特集2021.08.16

〝縄一本〟で世界一!ジャンプロープ・黒野寛馬選手が語る〝なわとび競技の奥深さ〟

「なわとび」は、ロープ1本でできる手軽さゆえ、昔から子どもたちの遊びやスポーツ選手のトレーニング手段としても各国で幅広く行われているアクティビティです。その人気と知名度は徐々に浸透し、現在は「ジャンプロープ」という競技名で世界選手権大会も開催。多くの人が真剣に向き合うスポーツへと進化を遂げています。

そんな中、ジャンプロープ(なわとび)の選手として活躍するのが、黒野寛馬(くろの・ひろま)選手。普段は社会人として衣料品メーカー・ワコールで働く黒野選手は、なんとこの競技においての世界チャンピオンです。

黒野選手がジャンプロープを始めたきっかけからこれからの目標についてインタビューを通してお伺いしました!

個人種目は3種目!ジャンプロープとは?

はじめに、ジャンプロープの魅力はどんなところにあると感じますか?

ジャンプロープは、簡単に言えば「なわとび」の競技。皆さんも「なわとび」は必ずやったことがあると思いますが、自分自身も知っているからこそ奥深く、どこまでも追求できる競技だと思っています!「1回でも多く跳べた」とか「新しい技ができるようになった」ときがたまらなく嬉しい瞬間ですね。

競技としてのなわとび『ジャンプロープ』とはどんなものなのでしょう。

個人種目には、30秒で何回跳べたかを競う「30秒スピード」と、3分間で何回跳べたかを競う「3分スピード」、そして音楽に合わせて技や表現を競う「フリースタイル」の3種目があります。

中でもフリースタイルは「どれだけ難しい技に跳んだか」という技点と「その技が綺麗にできたか、音楽に合っていたか、どれだけ観客を魅了できたか」などの構成点で評価され、点数の配分が最も高い種目です。

フリースタイルは一言でいうとどんな種目だと感じますか?

フリースタイルはジャンプロープ競技の花形種目だと思っています。フィギュアスケートの採点ととても似ており、いろいろな技を跳ばないといけないですし、演技全体でちゃんと表現できている必要もあります。今、世界のレベルはどんどん上がっていて、勝つために自分のオリジナルの技も作ったりもしています。演技に使う曲も自分で決めるのですが、海外の大会では日本人っぽさを表現するために、三味線の曲を選んだりしています。

スピード種目は、30秒間でだいたい何回くらい跳ぶのでしょうか?また、跳んだ回数は機械を使って測定されているのですか?

30秒で200回以上は跳びます。今のベストが211回なので1秒あたり7回程度跳んでいる計算ですね。すごく速いので審判も大変ですが、カウンターを持って目で追いながら計測しています。

試合に出場する黒野選手。フリースタイルはジャンプロープ競技の花形種目であり、フィギュアスケートの採点ととても似ていると話す。(提供:黒野選手)

劣等感に苛まれた学生時代。ジャンプロープを始めたきっかけ

そもそも、黒野選手がジャンプロープを始めたきっかけは何だったのでしょう?

ジャンプロープを知ったのは大学生のときでした。僕は筑波大学の体育専門学群だったのですが、大学で何か新しいスポーツをやろうと思っていたところ、つくば市にあるクラブチームの小中学生たちがジャンプロープのパフォーマンスを行なっていたのです。それを見たときに、「なわとびにこんな世界があるんだ!」と魅了されたのが競技との出会いでした。

これまでに、スポーツのご経験は?

今まで体操競技を行っていました。ただ、何回か怪我もしていて大学で続けるかを迷いながら新しい部活動を探していたんです。スポーツをすることが好きだったので、「何かしらのスポーツはやりたい!」と思っていました。

スポーツが盛んな大学だったことと今の競技活動はどのように関係していますか?

大学に入ったとき、周りの友だちはスポーツを小さい頃からずっとやっている人ばかりでした。よく自己紹介でも「〇〇部の〇〇です」と言う人が多い環境下で、自分自身には特に何もなく、劣等感を感じていました。

その中で、僕は大学からこの競技に出会ったので、周りの人たちに追いつくためには、10年、15年続けなくていけないという想いがありました。「10年やらないと自分を語れない!」。そんな想いで、競技を頑張ってきました。社会人になった今も現役選手として活動しており、平日は仕事終わり2時間程度、休日は4~5時間練習しています。ようやく10年経ったので最近は少しずつ自分に自信が持てるようになってきました。

ジャンプロープはほんのちょっとのコツで上手くなれる!

