誰もが学校の授業で経験した「なわとび」。世界各国でも「JUMP ROPE(ジャンプロープ)」の愛称で親しまれており、世界大会も開催されています。その「JUMP ROPE」の競技種目の1つがダブルダッチです。ダブルダッチとは2本のロープを使って3人以上で行い、2人のロープの回し手(ターナー)と跳び手(ジャンパー)のチームワークが試される種目です。
今回取材したのは、日本代表として世界大会で優勝した経験を持ち、現在は精力的にダブルダッチの普及活動を行っている片山弘之さん。社会人となった今でもダブルダッチに携わり続ける想い、普及活動に込められたメッセージなどについて伺いました。
目次
片山 弘之(かたやま ひろゆき) プロフィール
ROPEACE PROJECT 代表
東京都江戸川区出身。ダブルダッチ歴20年。世界大会「WORLD JUMP ROPE2018」において年齢別のカテゴリーで優勝。現在は、ファイナンシャルアドバイザーとしてアスリートのパラレルキャリアの支援に注力している。
“縄跳びってすごいかも?! ”ダブルダッチとの出会いで発見した魅力
ダブルダッチを始めた経緯を教えてください。
きっかけは大学のサークルとの出会いでした。もともとサッカーをやっていまして、サッカーを続けるか、他のスポーツにするかで悩んでいた中で、たまたま大学の新歓イベントで2本のロープが回っていたんですね。本当にたまたま目の前で。「何だろう…?」と、自然と関心を持ちまして(笑)。
後日、体験会があるということで体験しに行ったんです。場所は、代々木公園(東京都)という大きな公園でしたね。サッカーはグラウンド、フットサルはフットサルコート、といったようにスポーツは専用の競技スペースでやるものだという印象が自分のなかで強かったので、公園でスポーツをするという経験がとても新鮮でした。通りすがりの親子がいたり、散歩をしている人がいたり、ピクニックをしていたりと、すごく”のほほん”とした雰囲気の良い場所で過ごした時間がとても楽しくて。それが、ダブルダッチを始めようと思ったきっかけですね。
サッカーからダブルダッチへ転向されたんですね。
そもそもダブルダッチ自体がいわゆるマイナースポーツ。そのため、過去に何かしら他のスポーツをやっていた人が、新しいことにチャレンジしたいという興味からダブルダッチを始めてみるというケースが多いです。
カレッジスポーツというイメージもあります。
そうですね。実際に大学のサークルへの加入がきっかけになる人は多いです。
実際に始めてみて、どんな魅力の発見や気づきがありましたか?
阿吽(あうん)の呼吸でプレーしないと、すぐロープに引っかかってしまうんですよ。そのため、チームワークがとても重要なスポーツだと感じました。もちろん、サッカーなどの団体スポーツもチームワークは必要ですが、ダブルダッチは本当にちょっとでも息が合わなければすぐ失敗してしまうという緊張感がある。仲間を信頼して思いやるという姿勢やコミュニケーションの取り方はとても変わったと思います。
改めて、ダブルダッチというスポーツについて教えてください。
「フリースタイル」と「スピード」という、2つの競技種目があります。フリースタイルは、いろいろな跳び方、技の縄の回し方を組み合わせて演技を競う競技です。イメージとしては、フィギュアスケートのような加点・減点方式で得点を重ねて技の難易度や構成、オリジナリティという評価項目で順位を競うというものです。
もう1つのスピードという競技は、時間内で跳んだ回数を競うというものです。
大学で競技を始め、2018年にはワールドチャンピオンになられた。大学のサークル活動に留まらず、なぜ社会人でも続けられたのですか?
原動力としては2つあります。1つ目は、そもそもパフォーマンスすることが好きだということです(笑)。 仲間といろいろな想像をしながら、クリエイティブにパフォーマンスを創ること自体がとても楽しかったんですよね。2つ目は普及活動です。このスポーツと出会えたことで得られた喜びが自分自身たくさんありました。だからこそ、このスポーツが広まっていくことで、日本が良くなっていきそうだとか、世界が良くなっていきそうだと思えたので、その気持ちで続けてきました。
大学生で初めてダブルダッチをしたときから、そのように思っていたのですか?
