7月にアメリカで行われるクアッドボールのワールドカップ。クアッドボールは、日本での競技人口が約200人というマイナースポーツです。いったいどんな競技なのか、取り組むのはどんな人たちなのか。競技に携わる4組にインタビューし、連載でお届けします。
第2回は、2022年8月にクアッドボールに出会い、わずか半年あまりで日本代表選手となった田中亜季(たなか・あき)さんにお話を聞きました。
目次
▶▶〝クアッドボール〟とは?
映画「ハリー・ポッター」シリーズに登場する架空のスポーツを、魔法が使えない人間でもプレーできるようアレンジされた球技。箒にまたがり、クアッフル(1個)・ブラッジャー(3個)・スニッチ(1個 ※人間が担う)という3種類のボールを用いて点を取り合う。男女混在チームの7名対7名の計14名で対戦するジェンダーフリーの競技である。ラグビー、ドッジボール、鬼ごっこ、ハンドボールなどの要素が含まれる複雑なルールであるが、世界40か国でプレーされ、アジア大会やワールドカップも開催されている。当初は原作と同じ「クィディッチ」の名称で競技されていたが、2022年7月に使用されるボールの数とポジションの数に準えた「クアッドボール(Quadball)」へと世界的に競技名が変更された。
「性別・体格差にとらわれず、個性を生かして輝ける」負けず嫌いな私をとりこにしたマイナースポーツ
—まずはプロフィールを教えてください。
田中:田中亜季です。生まれも育ちも兵庫県で、現在も兵庫県に住んでいます。今年社会人3年目の25歳で、事務職をしています。身長が172cmあり、小学校の頃からずっとバスケットボールをしてきましたが、クアッドボールは去年8月に始めたので競技歴10か月ほどです。ポジションはチェイサー(相手ゴールにクアッフルと呼ばれるボールを入れる役目)です。
—クアッドボールを始めたきっかけは何でしたか?
田中:同級生や友達がクアッドボールをしていて、結構前から誘われていたんです。でも最初は、「箒にまたがるハンドボールみたいな競技?なんやこのスポーツ」みたいな…(笑)。ハリー・ポッターも詳しく知らなかったので、「そんなん絶対行かへんよ!」と言っていました。でも、大会(全日本クアッドボール選手権)に助っ人として出場してほしいとお願いされて。1回ぐらい行ってあげてもいいかなという感じで参加してみたら、めちゃくちゃ楽しいスポーツでハマってしまいました。
—クアッドボールのどんなところに惹きつけられましたか?
田中:私、結構負けず嫌いで…。バスケットボールをしていた頃は、男子のプレーを見て、身体能力が全然違うし絶対敵わないとずっと思っていました。でも、クアッドボールは箒にまたがるというハンデがあって、ビーター(ブラッジャーと呼ばれる赤いボールで相手チームを妨害する)というポジションがあって、女子の私でも男子選手相手に点数を取れるのが快感だったんです!それが大きかったですね。クアッドボールは、性別とか体格差にとらわれず、誰でも個性を生かして輝ける競技です。初めての試合はルールが曖昧なままでの出場でしたし、思っていた以上にコートも大きく、体のぶつかり合いも多くて、めちゃくちゃしんどいなと思いました。「こんな感じなんや!」という驚きが大きかったです。
—初めての試合で「しんどい」と感じたのに、競技を続けようと思った理由は何ですか?
田中:その大会が本当に楽しかったんですよね。大会前の練習に参加した時は、“仲良しな同級生やチームメイトの人たちに会いに行く”という感覚だったんですけど、大会のあとは“クアッドボールをプレーしに行く”という感覚になりました。もっと上手くなりたいと、欲が出てきたんです。
競技歴1年未満で日本代表に クアッドボールは誰にでもチャンスがある競技
—競技を始めてたった8か月で日本代表選手に。田中さんの選手としての強みは何でしょう?
田中:フィジカルですかね(笑)。172cmの長身とバスケットボールで培ったハンドリングもありますし、男子選手に当たり負けしないと思います。でも、日本代表の中には私と同じ時期に競技を始めた選手が他にもいます。クアッドボールは経験の差があんまり感じられない、誰にでもチャンスがあるスポーツかなと思います。実は私、めちゃくちゃ運動音痴なんです。ずっとバスケットボールしかやっていなかったので、学校の体育でもバスケットボール以外は何もできなくて…。クアッドボールはそんな人でもできるスポーツです。運動音痴の私でも日本代表に選ばれているので、みんなが楽しめるスポーツだと思います。
「いつか誰もが知っている競技に」日本代表として魅力を伝えたい
—まだクアッドボールを知らない人に向けて伝えたいことはありますか?
田中:クアッドボールをやっている人は本当にいい人が多いということをお伝えしたいですね。全国ではまだチーム数が少ないというのもあって、関西の自分のチームだけじゃなくて東京のチームの方たちと仲良くしてもらっていて。大会とかで会ったら、みんなめちゃくちゃフレンドリーに話してくれます。できるだけ広くこのスポーツを知って楽しさをわかってもらいたいなと思って、個人的にも友達に声をかけたりしています。最終的にはバスケットボールなどと同じように、誰が聞いても「クアッドボール?あぁ、あのスポーツね」とわかるぐらいメジャーなスポーツになってほしいです。
—来月に控えるワールドカップ、ご自身の目標はありますか?
田中:スタメンで試合に出て、自分のフィジカルを活かして活躍したいです。海外の選手は日本の選手より体が大きいので、それに負けないくらい強い気持ちと強い体で立ち向かっていきたいですね。そして、1番の宿敵であるアメリカに勝つのが目標です!
▶▶日本クアッドボール協会の取り組みについて
日本クアッドボール協会では、7月のワールドカップに向けて日本選手団の渡航費などの補填のため、クラウドファンディングに挑戦しています。
https://camp-fire.jp/projects/view/653019
取材・文/森本まりな 写真/日本クアッドボール協会ご提供
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