10年選手が語るジャンプロープ上達のススメ

パフォーマンスをおこなう黒野選手。「大会で勝ちたいという想いもありますが、どれだけ自分が練習で頑張ってきたかに目を向けたい」―自然体なパフォーマンスを心掛けたいと話す。(提供:黒野選手)

10年続けて、ようやくジャンプロープについて語れるようになったという黒野選手に競技者目線で教えていただきたいことがいくつかあるのですが……。まず、ジャンプロープに運動神経は関係ありますか?

正直あまり関係ありません!ジャンプロープは、日本語で言うと「なわとび」です!誰もが一度はやったことがあるものなので、得意不得意はありますが、ほんのちょっとのコツや練習で上手くなります!特に回し方のコツをつかむことが大切です!

競技中は何を考えているのですか?

その瞬間瞬間のことを考えています。手の向き、足の向き、次はどうしようというふうに考えています。ただ、すべてのことを考えていると頭がパンクしてしまうので、勝手に身体が動く状態が最も望ましいと思っています!

競技を行ううえで大事にされていることは何ですか?

「結果よりプロセス」を大事にしています!大会で勝ちたいという想いもありますが、どれだけ自分が練習で頑張ってきたかに目を向けて、そのうえで練習と変わらない状態で臨むことを重視しています。

縄一本あればどこでもできる!可能性が無限大のジャンプロープは奥深い!

再現性が重要な分、練習では自信を付けることが欠かせないのでしょうか?

大会を迎えるにあたって、そのための練習はすごく大切にしています。練習でできていないことを本番でやろうとすると緊張もしますし、結果失敗もしてしまいます。例えばフリースタイルで人が見ていると緊張してしまうなら、練習のときから誰かに見てもらうようにします。常に本番に近い状態に近づけていることを意識しながら練習するといった感じです。

その他に、メンタルを整えることに関してのこだわりなどはありますか?

ルーティーンを行うことを重視しています。例えば30秒スピードはウォーミングアップから計測し、本番までは練習も試合も同じメニューを行うといった具合です。

常に「練習=試合」と捉えていらっしゃるんですね。

それが自分の1番の強みだと思っています。もしかしたら弱みでもあるかもしれないですが……。試合も練習と同じ感覚なので、本番で失敗することはあまりないですが、自己ベストが出ること事も少ないです。ちなみに、30秒スピードでは、先日、自己ベストを1回更新し211回になりましたが、その1回を更新するまでに2年かかりました(笑)

そのような難しさが、黒野選手が最初に仰っていた「ジャンプロープの奥深さ」につながっているんですね。最後に、ジャンプロープを初めて知ったという方々に向けてメッセージをお願いします!

ジャンプロープは、縄一本あれば、どこでもできる可能性が無限大のスポーツです!まだまだマイナー競技ですが、ゆくゆくはこのジャンプロープという競技がオリンピック種目になってほしいと思っています!そのために、まずは日本国内で競技を普及させていきたい。誰もがやったことのある「なわとび」だからこそ、ジャンプロープという競技は、今から始めても世界を目指せます!ぜひ、ジャンプロープを一緒にやりましょう!

取材後記

その相対するギャップにジャンプロープの真髄を黒野選手のお話を通して垣間見ることができた気がします。平たく言えば、誰もがやったことのある「なわとび」。ただ、競技となれば、人間の限界が試されるスピード種目とアクロバットな技が音楽に乗って披露されるフリースタイル種目という華やかなエンターテインメント性を兼ね備える一方で、スポットライトを浴びる選手本人は成功への確率を頭と身体を使った見えない葛藤によって少しずつ上げていく。

世界チャンピオンの肩書きを持つ黒野選手の今後の活躍に期待しましょう!

そして、これを機に、ジャンプロープに興味を持っていただいた方は、ぜひ一度縄を手にとって久しぶりに跳んでみてはいかがでしょう。

黒野寛馬選手の情報はこちら!

公式 YouTubeチャンネル

なわとび2.0
https://www.youtube.com/channel/UCm40nle42sAIb6eYtyNoNIw