厳密に言うと、大学3年生ぐらいでの、とある出来事が決め手でした。小学校や地域のお祭りでダブルダッチのパフォーマンスをしてほしいという依頼がよくあったんです。やっぱり初めて見たときは難しそうに見えるじゃないですか。「怖いな…」「大縄になかなか入れない…」みたいな。でも、「やってみよう!」「今だ!今だよ!」と言いながら跳べた時に、すごく嬉しそうに「やったぁ!」って喜んでくれるんです。
しかも、子供たちよりも先生たちが実は喜んでくださっていて。先生が「この子は、いつも引っ込み思案で自信がなかったんですよ」って泣きそうになりながら喜んでくださって、その姿を見てダブルダッチはすごいスポーツだなと感じたんですよね。
縄を跳んだという単純なことかもしれないですが、大きな達成感に繋がるものなんですね。
そうなんですよ!そういうことが同じ体育館でたくさん起きていて、客観的に見たときに、みんなが笑顔でチャレンジしているという、とても平和で素敵な空間でした。こういった出来事が、他県や日本中に広まっていけば、日本の子供たちがもっと生き生きするのではないかと思い、もっと広めたいと思いましたね。
ゼロから作ってみましたけど…「社会人縄日(なわび)」って何?
大学卒業後はどのようなキャリアをご経験されてこられたのですか?
20代の頃はヘルスケア業界で仕事をしていました。具体的には、家庭用医療機器の営業・販売ですね。その仕事のスケジュールが長期出張・長期休暇という特徴的なスタイルでした。例えば、3ヶ月間ショッピングセンターで催事を担当したとします。出張期間は週1日しか休みがなく、出張から帰ってくると休みが貯まっているんですね。その休みをまとめて消費するので、1ヶ月や1ヶ月半をまとめて休むというスタイルのお仕事でした。
出張中はさすがにダブルダッチはできないのですが、そのまとまった長期休暇の際に続けていましたね。ロープだけ持って、九州に乗り込んだりしましたね(笑)。
すごいですね!ダブルダッチは社会人だと、どんなコミュニティでやるのですか?
それが、社会人がダブルダッチをいつでもできる環境が特になかったのです。なので、社会人でダブルダッチをやりたい人が集まれるコミュニティを作ってしまいました(笑)。
ちなみに、どうやって宣伝するのですか?
当時流行していたSNS「ミクシィ」を活用していました。ミクシィにはテーマごとのコミュニティがあったのですが、ダブルダッチのコミュニティも存在していたんです。当時300人くらいのメンバーだったのですが、そこに「”社会人縄日”というイベントをやります!」と告知をすると、認識のない人からも「やってみたいです!」と連絡をいただくこともありました。
そうして、縄1本でいろいろな人たちとの繋がりが生まれるんですね。素人の考えからすると、自分の運動神経が悪いと「周りに迷惑をかけるのではないか…」と思ってしまいがちだと感じたのですが?
そこがダブルダッチの良いところで、初心者の方から世界大会レベルのパフォーマーまで、いろいろなレベルの人が一緒に出来るんです。特に”社会人縄日”に関しては、ダブルダッチをやってみたい人、最近やっていないから久しぶりにやりたい人、楽しんでやりたい人、と競技レベルの差もあまりないコミュニティだったので、まったく問題なかったですね。
新たな挑戦①:コロナ禍で活動できない母校サークルの大学生を救え
片山さんの経歴を拝見し、いろいろな活動をされていることをお見受けしました。そのなかの、渋谷からソーシャルディスタンスで大学生を盛り上げるプロジェクト についてお聞かせいただけますか?
