蹴りが魅力の格闘技「テコンドー」。韓国で生まれた競技で、オリンピックにも採用されています。そのテコンドーにおいて、異色すぎる経歴を持つ日本の有望株が栗山廣大選手です。全日本選手権でも優勝を経験しました。
そんな確かな実績を持つ栗山選手にテコンドーについて伺いました。
目次
テコンドーは“蹴り”が命。格闘技でありながらスポーツ寄りの競技
空手に似ているテコンドーですが、具体的にどのような特徴があるのですか?
ひと言で言うと、テコンドーは“蹴り”にめちゃくちゃ特化していますね。空手にも蹴りはあるんですが、どちらかというと突きがメインという印象です。それに対してテコンドーは9.5割くらいが蹴り。パラテコンドーも競技として存在するくらいなので、手の不自由な方でもできるくらい蹴りが多いです。
競技者としては、どんなところに魅力を感じますか?
テコンドーは子どもでも楽しめるスポーツなんですよね。格闘技って、顔を蹴られたり殴られたりするので、子どもにやらせたくない親御さんもいると思うんですが、ヘッドギアとプロテクターも付けるため、安心です。僕みたいな“戦闘民族”って、あんまりないと思うので(笑)
ちなみに、僕が最も感じる魅力は、駆け引きとフィジカルの戦いですね。テコンドーは、ゲーム性がとにかく高いんです。格闘技でありながら、かなりスポーツ寄り。いかにして当てるかという駆け引きが大きいので、フィジカルが強ければ良いというものではないんです。でも、僕はフィジカルで攻めてしまうので、駆け引きのうまいやつにはやられてしまうんですが(笑)でも、そういう相手でもフィジカルで圧倒してやろうというおもしろさがあります。
「蹴り」に関してはいかがですか?
蹴りというのは、実は相手に当てるのがとにかく難しいんですよ。というのも、テコンドーは相手が蹴ってくるとわかっていて、かつ距離もあるんです。そんな状況なのに、狙っていいのは胴と頭しかない。攻撃やカウンターで綺麗に蹴りが決まったときは爽快です。
実家がお寺で、元警察官の元ギャル男。経歴が異色すぎる!
そんな競技の魅力にハマった栗山選手ですが、かなり特殊な経歴をお持ちだそうですね?
よく言われるのが、「実家がお寺のギャル男は元警察官、異色すぎるアスリートが目指すオリンピック」のようなフレーズですね。とにかく肩書きが多いんですが、その通りなんです。実家は安土桃山時代から450年ほど続くお寺で、そこの十八代目の跡取り。僧侶の資格も持っています。ギャル男だった時代も経て、大学を卒業後は、大阪府警の警察官にもなりました。このときは続けていたテコンドーを辞めるつもりでいたんです。というのも、僕、大学卒業前に全日本選手権に初出場して準優勝しちゃったんですね。ただ、僕としては一位を目指していたので納得いいきませんでした。ですので、自分はテコンドーで一番になれなかったので、気持ちを切り替えて仕事で一番になろうという意気込みで警察官になりました。
でも、テコンドーは大好きだったので、結局辞められず。24時間勤務後に周りが寝ている中、テコンドーの練習に励んでいました。それが苦ではなかったのですが、結果は出たり出なかったりで、そのままずるずると続けていましたね。ちなみに、警察官時代は、特殊部隊のSATに憧れていました。
本当に異色すぎる経歴ですね!最終的に憧れていたSATへの挑戦はいかがでしたか?
警察には4年間在籍し、SATの試験もほぼ通ったような感じだったのですが、そのときにリオオリンピックの最終選考も同時に通ってしまったのが運命のいたずらでした。SATに行ってしまうと選考から名前が消されてしまうということで、「お前みたいなやつはオリンピックに行くべきだ」という後押しもあり、後ろ髪を引かれる思いで競技の道を選んだんです。そこから1年間、テコンドーを死ぬ気で頑張った結果、全日本選手権で優勝することができました。
日本一にもなってSATを諦め、そこから警察官を辞めることになりますよね?その理由は?
それはもう世界に行きたいなと思ったからです。日本で一番を取ったら今度は世界が相手に自然となったわけです。警察官時代は大阪府警という名前を背負って、テコンドーの本場・韓国で大会に出場しました。そのときには世界ランク一位の選手にボコボコにされたんですが、オリンピックに出るにしても、このままの環境だと無残に負けて終わりだと思ったので、次のステップに進もうと。公務員故の安定というものはあったのですが、自分の目標はやっぱり譲れないという想いが強かったですね。
週一回のサークル活動で「テコンドー日本一になる」と豪語した大学時代
これまで話を伺っているだけでは、どこでテコンドーと出会ったのか全く見当が付きません。きっかけは何だったのでしょう?
