特集2023.07.07

同じフィールドで日の丸背負う 男女双子のクアッドボール日本代表

7月にアメリカで行われるクアッドボールのワールドカップ。クアッドボールは、日本での競技人口が約200人というマイナースポーツです。いったいどんな競技なのか、取り組むのはどんな人たちなのか。競技に携わる4組にインタビューし、連載でお届けしています。第3回は、双子で日本代表に選ばれた清水真玲さん(姉、しみず・まれい)と清水世那さん(弟、せな)に、きょうだいでフィールドに立つ思いを尋ねました。

▶▶〝クアッドボール〟とは?

映画「ハリー・ポッター」シリーズに登場する架空のスポーツを、魔法が使えない人間でもプレーできるようアレンジされた球技。箒にまたがり、クアッフル(1個)・ブラッジャー(3個)・スニッチ(1個 ※人間が担う)という3種類のボールを用いて点を取り合う。男女混在チームの7名対7名の計14名で対戦するジェンダーフリーの競技である。ラグビー、ドッジボール、鬼ごっこ、ハンドボールなどの要素が含まれる複雑なルールであるが、世界40か国でプレーされ、アジア大会やワールドカップも開催されている。当初は原作と同じ「クィディッチ」の名称で競技されていたが、2022年7月に使用されるボールの数とポジションの数に準えた「クアッドボール(Quadball)」へと世界的に競技名が変更された。

勝利への情熱がふたりをつなぐ 男女双子のクアッドボール日本代表

—おふたりのプロフィールを教えてください。

姉・真玲:清水真玲、24歳です。兵庫県生まれの兵庫県育ちで、今は大阪府で事務職をしています。クアッドボールのポジションはチェイサー(クアッフルと呼ばれるボールをゴールに入れ得点を狙う役割)です。

弟・世那:清水世那といいます。姉と同じく兵庫県生まれ兵庫県育ちの24歳で、今は東京都でITコンサルタントとして働いています。クアッドボールでは、普段のチームではビーター(ブラッジャーと呼ばれるボールで相手チームを妨害する役割)ですが、日本代表にはチェイサーとして選出されています。

—おふたりは同じ時期にクアッドボールを始めたんですか?

弟・世那:僕の方が先に始めました。大学2年生の頃にインターンシップ先で今の日本代表監督の金子照生さんと出会って、「面白い競技があるから一緒にやってみないか」と誘われたのがきっかけです。野球とラグビーを高校卒業とともに引退後、自分で筋トレなどはしていたのですが、団体競技として何かを達成するということをやりたいなと思っていて…。鍛えた成果を発揮できる場所が欲しかったんですよね。それがちょうどクアッドボールと嚙み合って、挑戦することにしました。競技歴は4年になります。

姉・真玲:私は弟の世那から「チームのメンバーが足りないからちょっと来てくれ」と、試合の助っ人として呼ばれて、去年の8月から競技を始めました。(世那が)なんか頑張っているなとは思っていたんですけど、詳しくは知らなくて…。そこで初めてクアッドボールについて教えてもらいました。私はスポーツが大好きで、小学生のときには野球を、中学・高校・大学ではバスケットボールをやっていました。だいたいのスポーツって、ボール1個で得点を取る競技じゃないですか。でも、クアッドボールは違う種類のボールや違う役割の選手がいるというところがすごく面白くて。箒にまたがるというプレースタイルも今までになく斬新で、すごく興味が湧きました。そこからハマって今まで続けています。

—おふたりは幼い頃から仲良しだったのですか?

姉・真玲:小学校の時は同じチームで野球をやっていましたけど、幼少期ゆえに殴り合うくらいの喧嘩をしたことも…(笑)。でも中学校以降は別の学校に通っていましたし、お互いの部活とかも忙しかったので、関わる時間が少なくなっていきましたね。

弟・世那:うちの親も、今僕たちが一緒にプレーしていることにとても驚いているんですが、それと同じくらいすごく楽しそうにもしていて。父親が「あいつ(真玲)、活躍してるんか?」とか「チャンスがあれば、俺もアメリカに行って試合見に行こうかな」と言ってくれます(笑)。

姉・真玲:母親には「アメリカは保険料高いんやから、けがしないでね」と言われました(笑)。応援してくれている両親が1番楽しんでいるんじゃないかと思います。

—世那さんはどうして友人ではなくきょうだいである真玲さんを誘おうと思ったのですか?

弟・世那:姉は僕より運動神経がいいと昔からずっと思っていました。初めは自分のチームに誘うことに抵抗があったんですけど、大会でどうしても勝ちたいという思いが強くなって、身体能力の高い姉を誘いました。

日本代表の練習の様子(ボールを持ちシュートを打つのが世那選手(写真中央・青ユニフォーム))

—日本代表に選ばれているおふたりの強みは何ですか?

姉・真玲:バスケットボールを長くやってきたので、体力や走り込みにはすごく自信があります。バスケットボールで培った視野の広さも自慢です。あとは、野球の経験もあるので、投げる力も他の人よりはあるのかな。代表選考会でも「絶対誰にも負けないぞ!」という気持ちで挑んでいました。ワールドカップではロングシュートやロングパスをたくさん決められるように頑張りたいです。

弟・世那:男子の代表選考会はめちゃくちゃ激戦で…。姉は前大会からMVPに選ばれたりしていたので心配はなかったのですが、僕はメンバーに選ばれるか不安でした。金子監督に言われた僕の強みは、がっしりした体つきとラグビー経験などで培った体を当てるプレーが得意なところです。また、スピードと機動力を生かして海外の選手と戦えるところも強みだと思っています。

—きょうだいで同じフィールドに立ってプレーするようになってどのように感じていますか?

