特集2022.03.18

川崎のスポーツの聖地・等々力緑地で、縁のある元アスリートが語るキャリア。

1月16日に川崎の等々力緑地を中心とした「はたらく」に関する新しい価値観を体験するイベント・&WORKでスポーツ×キャリアをテーマとしたトークセッションが行われました。
ゲストは現役時代に東芝で活躍し、現在川崎ブレイブサンダースでGMを務める北卓也氏と、川崎フロンターレなどでプレーした狩野健太氏。
今回はその様子をお届けします。

登壇者プロフィール

◯ゲスト
北 卓也(きた・たくや):Bリーグ・川崎ブレイブサンダースGM
1972年5月29日生。拓殖大では全日本大学選手権(インカレ)優勝に貢献し、ユニバーシアード日本代表に選出される。卒業後は東芝バスケットボール部所属し、日本代表としても活躍。

狩野健太(かのう・けんた):元プロサッカー選手
1986年5月2日生。静岡学園高校卒業後、横浜F・マリノスに加入。
2013年に柏レイソルへ移籍、ヤマザキナビスコカップの優勝に貢献した。
2016年から川崎フロンターレに活躍の場を移し、翌年J1初制覇を達成。
2018年から徳島ヴォルティスに在籍し、2020年に引退。現在は川崎フロンターレでスクール・普及コーチを務める。

◯ファシリテーター
高橋麻菜美(たかはし・まなみ)
ウエディング大手ノバレーゼにて人材開発部長を経験。リクルートグループの海外事業ブランドRGFにて営業マネージャーを務めたのち、フリーランス人事となる。その後、株式会社fanphareの立ち上げに参画。

結果的に拓けていった、プロへの道

高橋:まず、お二人がどのようにプロになったのかお伺いしていきたいのですが、最初からそこを目指していたのでしょうか?

:僕は全国大会はミニバスケットボールと中学で行ったんですけど、高校では行けなかったので、自分が通用するとあんまり思ってなかったんですよね。当時はまだBリーグはなかったですから、目指すとしたら実業団チームだったのですが、僕はずっと自信がなくて、バスケットボールでご飯を食べようとは思っていませんでした。
でも大学の時に転機があったんです。

高橋:それはどのようなきっかけだったのでしょうか?

:インカレ(全日本大学選手権)でちょっと結果を残して、そこで上を目指したいなと思いました。だから実は小さい時から「バスケットボール選手になるんだ!」というのは正直なかったです。

高橋:狩野さんは小さい頃からサッカー選手になると決めていましたか?

狩野:僕は小学校1年生の時にちょうどJリーグが開幕して、盛り上がったところから友達と地元の小学校の少年団でサッカーを始めました。
でもプロになりたいというよりは、上手くなりたいというか、少年団の中で一番になりたいという気持ちの方が大きかったように思います。
そのうち市や県の選抜に呼ばれるようになって、“一番になりたい”の規模が拡がっていきました。
高校生くらいになるとスター選手を間近で見る機会もあって、自分もプロになれるかもしれないとは思ったんですけど、そこを目指していたというよりはもっともっと上手くなりたいという気持ちを持って子供の頃はやっていました。

選手時代と現在で異なる役割

高橋:お二人ともスポーツが好きで、極めた先にプロになれるかもしれないというタイミングがあって、チャンスを掴んだという感じですね。
実際にプロになれたときの心境や現役時代を振り返って改めてスポーツ選手というキャリアをどう捉えていますか。

:好きなバスケットボールが仕事になったので、もちろん自分が上手くなりたい、活躍したいっていうのはあるんですけど、やはりチームが成績を残さないと給料も上がって行かないので、そこを最優先に考えていたかなと。
そのために自分ができる努力はしますし、チームのためにどうするかというのも考えてました。やはり仕事なのでただ技術を極めるだけではなく、その周りのことも真剣に考えるようになりました。

高橋:ただ好きでやっていたというところから、プロになるとチームや他者のことをより考える必要が出てきたということですね。
プロになってから新しく取り組んだことや、発見したことはありますか?

:大学まではひたすらバスケットボールの練習しかやったことがなかったんですけど、プロになってからはメンタルトレーニングをしたのは新鮮でした。より高いレベルではこういうことも必要なんだなと。

高橋:狩野さんはプロ選手になってから得た新たな気づきはありましたか?

