特集2022.09.23

女性アスリートは〝我慢〟に気づいて!産婦人科医師・鮫島梓さん×元ジュニアコーチ・中路実咲さん×スポーツ薬剤師・菊地勇人さん 〝医療者×指導者〟コラボ対談 【#わらバスvol.3】

FIBAバスケワールドカップの開催時期に合わせて全国のバスケキッズにコンディショニングを普及する「#わらバス−みんな一緒に、笑ってバスケ!プロジェクト−」。今回は元女子バスケットボールプレイヤーという共通項を持つ 産婦人科医師・鮫島梓さんと、元ジュニアコーチ・中路実咲さんの対談に、女性アスリート支援に取り組むスポーツ薬剤師・菊地勇人さんが飛び入り参加!選手・指導者・医療者をそれぞれ経験されたみなさんのグループインタビューから、「誰もが【強く・長く・楽しく】バスケを続けられる未来の実現」のヒントを紐解きます。

「#わらバス」キーパーソン:鮫島梓さん×中路実咲さん with 菊地勇人さん

▲オンライン取材に応じる皆さん(左上:鮫島梓さん、左下:中路実咲さん、右下:菊地勇人さん)

―みなさん本日はありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
鮫島「富山で産婦人科医師・スポーツドクターをしている鮫島です」
中路「中路です。少し前まで小中学生のバスケ指導員をしていました」

―そして、本日、飛び入りでお越しいただきました。
菊地「スポーツ薬剤師の菊地です。よろしくお願いします!」

―本当は前回の「ドーピング0会 女性アスリート部」の回(『SNS時代の「多職種×横連携」で医科学サポート! ドーピング0会女性アスリート部代表 本田朋子さん【#わらバスvol.2(https://grows-rtv.jp/contents/article/5245)】)にご出演予定でした。

菊地「都合が合わなくて、急遽こちらに。ありがとうございます」

―それでは早速。鮫島さんと中路さんは、元バスケプレイヤーですよね。
鮫島「はい! 小学4年生でミニバス(ミニバスケットボール:11歳以下によりおこなわれるバスケットボール競技の略称)を始めて、大学まで」
中路「私は小学3年生のミニバスがスタートで、同じく大学までです」

―中路さんはインターハイやウィンターカップ出場のご経験も。
中路「はい、高校の最終学年で出場しました」
鮫島「すごい!私は小学6年生がバスケ人生のピークです(笑)」

▲中路さんの地元である京都府内のサンガスタジアムby KYOCERAにて(写真右:中路さん)。KYOTO BBが提供する「3×3(3人制バスケットボール)」対応のコートも設営されている。(写真/ご本人提供)

―鮫島さんはバスケが盛んな地域のご出身で。
鮫島「はい。千葉県船橋市が地元なので、昔からバスケが身近でした」

―お二人とも選手経験に加えて、支援者としてもご活躍ですよね。
鮫島「今は産婦人科スポーツドクターとして女子バスケ選手を診察していますが、大学の頃は、bjリーグ(日本プロバスケットボールリーグの通称、現在のBリーグの前身団体の1つ)のスタッツ入力(試合記録入力)のアルバイトもしていました」

▲鮫島さんは「ドーピング0会女性アスリート部」においても、産婦人科医師としての知識と経験をもってスポーツドクターとしても尽力している。(写真/「ドーピング0会女性アスリート部」公式Instagramより)

―えっ、そうなんですか!
鮫島「ちょうど富山グラウジーズがbjリーグに参戦した頃です。その時は社会人チームで有名な女子バスケの選手と一緒に練習をさせてもらったりして、幸せでした」

―中路さんも、支援者としてのキャリアをお持ちですよね。
中路「私は大学で指導者やトレーナーを目指して勉強していたので、その流れで、ジュニアコーチを経験しました」

▲小学3年生のミニバスをきっかけに大学時代までバスケに親しんだ中路さん。高校3年生の時には、インターハイやウィンターカップへの出場を果たした。(写真/ご本人提供)