私がお世話になったダブルダッチサークルが、今年で創立20周年なんですね。節目ということもあり、サークルのために何かできないかという発想がきっかけでもありました。そのなかで、OBOGの現状や今の現役生たちのことをヒアリングしたんです。そうすると、やはり大学生たちの置かれている状況が思っていた以上に可哀想で…。
2020年、初めて新型コロナの感染拡大が生じた年に1度も大学に行けなかったという会話から始まり、それこそ新歓のような活動もまったくできず、合宿も開催できない、大会にも出場できない、学生時代の花形でもある学園祭も中止…。制限されたなかで苦しんで活動していたということを聞いたんですよね。
なんとか卒業はできそうだということは伝わったのですが、自分が本当にやりたいことにチャレンジしたという達成感を、卒業するときに感じてほしいと思ったんです。そこで、何か彼らのためにできないか、というところから始めたプロジェクトでした。
具体的にはどういうことをしていらっしゃるのですか。
現役生に表現の場を作ろうというテーマだったのですが、まったく縁のなかった社会人OBOGたちと一緒にグループチャットを立ち上げて、100人ぐらいのプロフィールアルバムというものを作りました。1枚のプロフィールシートに、自己紹介・写真・サークルでの1番の思い出・先輩たちに聞いてみたいアドバイスなどを記載してもらいました。それを共有して、「先輩ってこんな魅力的な人がいるんだ」とか「現役生たちはこんなことを頑張っているんです」ということを知ってもらえるようにしました。そして、イベントに関しては、大学現役生たちのパフォーマンスのステージを作りました。
今回は、現役生とOBOGとそのご家族は、直接会場に見に来ていただけるようにしました。また、YouTubeライブでも配信しました。
すごく新鮮で、現役生にはとても良い刺激だったんじゃないんですか。
そうですね。現役生から「思った以上にすごく楽しかったです!」「頑張って準備できるのも嬉しかったです!」「先輩たちとお会いできて幸せです!」などとコメントをいただきました。死にかけていたサークルが、生き生きとした姿になっていく様子が見れましたね。
現役生が、予想以上にとても楽しそうに喜んでくれていました。「またこのようなイベントがあれば、是非協力したいです!」と言ってくれるOBもいましたし、とても良いチャレンジだったと思います。
新たな挑戦②:縄跳びのサステナビリティで世界を救え
もうひとつ、「ROPEACE PROJECT」(ローピース・プロジェクト)について教えて下さい。
簡単にご説明すると、使わなくなった縄跳びを国内で集めて、それを海外の学校や子どもたちに直接届けに行くという活動です。
使われなくなった縄跳びって、そんなにあるものなのですか。
そうですね。小学校の体育の授業で縄跳びをやるので、みんな持っているんですよね。そこで、「使わない縄跳びが余っている人っている?」と小学生に聞くと、ほぼみんな手を挙げるんです。さらに、「何本残ってる?」と聞くと、2〜3本残っているという回答が多いんです。身長が伸びると長さが合わなくなり、新しく買い直す人が多いんです。
なるほど。それらは、縄跳びがない地域に送るということですか。
そうですね。ちなみに、この活動を始めたきっかけでもあるのですが、世界の教育事情を調べてみると、体育の授業がない地域や学校がたくさんあるということを知りまして。結構、自分としては衝撃的だったんですよね。
幼いころからスポーツが好きな自分にとっては信じられないことでした。ボールもなければ、縄跳びを持っていない人がたくさんいるということを知った時に、世界中の人に少しでも喜んでもらえる活動ができるんじゃないかなと思って始めたのがきっかけですね。
実際、どうやってスタートしていったのですか?
他の団体で、すでに同じような活動をしている方と出会ったんです。彼は20代の頃から毎年ランドセルや文房具をベトナムの学校に届けていて、ベトナム政府から表彰もされているような方でした。その方との出会いは私にとっても影響が大きかったですね。
さぞかしお金を持っている方だろうと思っていたのですが、寄付活動を始めた20代の頃は全くお金がなかったということを聞き、とても衝撃を受けたんです。本当にやりたいことは、お金が貯められたら、時間が捻出できたらやるものだと私は思い込んでいたんですね。だからこそ、彼の話を聞いたときに、そうじゃないと。想いと仲間がいればできるということに感銘を受けました。彼に、「僕も同じことをやりたいんです!」と伝えると、「じゃあ一緒にベトナムに行こうよ!」と言ってくれたのが最初のスタートでした。
ほかに、この活動を続けられた要因はありますか?
