Jリーグ・V・ファーレン長崎に所属するプロサッカー選手の都倉賢さん。現役のプロサッカー選手でありながら、北海道(仁木町)で(株)都倉ワイナリーを営む経営者としての顔も持っています。「自らの生き方を通じてデュアルキャリアの重要性を魅せたい」と話す都倉さん。2020年6月には、株式会社NewSPO.のエグゼクティブ・アドバイザーにも就任。次世代アスリートたちのデュアルキャリアの形成についても、並々ならぬ思いを抱く都倉さん。都倉さんが考える「デュアルキャリア」について、お話を伺いました。(アイキャッチ写真のご提供:©VVN)
目次
「デュアルキャリアを考えるアスリートたちにとって、ひとつのロールモデルになることができるのかもしれない」
株式会社NewSPO.エグゼクティブ・アドバイザーに就任されたきっかけについて教えてください。
もともと、セレッソ大阪でプレーしていた頃(2019年―2020年)、僕の後輩の友人として株式会社NewSPO.の小澤剣人代表を紹介されたことがきっかけでした。後輩も交えて初めて食事に行った時、オザケンから感じたのは、アスリートのセカンドキャリアに対する「情熱」。それからは2人だけでもよく会うようになり、アスリートやセカンドキャリアについていろいろな意見を交わすうち、同じベクトルのようなものを感じて、意気投合しました。その過程で、「話すだけじゃなく、何かこの想いをカタチにしたいね」という話が出てきて。
ベストな形を考えた結果、僕が株式会社NewSPO.に出資する形で、現役生活も含め、アスリートたちがセカンドキャリアに向けて活躍できる基盤づくりを共に考えていくことになりました。「小澤代表と(アスリートのために)何かしたい」という気持ちが就任の大きなきっかけになったことは言うまでもありませんが、僕がエグゼクティブ・アドバイザーとして就任してからNewSPO.に所属される方も増えたという中で…。僕が現役中から「都倉ワイナリー(北海道仁木町)」を経営し、デュアルキャリアを実現していたという点も踏まえ、セカンドキャリアやデュアルキャリアを考えるアスリートたちにとって、一つのロールモデルになることができるのかもしれないと感じました。僕が皆さんにアドバイスをするというよりは、僕の生き方を行動で示していくことで、所属している皆さんのキャリアメイクの参考になればと思っています。
「都倉賢というひとりの人間を応援していただいた
北海道の仁木町で経営されている「(株)都倉ワイナリー」。現役Jリーガー初の「ワイナリー経営」について、どのようにお考えですか。
都倉ワイナリーの経営に関しては、クラウドファンディングからスタートしたのですが…。サッカー選手という職業は、やはり、応援して頂く機会に恵まれやすいという特徴があります。僕の場合、10年ほど前からSNSを通じ、自分自身のことを発信していたという背景もあり、サッカー選手というよりは、「都倉賢」という人間そのものを、皆さんに応援して頂くことが多かったようにも感じています。そういった点に関しては、現役中にデュアルキャリアを実現していく上で、大きなアドバンテージになったんじゃないかと感じています。サッカー選手という職業の特徴と現代の世の中の仕組み(クラウドファンディング)が、デュアルキャリアの実現に大きく影響したのではないかと思っています。目的に向かって、意識的にSNSを通じた自己発信をおこなっていたわけではありませんが、結果として、多くの方の共感や応援を頂けて、思い描いていたキャリアを形にすることができました。こうした実体験を通じた学びは、セカンドキャリアやデュアルキャリアの形成に向き合う皆さんに、どんどん伝えていきたいなと思っています。
(株)都倉ワイナリー(北海道仁木町)を営む都倉賢さん((株)都倉ワイナリーご提供)
「自分の行動とSNSの発信が連動していることは、自分自身の人柄を理解してもらう重要な要素」
10年ほど前というと、Instagramなど、今も幅広い世代から支持を得ているSNSの台頭期にあたりますよね。その頃は、SNSツールの活用がこんなにもご自身のキャリアに影響を与えると考えていましたか。
まったく考えていませんでしたね。僕自身、ワイナリー経営に関しても、はじめから意識していたわけではありませんでしたし、若い頃も「何かをする」ということの重要性はわかっていたものの、何から始めるべきなのか分からないという歯がゆさを覚えた時期もありました。振り返ると、そうしたジレンマをSNSを通じた自己発信が埋めてくれたんじゃないかと思います。闇雲にSNSを始める必要はないと思いますが、アスリートという職業の性質を生かしながら「何かをする」きっかけを掴む第一段階としては、取り組みやすい分野であるとも感じています。自分の行動とSNSの発信が連動していることは、自分自身の人柄を理解してもらう重要な要素になると思いますし、ワイナリー経営を形にできたことに関しても、そういったアクションを経て、「都倉賢」というひとりの人間を応援して下さった皆さんのおかげだと思っています。
時代の風向きとデュアルキャリア実現の背中を押してくれたんですね。ちなみに、SNSを始めてみたものの、発信する内容に迷う方もたくさんいらっしゃると思うのですが…。都倉さんがご自身のSNSを通じて発信する際に心がけていることはありますか。