―ちなみに菊地さんは?
菊地「僕は学校体育オンリーです(笑)」
一同「(笑)」

―よかった、仲間がいました(笑)。
菊地「プレー経験は授業のみですが、スポーツ薬剤師として女性アスリート支援をする中で、競技について学んでいるところです!」


▲プライベートでテニスに打ち込む菊地さん。社会人プレイヤーとして試合に出場するほどの実力をもつ。競技に対する理解を深めることで、女性アスリートの医科学的支援に役立てたいと話す。(写真/ご本人提供)

【強く】 パフォーマンスに集中するための便利グッズ「吸水ショーツ」

―女性アスリートとしてのお二人に質問です。選手時代のコンディショニングはいかがでしたか?
鮫島「私はあんまり生理痛がなかったんですよね」

―女性特有のことで困ったことはありましたか?
鮫島「体調ではないところで、『白いパンツユニフォーム』…」

―なるほど、経血漏れが気になりますよね。
中路「分かります! 大抵、保護者や他のチームメイトが気づいて、口伝えで本人が知ることに…」

▲現役バスケプレイヤー時代の鮫島さん(左から3番目)。安心してパフォーマンスに集中するため、当時の自分に「吸水ショーツを渡してあげたい」と話す。(写真/ご本人提供)

―プレー中だと自分で気づけないですよね。
中路「すぐに交代もできないし、ユニフォームも一着しか無かったりするから…。本人からすると、恥ずかしくて、その後のプレーに集中しにくいですよね」

―当時の自分に、女性アスリート支援をする現在の自分からの助言はありますか?
鮫島「『吸水ショーツ』を渡します!」

―最近話題のフェムテック(※)製品。
鮫島「パフォーマンスに集中するための〝安心感〟がもてる、というのがいいですよね。漏れも心配なく、激しく動いてもズレないし」
※FemTech(フェムテック)…Female(女性)とTechnology(技術)をかけあわせた造語をさす。女性が抱える健康上の課題をテクノロジーで解決することを目指した商品や製品、サービスをあらわす。

【長く】 「相談窓口」や「練習ノート」で月経前後コンディショニングの選択肢を増やす

―支援者は、体のことだけではなく、心のことにも気遣えるといいですよね。
中路「女性特有の困りごとについては、先輩に相談することも多かったです」

―先輩。
鮫島「これは産婦人科医師としての経験上ですが、月経痛を軽減したり周期をずらす効能がある『低容量ピル』も、先輩から後輩への情報シェアがあると、受け容れが良い印象です」
菊地「身近な人からお薬の効果について聞くと、安心ですよね」
鮫島「女子サッカー『なでしこジャパン』の例(※)は、社会現象になりましたね」
※なでしこジャパンの元・キャプテンをつとめた澤穂希さんが、ワーキングウーマンのためのイベント「WOMAN EXPO TOKYO 2017 Winter」のトークショーに出演した際、選手時代に「低用量ピル」を服用していたことを公表し、大きな話題となった。

―選手のお悩み相談先は『頼りになる先輩』が多いんですね。
鮫島「実際に、そのような調査研究もあるんですよ」
中路「自分が相談しやすい身近な人が、解決策を知っておいてくれるのは心強いです」
菊地「そういう声を聞くと、僕たちスポーツ医療者の普及活動(アウトリーチ(※))も頑張らなきゃ、と思いますね」
※アウトリーチ…福祉分野において、支援が必要であるのにもかかわらず届いていない人々に向け、行政や支援機関などが積極的に働きかけることで、情報や支援を届けるプロセスのこと。

【楽しく】 選手にとって心強い「身近な先輩の実体験」

―相談先として、スポーツ医療者はどのような立ち位置にあるのでしょうか?
中路「最初からお医者さんや薬剤師さんに相談、というのはあまり無いかな…」
鮫島「まずは部活の先輩や、女性トレーナー等のチーム関係者が多いでしょうね」