実は、10年超しのライバルであり仲間との再会が「ROPEACE PROJECT」をスタートできたきっかけでもあるのです。大学時代はライバルだった5名のメンバーでチームを組み、世界大会にチャレンジして優勝できたのですが、彼らもダブルダッチを通した貢献活動には非常に積極的な姿勢を持っていて、私からこの活動のことを話すと、「一緒にやろう」と言ってくれました。その仲間がいてくれたことが、1番大きかったかもしれないですね。
とても素敵なエピソードです。実際に活動が始まってからはどのくらい経つのですか?
2016年からスタートしたので、7年目に入ったところですね。
実際に海外では、ロープ1つでコミュニケーションは取れるものなのですか?
言葉を超えたコミュニケーションはありましたね。写真などを見ていただければなんとなく様子は伝わると思うのですが、人生で初めて「縄跳び」というものを跳んだ瞬間の笑顔は、とても印象に残っています。スポーツという言語の力強さを感じました。
ベトナム以外にはどのような国に行かれたのですか?
他には、ネパールと台湾です。4カ国目として、現在イラクを予定しています。JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)という小児がんの子供たちを支援しているNGOのみなさまと協働し、子供たちに縄跳びを届ける支援を企画しているところです。(取材後、2022年3月末に支援実施成功)
100年後の未来に繋げる「ROPEACE PROJECT」のビジョン
「ROPEACE PROJECT」で今後挑戦していきたいことはありますか。
今年やりたいこととしては、大学生のための団体組織を作るということです。現状、「ROPEACE PROJECT」は私たち社会人6名で運営をしています。ツアーに関しては、総勢で51名の方がボランティアとして参加してくださったのでそこまで問題はなかったのですが、運営自体を社会人6名で行っていると、次第に仕事や家庭の両立における時間的な限界を感じるようになりました。そこで、ここは学生の力を借りようということになった訳です。
そう思えたのは、これまでのボランティア51名の中に、学生のみなさんがたくさん参加してくれていたからです。本当にびっくりしたのですが、「ボランティアだけでなく、お金をかけてでもやりたい」「自分がやってきたスポーツを通じて、人の役に立ちたい」という素晴らしい意志を持つ学生の方が多いんです。それが、今年やろうとしている活動ですね。
素晴らしいです!経験ができたからこそ、得られる価値にも繋がってきますね。片山さんは、これまでお話ししてくださったような支援活動や貢献活動に注力されていますが、正直大変ではないですか?何のために、どのような想いで続けていらっしゃるのですか。
1つ目の理由は、恩返し。2つ目の理由は、100年後の未来のためです。ダブルダッチを通じて、本当にたくさんの人との出会いやご縁をいただいてこれました。心から感謝の気持ちでいっぱいですし、幸せな人生を歩めていると感じます。だからこそ、ダブルダッチや縄跳びを頑張っている人たちに、もっと貢献や恩返しをしたいという気持ちがあります。
100年後の未来のためというのは、これからの未来がどうなっていると良いか考えたことがきっかけです。私が思い描いた未来というのは、世界中の子供たちが好きなスポーツを自由に選んで生き生きとプレーしていて、スポーツを通じて繋がった友達が世界中に溢れているような平和な世界だったのです。それに繋がる活動であれば、何でもやって人生を全うしたいと思うようになりました。そういった心境の変化によるものが大きいですね。
最後に、片山さんから記事読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。
もしも、使っていない縄跳びやロープをご自宅にお持ちであれば、ぜひ私たちに寄付していただけると大変嬉しいです!日本にいる私たちにとって、縄跳びは身近で見慣れた物かもしれませんが、世界の子供たちにとって宝物になったりするものなのです。みなさまのご協力を心からお待ちしています!
取材後記
いますでに取り組まれているプロジェクトだけでなく、自分にできることをどこまででも広めていこうとする片山さんのポテンシャルや考えが、世界中そして未来にも繋がっていくビジョンが自然と見えるような取材でした。ロープ1つで誰かの人生を豊かにしていく、片山さんの今後の活躍から目が離せません!
片山弘之さんの情報はこちら
https://instagram.com/hiropeskipping?igshid=YmMyMTA2M2Y=
▲片山弘之さん公式Instagram
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