでカヌー三昧の日々でした。
カヌー歴3カ月目で初めて大会に出たんですが、結果はビリ(最下位)。現実を突きつけられましたね。自信を失いかけました。そんな時、香川県に遠征した際に、中学生からレースの勝負を挑まれたんです。そこで初勝利をおさめることができました。それがうれしくて、その経験をさせてもらった彼女には、いまでも感謝してます。
すごく大きな経験だったんですね。
そこからはどのようにして実績を重ねていったんですか?
最初の1年間はひたすら自分との戦いでしたね。少し花開き始めたのは、仲間という存在ができた頃のことでした。当時のコーチが、他県から指導を希望する選手もいるほど頼られる存在だったんです。そこで集まった方々と一緒に練習をやるようになって、みんなで合宿をする機会がとても楽しく思えてきました。
その後、カヌーをはじめて1年半が経った頃に全日本選手権があり、そこで決勝に進出することができたんです。仲間の存在の大きさを、そこでとても感じましたね。
イレギュラーなキャリアだからこそ、大変だったこともありましたか?
ありましたね。同じ競技をしている選手から煽られたりもしました。正直、最初はカヌーのことを好きになれていなかったんです。「お見合い結婚」のような、自分で選んだことではない感覚があって。でも、この全日本選手権での決勝進出でカヌーの楽しみを知ったし、自信もつきましたね。
その後の、菅原さんのカヌー競技者としてのキャリアについても教えてください!
私のなかで2つ、ターニングポイントがありました。
1つ目は、カヌー歴3年目に経験した大敗北です。これまで右肩上がりで、はっきり言って調子にのっていたんですよね。大会でのメダル獲得も自分で期待をしていました。
ただ、カヌーは筋力や体力だけで通用する競技ではなく、高いバランス感覚や技術力を要するものだということに当時は気がつけていなかったんです。そんな頃に、大会前日に熱を出してしまい筋力が全部奪われ予選落ちしてしまいました。
でもその時に、「熱があっても勝てる選手もいる」ということを知ったんです。自分はずっと筋力に頼っていたことに気付き、もっと自分が思うとおりに身体を動かせる技術が必要だと、そこで初めて思ったんです。それから、身体の連動性を高めるトレーニングにも重きを置き、練習内容もガラッと変わりました。身体的な神経伝達を養うトレーニングを継続した結果、その後の海外選考会で4位を獲得し、とてもうれしい経験をすることができました。
2つ目は、その大会がきっかけとなって、長崎県の会社に就職したことです。コーチも変わって別の指導者とタッグを組み、就労しながら競技をする環境になったのですが、前回大会の半年後に大敗してしまいました。仕事との両立がうまくいかなかったことが原因だと思い、そこから更に練習に打ち込んだんですよね。ただ、その直後にコロナ禍に巻き込まれたんです。
そのタイミングだったんですね…
きっと、いろいろ大きく変わったように思います。
すべての試合や練習が見送りとなり、気持ちの面でもガタガタっと崩れてしまい、どんなに練習を重ねてもメンタルが追いついて来ない時期でした。その時に、いくら練習をやっても、適切なトレーニングをしても、メンタルが伴っていないと絶対に勝てないことに気が付いたんです。
やっぱり精神力って、とても大事なんですね。
そうですね。自分の弱さを知って、そこからメンタルトレーニングも強化し始めました。成功する自分を強くイメージして、その姿から逆算して「今やるべきこと」を考えるようになりました。
その機会に、ほかにもご自身で気付かれたり学ばれたことなどもありますか?
自分の思いが未来を創っていることに気付いたんです。自分が「絶対に叶えるんだ」という強い意志を持って、行動を決めて、常にワクワクしていたら、すべては向かう方向に進んでいくということが分かったんですよね。そういう考え方に変わってから、不思議といろんなことがうまくいきはじめて、ようやく「心技体」の重要性を知ることができる段階にきました。人間、何事もやってみないと分からないもんですね。(笑)
すべては「五輪出場」のため ”フリーランスアスリート”のパイオニアになりたい!
現在の”フリーランス”という働き方になったのは、どんなタイミングからですか?