―すぐに病院、とはなりにくいですよね。
中路「私の経験からのイメージですが、個人差はあるものの、(生理は)月1回のことだから『自分なり』に乗り切っちゃうのかもしれませんね」

―なるほど、月経前後のコンディション不調を『自分なり』に乗り切る…。
中路「例えば、生理前に『イライラする、食べ過ぎちゃう、体重が増えちゃう』ということに自分で気づいたら、『自分の知識の範囲』で対処しようとしてしまいます」
鮫島「月経前後のコンディションの不調は、個人差が大きいことも特徴ですね」
中路「そうですね。私の場合は、症状や不安感を部のメンバーに相談することで解消…というか、重く受けとめ過ぎずに、ポジティブな方向へ気分を切り替えていました。コンディションの不調を周りの人に相談することで、客観的に自分の体調について振り返ることができるような気がしています」

―具体的にはどんな感覚で相談されていたんでしょうか?
中路「きつい練習と同じような感覚です。今日はしんどいトレーニングメニューだけど、絶対にこなさないといけないから、せめて前向きに捉えようという具合です」

―こう聞くと、やはり女性アスリートは「我慢」しているのかもしれないですね。
鮫島「そうですね。私の産婦人科医師としての経験上、月経痛治療は満足度が高い印象です。大学生で治療された方からの、『こんなに楽になるのなら、中学生の頃から相談しておけばよかった』という声もありました」

―まずは「我慢」に気づくことが大切ですね。
鮫島「選手が自分の体調を振り返った時に、『私の症状って、パフォーマンスに影響するくらい重いのかも?』と、自分で『我慢』に気づけるようにしたいですね」
菊地「『我慢』を解消する方法を知りたい時、スポーツ医療者を頼ってほしいなと思います」

―頼りになる先輩から受け取って嬉しかったアドバイスはありますか?
中路「先輩の『実体験』を聞けると、安心しましたね。私だけじゃないという安堵感と、具体的にこういう対処法があるんだ、という安心感がありました」
菊地「なるほど、『身近な先輩が正しい対処法を知っていること』が重要なのか…」

▲「ドーピング0会女性アスリート部」でも、月経痛や低用量ピルについての知識の周知や産婦人科への相談を促している(写真/「ドーピング0会女性アスリート部」公式Instagramより)

―産婦人科医師として、選手におすすめしていることはありますか。
鮫島「練習ノートに『月経』という項目をあらかじめ作って、日々の体調をメモしておくことを薦めています。最近は女性アスリートがコンディションを振り返るためのアプリもあります。このような管理記録があると、専門家に相談する時にもスムーズです」

▲「『私の症状って、パフォーマンスに影響するくらい重いのかも?』と、自分で『我慢』に気づけるようにしたいですね」―スポーツ医療者による普及活動(医科学アウトリーチ)として、相談にのる鮫島さん。自分自身の月経前後のコンディションに寄り添うことが重要だと話す。(写真/ご本人提供)

―月経は、将来の体調にも繋がりますよね。
鮫島「無月経や月経不順は、将来の妊娠・出産にも影響する、とても大切なことなんです」
中路「ただ、その当時を振り返ると、バスケにひたすら夢中になっているので、5年、10年後の身体のことまで時間をとって考えるかというと…」
鮫島「だいぶ先のことだから、イメージもつきにくいですよね」

―だからこそ、スポーツ医療者の普及活動(アウトリーチ)が大切なんですね。
菊地「はい。そう思って僕も取り組んでいるのですが、現実には難しいと感じることもあります」

【続ける】 スポーツ医療者の悩み「どんなふうに伝えると、選手のためになるのだろう」

―菊地さんはどんな普及活動に関わっておられるんですか?
菊地「僕は薬剤師なので、『アンチドーピング教育』がメインです。その上で『女性アスリート支援まで、足を踏み入れていいのか?』という自分なりの悩みが…」