僕自身、試合の勝敗に対するコメントに限らず、プライベートのことや自分自身の考えもSNSに書かせてもらってるほうだと感じていて…。そういった僕のSNSを見て下さった皆さんが、サッカー選手としてだけではなく「都倉賢」という人間そのものに共感してくださったことが、自分自身を応援して頂けていることにも繋がったんじゃないかなと思っています。「ひとりの人間として共感してもらえるような発信の重要性」を、自身のSNSを通じて感じて頂けたら嬉しいなと思っています。
「ワインは大切な思い出の中心に咲くもの」
都倉ワイナリーから発売された「KAERIZAKI2020」((株)都倉ワイナリーご提供)
「ご自身の色を表現することの重要性」は、さまざまなことにも通じるように思います。ある意味、SNSから始まったとも言えるワイナリー経営に関しても、この考え方の影響を受けているなと思う部分はありますか。
今はまだ、ワイナリーの近くから葡萄を仕入れて、自社のワインをつくっている段階で…。自社農園で育てている葡萄の木から果実を収穫してワインをつくるには、あと2~3年はかかる予定です。自社農園で育てた葡萄でワインをつくることができたら、より自分の色を出していけるんじゃないかなと思っています。自分自身のエッセンスや人柄、プレースタイルを彷彿とさせるような「余韻」をワインに込めるなど、SNSやサッカーだけでなく、今度はワインを通じても自分自身の色を表現していけたらいいなと思っています。
素敵ですね。都倉さんが考える「サッカー」と「ワイン」の共通点はどんなところだと思いますか。
サッカーボールって、ただそこにあるだけで「人の輪」をつくってくれますよね。老若男女問わず、サッカーボールがあればコミュニケーションのきっかけができる。ワインにも似たような特徴があると感じています。ワインって他のお酒に比べて保存がききません。なので、飲み切ることを前提に思い切ってコルクを開ける、そんな文化がありますよね。そう考えると、ワインは人々の楽しいイベントや大切な思い出の中心に咲くものだと思うんです。「幸せの伝播」のようなものを、サッカーだけでなく、ワインを通じても表現できるということは、とても意義深いなと感じています。
「人の輪の中心にある」という似通った感覚をもつ「サッカー」と「ワイン」。とはいえ、フィールドが違う仕事の両立に頭を抱えることもあったのではないかと思いますが、いかがでしたか。
経営に関しては、それこそ(ワインの)発送を業者に依頼したり…クリエイティブな業務以外に掛ける時間ってすごく多いじゃないですか。ワイナリー経営を始めるまで、サッカー以外のフィールドで社会と接点をもつ機会も少なく、初めから合理的にパソコン作業ができたわけでもなかったので、普通の人なら20分程度でおこなえる作業を、倍以上の時間を掛けてしまうこともありました。ですが、ワインを買ってくださったお客さんに感想を頂いた時、サッカー選手としての喜びとはまた違った喜びを感じられるというか…。自分自身の手で新しい価値を創造する喜びを感じることができたり、「人に喜んでもらうことがこんなにも自分自身を幸せにするのか」という新たな発見もありました。大変なことも含め、大きなやりがいと喜びを感じています。
「目の前のことに全力で取り組んだ先に何かがあると信じている」
これからもサッカー選手とワイナリー経営というデュアルキャリアを深めていく上での、今後の目標や夢を教えてください。
未来のことや先の目標を定めること自体があまり好きではないというか…。思い描いていた未来ってなかなか形にならないことも多いですよね。ですが、思い描いていなかったけれど自分自身が心から充実感を感じられる、そんな世界線もあります。その都度、目の前のことに全力で取り組んだ先に何かがあると思っていますし、自分自身のベストを出し続けたご褒美が、未来に待っていると思って生きていくことが大切なんじゃないかと思っています。ただ、いつか実現させたいと思い描いている夢の1つに、「いつかサッカーチームのオーナーになりたい」という構想は持っています。
「経済面の都合でサッカー選手としてのキャリアを諦めざるを得ないという選択肢をなくしたい」
サッカーチームのオーナー!都倉さんが描く「理想のチーム」について教えてください。
サッカー選手って、良くも悪くも「自由になる時間」が多いんですね。体が資本になる仕事なので、もちろん、体のケアのためにも「自由になる時間」が多いというのはありがたいことなんですが、やはり目的意識を持たなければ、もったいない時間の過ごし方をしてしまいかねません。「空いた時間にこそ、しっかり自分自身と向き合える集団」という凛としたカラーが滲み出るチームが理想的だなと思っています。そうした意識が、サッカー選手としてのキャリアと、事業所得を得られるキャリアを同時に実現できる「デュアルキャリア」を形にしてくれると考えていますし、経済面の都合でサッカー選手としてのキャリアを諦めざるを得ないという選択肢をなくしていくことにも繋がるんじゃないかと思っています。さまざまなスタイルの働き方や生き方を体現する選手が増えてきたら、サッカー界だけでなく社会全体に対してもいい影響を与えてくれるんじゃないかなと思っています。
https://newspo.co.jp/ken-tokura/
▲NewSPO.公式ホームページ【都倉賢さん】
https://tokurawinery.official.ec/
▲(株)都倉ワイナリー公式ホームページ
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