姉・真玲:競技を始めた頃は、世那にルールなどをたくさん教えてもらいましたね。やっぱり弟なので1番質問しやすくて、小さなことでも全部聞いていました。私はいい意味で世那のことを他人だと思っていて、フィールド上でのきょうだい感がないんです。チームメートの1人という認識で、「あ、今のプレー上手いな」とか思って見ています。学生時代は家で全然話さなかったけど、今はクアッドボールを通じて前よりも話すようになりました(笑)。

弟・世那:たしかに、家でも家族の会話というよりは、選手同士の会話という感じですね。同じフィールドでプレーすることに気まずさなどもありませんし、姉が日常的にストイックなところも見てきているので、僕にとっては信頼できる存在です。僕も姉をチームメイトの1人として見ています。他人とは思ってないですけど(笑)。

〝チャレンジングな仲間〟と〝非日常への没入感〟が魅力

—おふたりはクアッドボールのどんなところに魅力を感じていますか?

姉・真玲:やってみて感じた1番の魅力は、非日常の世界に入り込めるところです。クアッドボールに出会う前は、平日は仕事をして、土日は友達と遊んで…という普通の日常を送っていました。でも、このスポーツに出会って、留学経験のある人や海外の人との交流もできたので、日本にいながら謙虚になりすぎず、お互いに意見を伝えあえる雰囲気を肌で感じてプレーできることも新鮮ですね。また、競技人口が少ない中でも、人に恵まれているなと感じます。みんなで意見を出し合って試行錯誤しながら、どうやったらクアッドボールが広まるかとか、日本が海外チームに勝てるかとか、みんなで作り上げていこうという思いが大前提にあるところがすごく面白いなと感じます。それから、日本の部活動の多くは先輩・後輩という上下の関係性を重んじますが、この競技は歳上の人もラフに話しかけてくれるし、私も敬語を使わずに喋ったりするし…。そういうフラットな関係性も、私にとっては大きな変化でした。男女混合という特徴もありますし、私にとってはこれまでの常識が覆されるようなスポーツですね。

日本代表の練習の様子(戦術の確認をする真玲選手)

弟・世那:ビーター(ブラッジャーと呼ばれるボールで相手チームを妨害する)という他のスポーツにはない特殊なポジションがあるんですけど、そういう選手たちがいることで、体格差があってもそれを埋め合わせる作戦を立てることができるし、そういうルールがあるからこそ、男女両方の選手がリスペクトされた競技として深みが出ているなと感じます。また、競技自体も魅力的なのですが、実際にプレーしている選手や協会の方々含めて、クアッドボールに関わる人は、チャレンジングな人が多いと思います。作戦について話していても「いいじゃん、それやってみようよ」と言ってくれたり。クアッドボールは比較的新しい競技なので戦術が確立されておらず、常に話し合いをすることが大切なスポーツです。そういった話し合いにもみんな積極的で、新しいことに臆さず寛容な人が多いなと感じています。そんな素敵な人たちに出会わせてくれたこのスポーツに感謝しています。

複雑なルールの先にある〝達成感〟 日の丸を背負いワールドカップへ

—クアッドボールはルールがかなり複雑なイメージがありますが、それでもおふたりを虜にする理由は何でしょう?

姉・真玲:ただ力が強い人や足が速い人が上手い選手というわけではなく、思考を巡らせる判断力も大事だというところが魅力だと思います。戦略もたくさんあるし、本当に頭を使うので、練習が終わるたびにヘロヘロです。「あのプレーの裏で実はこういうプレーが…!」というのがいっぱいあります。後から練習動画を見て気づくことが多くて、ずっと思考が巡らされていますね。仕事の通勤時間にも動画を見て「なるほど」とか「あの時どうしたらよかったのかな」とか考えたりして。なんやかんやクアッドボールのことをずっと考えているかもしれないです。

弟・世那:何回動画を見ても新しい発見があるので、すごく面白いですね。ルールがすごく複雑なので、全員の息が嚙み合わないと得点できないという難しさもあって…。だからこそ、得点できた時の達成感がすごいんです。性別も体格差も違ういろんな選手たちが、得点をするために工夫を凝らして、それが上手くはまった時の達成感はすごく大きいですね。

—間近に迫るワールドカップに向けて、それぞれの目標を教えてください。

姉・真玲:私は初めて日本代表に選ばれてワールドカップに出場する立場なので、とにかく自分の力を120%出して、その場その場で自分に何ができるかをしっかり考えて、悔いを残さず1勝でも多くできればいいなと思います。世界でもがいて、ちょっとでも結果を残せれば、日本でクアッドボールがもっと広まっていくんじゃないかなと思います。

弟・世那:海外の選手には「初出場の日本はそんなに強くないしノーマークで大丈夫でしょ」という印象を持たれているかもしれないですが、まわりがびっくりするぐらい活躍して、爪痕を残したいなと考えています。今回、日本を背負って世界大会に出場することには大きな意味があると思うので、クアッドボールがもっと注目される起爆剤になればと考えています。

▶▶日本クアッドボール協会の取り組みについて

日本クアッドボール協会では、7月のワールドカップに向けて日本選手団の渡航費などの補填のため、クラウドファンディングに挑戦しています。
▶▶詳しくはこちらhttps://camp-fire.jp/projects/view/653019