―〝悩み〟というと…?
菊地「例えば、スポーツ大会で僕らスポーツ薬剤師が相談ブースを出展して、通りかかる選手や保護者の方にチラシを配ったり、『よかったら相談されませんか?』と声をかけるのですが…その時点で、選手の警戒感をひしひしと感じるんですね」

―現場ならではの肌感覚ですね。
菊地「はい。男性の僕が、女性の選手にいきなり『月経』について問いかけるのは、おそらく不快感を与えてしまいますよね…」

▲スポーツ医療者による普及活動(医科学アウトリーチ)として、相談ブースを出展する菊地さん。「月経についての回答が求められた時、正しい知識をもって女性アスリートに寄り添える環境を整えておきたい」と話す。男性スポーツ薬剤師として、女性アスリートとの〝心地よい距離感〟を模索する重要性を実感している。(写真/ご本人提供)

―男性スポーツ医療者ならではの悩みかもしれませんね。
菊地「なので今は、『求められた時にしっかりと回答できるように準備しておこう』というところに落ち着いています」
中路「そんな風に気遣ってくださっているんですね!」

―スポーツ医療者は、〝選手からの質問を待っている〟という感覚でしょうか。
中路「なるほど…。でもそれって、選手側からのハードルが高そうですよね」
鮫島「うん。選手から見た産婦人科医師って、きっと『怖い人』だよね(笑)」
菊地「そうなんですよ…。選手との距離感って難しいなと感じます」

―どうにか解決できませんかね…。
中路「今の話を聞くと、選手と医療者の『仲介役』がキーになりそうですよね」
鮫島「あとは環境かな。『講習』とかなら、ハードルが高くなさそう」

【未来】 医科学サポートの仲間として一緒に活動したい「仲介役」の存在

―選手の信頼を得るためのセッティングも大切ですね。
鮫島「私は、学校保健室の先生を、心強い仲間だと思っています!」
菊地「僕も学校薬剤師さんや、部活動の顧問の先生などと、もっと連携したいなと思います」

―学生アスリートの身近な存在でもある「親近感のある支援者」が仲介役のキーパーソンとなりそうですね。
中路「誰にも言えない体調のことも、オープンに話せる親近感のある人になら打ち明けられたりしますよね」
鮫島「例えば学校の職員さんが、地域の医療者と、もっと気軽に連携できるといいなと思います」

―医療者との連携は、学校の職員さんにとって、ハードルが高いように思いますが…。
鮫島「現状ではそうですね。でも、『子どもたちを支えて育てる』という目的が同じ仲間だから、きっと手を繋げると思うんです。そのためには、まず医療者の私たちが動かないと。診察室で待っているだけではいけないと思います」

▲産婦人科医師として、新たな命と向き合う鮫島さん。『子どもたちを支えて育てる』という共通の意識を軸に、医療者と教育現場がタッグを組むことの大切さを感じている。(写真/ご本人提供)

―どんな方法で連携の芽を?
鮫島「例えば、地域の行事でよく顔を見かけるとか、母校が一緒で親近感があるとか…。スタートはそういうところだと思うんですよね」

―なるほど、1対1の人間関係から生まれる地域連携ですね!
鮫島「私、もっと外に出ます!」
菊地「僕もめげずに、普及活動(アウトリーチ)を頑張ります!」
鮫島「せっかくなので、このメンバーで、普及活動をやってみましょうよ」
中路「いいですね、企画しましょう!」

「#わらバス」ヒント:選手と医療者を繋ぐ「仲介役」の存在

「誰もが【強く・長く・楽しく】バスケを続けられる未来の実現」―みなさんのお話から、選手と医療者の間を繋ぐ『仲介役』の存在がキーになりそうです。「みんな一緒に、笑ってバスケ!」をキャッチフレーズに、実現を目指して前進していきましょう!(企画・取材・文/山岡彩加)

▶「#わらバス-みんな一緒に、笑ってバスケ!プロジェクト−」について詳細はこちら
https://grows-rtv.jp/project/4594

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