狩野:今、川崎フロンターレのサッカースクールで指導させていただいていて、生徒が2000人もいるのですが、よく聞かれるのが「プロにどうしたらなれますか?」という質問です。

高橋:一番多い質問ですよね!(笑)

狩野:でも僕は今振り返ってみても、上手くなりたいという気持ちの延長でずっとやってきていて、「プロになりたい」が目標ではありませんでした。
だから実際プロになってからもこのレベルの高い人たちと一緒にやる中で、自分が上手くなりたいっていう気持ちで続けていたんです。
現役生活15年間で最初から最後まで、その中で上手くなりたいっていう気持ちでやっていました。

高橋:でもプロになれば純粋に競技が上手くなるため以外にサッカー選手として様々な活動をする機会があると思います。

狩野:もちろんありますね。シーズンオフに応援してくださるサポーターの方々と交流したり、一緒にボール蹴ったり、そういう活動はありましたね。

高橋:先ほどスクール生が2000人いるとおっしゃっていましたが、やはり川崎は土地柄サッカーをする人も多いのでしょうか?

狩野:他の地域に比べると分母自体が多いと思います。その分やっぱり競争もありますけど。

高橋:一方北さんは今ゼネラルマネージャー(GM)というちょっと難しい肩書きがついていらっしゃいますが、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?

:主にはチームの編成ですね。ヘッドコーチや選手を決めたりとか。そういった交渉ごとを主にやっていて、あとはチームの運営ですね。
やはり川崎ブレイブサンダースに来てほしいので、フランチャイズプレイヤーを大切にしたいとは思っています。
なので育成プランのようなものを立てて、選手としてこう育てたいと説明はしています。

高橋:スカウトだけでなく、育成や教育面にも携わるということですか?

:そうですね。バスケットボール以外のところも教育しています。
普通は高校や大学を卒業したら一般企業に勤めて、そこで社会人としての常識を習うと思うのですが、プロ選手になるとそういったところも分からないままの人がたくさんいるので。

競技の魅力と今の携わり方の中で大切にしていること

高橋:バスケットボールとサッカー、それぞれ長年続けてきたお二人だから思うご自身の競技の魅力を教えてください。

:バスケットボールの一番の魅力はたくさん点が取れるスポーツだということですね。
あそこまで点が入るスポーツはあまりないと思います。得点自体も距離や状況によって点数が違っていて、競っていると残り数秒まで逆転の可能性があるのも面白いです。

高橋:その中で川崎ブレイブサンダースの特色や強みはどんなところですか?

:私たちには「BE BRAVE」というクラブアイデンティティがあって、その中には「チームワーク」と「ハードワーク」と「リスペクト」という3つのキーワードが入っています。
その要素を持っている選手を探し、一緒に目標に向かってやっていきたいですし、育てたいと思っています。

高橋:ただ強いだけでなく、内面も見てらっしゃるんですね。

:もちろん強くありたいんですけど、勝負事なので負けることも絶対あります。だからこそ何を大切にしているのかを伝えてしっかり見せればファンの方々も見てる方々も心が少しでも動くんじゃないかという思いがあります。

狩野:得点の魅力でいくとサッカーは全然ゴールが入らないですけどね(笑)
しかもボールに触っている時間も限られます。90分ある試合の中で、1人がボールに触ってる時間はたった2分ぐらいしかないんですよ。多くても3分。残りの時間はボールに触らず、ただ走るだけ。
それでもこれだけ人気があって、ボール一つでみんなでゴールを目指して協力しながらやれること自体がまず一つサッカーの魅力と言えます。
あとは僕もそうでしたけど、口下手だったりシャイで人見知りな人でもサッカーは自分の思考を表現できるところです。
サッカーで自分の思っていることを表現する楽しさは小さい頃から持っていました。結構プロでもシャイっていうか口下手な人が多いですよ(笑)
でもピッチに入ると人が変わったりします。そういう表現ができるのは魅力です。

高橋:なかなか点数が入らないからこそ、そこに向かってどう力を合わせるか、重要になってきそうです。
狩野さんは今も川崎フロンターレに関わっているわけですが、クラブにはどのような魅力がありますか?