もともと高校まではバスケットボールをしていたのですが、大学に進学したとき、毎日練習があるバスケ部に所属するのは嫌で、他のサークルを見ることにしました。そこで見つけたのが、週に一回しか活動がないテコンドーサークルだったんです。
ちょうど格闘技をやりたいと思っていたので、そこから競技人生が始まりました。大学のテコンドーサークルでは先輩が新入生を勧誘しに行くんですが、金髪オールバックのギャル男かぶれみたいだった僕は「ここってなんか蹴れるんですかね?」って先輩に聞きましたからね(笑)当時は先輩からすると印象がかなり強かったと思います。
不純な動機も含まれていたんですね!ただ、なぜテコンドーを選んだのですか?
「くるくる回る」「蹴り技」のテコンドーが、純粋にかっこいいなって思ったからです。そして、やっぱりオリンピック競技ということが大きかったですね。
週一回のサークルでここまですごい選手になったのには、どこかで自分の中で何か変化があったのですか?
いい仲間に恵まれたことが大きいです。当時から僕の目標は壮大で、日本一を掲げていました。その目標に対して誰も否定しませんでした。週一回のお遊びなのに、「廣大ならいける」と言ってくれましねた。みんなが応援してくれたからこそ、伸びることができたと今でも強く思います。また、指導者がいなかったので、自分でどれだけ考えてやるかということを突き詰めることに楽しさを見出すことができたのも環境のお陰だと思っています。
今は企業の「ROAD CAR」所属ですが、現在の環境はいかがですか?
ほんとにめちゃくちゃいい環境です。ありがたいことに、テコンドーに専念できる理想の勤務形態を整えていただいています。
僕は以前から、小学校で講演したり、トレーニングイベントを開いたり、ネグレクトや親がいないなどの事情がある子どもたちが暮らす乳児院に行ってシュークリームパーティーや絵本の読み聞かせをしたりする活動をしていました。スポーツ選手として人に活力をお届けできるよう、それが少しでも社会貢献につながればと考えていましたが、「一緒にやろう」とROAD CARの上司に言ってもらえたんです。
「会社のためを考えるとブレる。栗山廣大がやりたくて、栗山廣大のためになることが、結果としてROAD CARだけでなく、世の中のためにもなるから。どんどんそういった活動を続けてくれたらそれでいいから、後は練習しときなさいと」と。僕はかなりフットワークが軽くていろんな人とお会いするのですが、そのつながりを大切にしなさいと言っていただいています。
テコンドーは人生そのもの。常に「進火」を目指して
良い環境にも恵まれたのも、ポジティブな栗山選手の人柄があってかと思いますが、試合ではあまり緊張しないタイプでしょうか?
いや、めちゃくちゃ緊張しますよ(笑)なので実は、メンタルコーチの資格を取りました。今はその知識を実践している最中です。
具体的にはどういったことをされているのですか?
例えば、僕が実践している中に「ナンバーワンポーズ」というものがあります。これは、いわゆるルーティーンみたいなもので、 「両手人差し指を立ててから手を叩く」というジェスチャーをひとつ決めるわけです。要は成功体験の刷り込みです。厳しいトレーニングをやり切ったとか、人ととても良い時間が過ごせたとか、元気よく挨拶できたとか、どんなことでも良いので、プラスの感情が働いたときにこのポーズをやるようにしています。それを1日10回、2週間続けると、プラスの感情が湧いたときにこのポーズをするのだと脳が覚えるわけです。すると、試合に前にこのポーズとするだけで、脳が一気にクリアになります。
ポーズには、どんな意味を込められているのですか?
手を叩くのは気合を入れるためです。あとは、自分が僧侶という背景もあるので、感謝などの意味も込めています。それと、僕がゲーム好きなので、上を向いた人差し指2本にレベルアップのイメージを込めています。
その他、メンタルを整えるために行なっていることがあれば教えてください!
「信念の言葉」というのもあるんです。僕は、昨日よりも常に良くなろう、さらに自身の心を動かし続けて感動を伝えたいという意味で 「進火」という造語を作りました。 僕がテコンドーで上を目指し始めた理由は、トップクラスの試合を見て、 そこに熱い思いを感じて、自分がその舞台に立ちたいと思ったからです。 「火」をもらったような感じだったんです。 次は自分がその舞台に立ち、感動を伝える側になりたいと思ったことから、この言葉に決めました。そのためには、自分が一番熱くなくてはなりません。
では、練習以外はどんな時間の使い方をされているのですか?
絶えず予定が入っています(笑)今日も5件予定が入っていて、今が4件目。とことん予定を詰めています。僕はたくさんの人と出会って話をするのが好きなので、内容もテコンドーだけでなく、多岐にわたります。暇な時間があったら嫌なんですよ。だから、楽しく熱くいきたいですね。
最後に、栗山選手にとってテコンドーとは?
人生です。生涯アスリートでいようと思っています。明日には101%という感じで、常に今日の100%を越えていきたいものです。
取材後記
今回お話を伺って、栗山選手の魅力を存分に感じ取ることができました。一度聞けば忘れられない異色の経歴はもちろんのこと、競技者としても一流を求め続ける原動力は恵まれた周囲の環境でした。そして、それを引き寄せるポジティブな人柄と我が道を行こうと進み続ける恐れ知らずの熱い好奇心が栗山選手にしかないバイタリティーを生み出していると感じました。試合でも闘争心あふれる戦いで魅了する栗山選手に今後も注目です。
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