先ほどお話しした「心技体」の重要性に気付いた後、「お金」と「時間」の重要性も感じるようになりました。長崎県で働いている頃、日本代表選手に比べると圧倒的に練習時間と競技にかける費用が足りていなく、「このままだと五輪には出られない」という危機感を感じるようになりました。そして、会社を辞めて個人事業主として生きていくことを決めました。
自分の好きな時に仕事をして、競技をするという生活を望んで、良い環境を求めていく考え方にシフトされたんですね。
そうですね。その後には、クラウドファンディングにも挑戦しました。東京五輪のために国内合宿をスケジュールしたかったんですが、会社から提供していただける金額だけでは足りず、自らいろんな人に連絡を取ったり、FacebookでPRをしたりしてコミュニティを広げていきました。最初は資金集めが目的でしたが、本当の意味で自立したいと思うようになったんですよね。また、そのクラウドファンディングをきっかけに、お世話になった方々に恩返しをしたいという気持ちが強くなりました。そこからフリーランスとして、仕事も本格的にはじまっていきました。
アスリートが生計を立てることが大変なことだと実感したと同時に、自分が「フリーランスアスリート」としての道を切り拓いていくことができれば、金銭的な問題で競技継続に悩むスポーツ選手を1人でも多く救えると思ったんです。だからこそ、その「フリーランスアスリート」のパイオニアになりたいと強く思っています。
素敵です!ちなみに、どのようなカテゴリーのお仕事をされているんですか?
ECコンサルの仕事が多いです。それこそ不思議なご縁で、フリーランスをしながらスポーツ競技に励む方々と出会うことが最近多く、そんな仲間と一緒に仕事をする機会もあります。ほかには、耳の形や状態を見て健康状態を把握し、適切な施術を行う”耳つぼ”のマッサージ、ライバー、サプリメントのPRなど、さまざまな活動を同時並行でおこなっています。
人の身体に関連することが多いですね!
そうですね。結局、自分の好きなことしか仕事にしたくないので、興味や関心のあることが自然と多くなってきます。
正直、長崎県を離れてよかったと思いますか?
私は良かったと思っています。地元東京都にも戻ってくることができて、いろんな人の繋がりで多くのお仕事の機会も得られました。東京には、ビジネスチャンスはたくさんあることを知りましたね。前職のみなさんには心から感謝をしていますし、心機一転、これからも頑張ろうという思いが強いです。
目指すは「社長オリンピアン」!悩めるアスリートの救世主となりたい
アスリートとして、今後のビジョンはどのように描いていますか?
まずはパリ五輪に出場したいという思いが強いです。東京五輪までの時間は短かったので、今度こそトレーニングに専念できるように、好きな場所、好きな環境、好きな指導者を選べるようにしたいです。
また、カヌーを海外からもっと学びたいと思うようになりまして。東京五輪観戦をきっかけに、世界から日本のカヌー競技を見た際に、遅れを取っているように感じました。せっかくいろんなことができる立場に立てたので、いろんな事例を出していきたいなと思っています。”フリーランスアスリート”としても、「明日辞めてもいいけれど、一生続けることもできる」という状況を作り出したいですね。
菅原さん個人としては、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?
カヌー界初の「社長オリンピアン」になりたいです!自分が悩んできたことと同じような状況に置かれている方々を救えるような、事業や取り組みに力を入れていきたいですね。自分の競技力を極めた後は、どんどん周囲にその経験を還元したいです。
自分がカヌーによって人生を変えてもらったので、もっとマイナースポーツやカヌー競技の可能性を広められるといいなと思っていますね。
心から期待しています!
最後に、このメディアをご覧のみなさまへ、メッセージをお願いします!
では最後にカヌーの魅力を3つ、改めてお伝えします!1つ目は、レース展開の”アツさ”です。1秒未満でタイムを争うスプリントは、見ている人の心に火をつけます。2つ目は、選手の鍛え上げられた肉体ですね。(笑) 男性はイケメン選手も多いので、ぜひそういったビジュアル面での魅力も感じていただきたいです!3つ目は、カヌー競技自体が人生そのものと重なる点が多いことです。レース展開こそ”アツい”のですが、普段の練習は非常に地味な活動の積み重ねなんです。でも、ある日ふと成長を実感することができるんです。そんな競技性も、ぜひご覧なって感じてもらいたいですね。
ぜひ一度、カヌー競技を観に来てください!試合会場でお待ちしています!
取材後記
決して平坦な道ではない競技のキャリアを歩んで来られた菅原選手。ただ、どんな時にも前を向き、自身の経験から得られた学びや気づきを、自らの力に変えてこられたからこそ、いまの菅原選手がいることを知ることができました。また、アスリートにとって「心技体」の重要性の高さも感じらた取材でした。
新たな”フリーランスアスリート”という在り方に挑戦し、日本のすべてのアスリートに新たなキャリアを示そうとされている菅原選手の活躍から目が離せません!
【2021/12/30 イチナナライブ配信決定!】菅原彩花さんの情報はこちら!
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