狩野:川崎フロンターレの魅力は言わずもがな、直近5年間で4回優勝している強さ。
そのベースには今まで地域の方々と積み上げてきたものがあって、今ようやくそれが形になっているんじゃないかと。スタイルを貫き、結果に結び付けてきたという点では川崎市とともに成長してきたクラブだと思います。
今僕はサッカースクールを見させてもらっているので、そういう場に一人でも多くの子どもが関わってくれると嬉しいですね。
プロを目指すためだけじゃなくて、仲良い友達と同じ空間を共有したいという理由で来てもらうのでもいいんです。サッカーの魅力は一生懸命頑張って仲間と協力、協調し合うことにあるわけなので。
もちろんその中から等々力競技場に立つ子供たちが一人でも多く出ればとは思っています。

引退後のキャリアと川崎との関わり方

高橋:お二人の中で選手を引退する決め手は何になりましたか?現役時代のセカンドキャリアへの意識も含めて教えてください。

:僕はコーチになってほしいと言われたところからです。
でも当然僕はそのタイミングでは現役を続けたいと思っていました。
でも「コーチはやれる人にしかお願いしない」という言葉を当時の部長にかけられて、受けることにしました。
だから引退は自分で決めたというよりは依頼があって、今このポジションにいるという感じではあります。
ただ、現役の頃からセカンドキャリアについては考えていましたし、実業団チームにはそのまま会社に残る選択肢もありました。
でもやはりバスケットボールが好きだったので、教員になって子供たちを指導するということも考えていました。そのために大学の時に教員免許も取っていたんです。
ただ、競技以外のことをできるのか不安でしたし、セカンドキャリアが定まるまで簡単ではないと思います。

狩野:僕の場合は正直現役中に考えていたわけでも、準備をしていたわけでもないです。次の道に進むきっかけがあったわけではないんですよ。
いずれは引退する時が来ると分かっていながら、サッカー以上に好きなことが見つかるわけもないですから。
ただ自分には素晴らしい指導者の方々と仲間たちとの貴重で楽しかった経験があって、そういう思いを子供たちにしてもらいたいという気持ちはありました。
だから元々指導者には興味があって、川崎フロンターレの地域密着のやり方も僕の中にはすごく共感できるところもあったので、今携わらせてもらっているという形です。プレーヤーと指導者は全然違うので難しいですけどね。

高橋:どの辺りに難しさを感じていますか?

狩野:練習やトレーニングのメニューを組む立場にあるんですけど、正直今は選手時代以上に内容を考えていて(笑)
現役の時は楽しいどうかを軸に何をするか考えていましたからね。でもそこはやはり大切だと思っていて、指導の中でも外さないようにしています。一生懸命やる、でもできるだけ楽しいと思えるように意識しています。

高橋:最後にこの等々力緑地はスポーツを楽しめる場所としてさらに発展させる計画があると伺っております。
それぞれスポーツを通して川崎をどんな街にしていきたいか、どのように関わっていきたいか教えてください。

:この緑地にはスタジアムもアリーナもありますし、野球場も新しくなりました。等々力緑地を川崎におけるスポーツの聖地にしてくれれば、もっともっと街として盛り上がると思います。
フロンターレさんは今常勝で本当に皆さん喜んでいて、僕らも刺激を受けています。ブレイブサンダースはBリーグになってからまだ優勝がないので、それを目指して頑張っていきたいと思います。スポーツを通してさらに活気のある街にしていくため、一生懸命取り組んでいきますので、よろしくお願いします。

狩野:フロンターレもそうですけど、地域密着で、川崎市とともにというところは本当にいいことだと思うので、そういう場所をサッカーだけでなく、バスケットボールや野球にも拡げてスポーツの街としてより発展させていきたいですね。
そして子供たちにはイキイキ、のびのびと過ごしてほしいです。今はサッカースクールという形ですが、今後も自分ができることを還元して、川崎市を盛り上げていきたいと思います。

取材後記

川崎市のスポーツ聖地である「等々力緑地」にて、アスリートのセカンドキャリアを考えるイベントにファシリテーターとして参加しました。イベントは川崎周辺に住んでいる子供・大人、ファン達で賑わっていたり、街中至る所にブレイブサンダースやフロンターレの旗が飾ってあったりと、地域でスポーツを応援している様子が伝わってきました。
北さん・狩野さんは現役時代活躍された経験を生かし、今は指導・運営側におられますが、選手時代と同じように、「ひたすら、好きなことに夢中になっている」という印象を抱きました。地域に支えられ、地域に貢献していくアスリート達のセカンドキャリア。次なるお二人のキャリアも、地域の未来も、ますます楽しみです。

(ファシリテーター・高橋麻菜美、文・森 大樹)

「PARK&」の企画運営/事務局から一言
私たちが日頃当たり前に関わっている「働く」や「スポーツ」の要素を、公園という少し変わった切り口で掛け合わせたイベントでした。今後も進化する等々力緑地を楽しみにしていてください。

「PARK&」企画運営/事務局:天野光太郎氏、千葉憲子氏
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