特集2023.07.15

「自分たちで掴み取ったワールドカップ」 アメリカから競技を持ち込んだキャプテン 熱き思いを語る

7月にアメリカで行われるクアッドボールのワールドカップ。クアッドボールは、日本での競技人口が約200人というマイナースポーツです。いったいどんな競技なのか、取り組むのはどんな人たちなのか。競技に携わる4組にインタビューし、連載でお届けしています。第4回は、日本クアッドボール協会代表理事で日本代表キャプテンを務める小山耕平(こやま・こうへい)さんに競技の魅力を語っていただきました。

▶▶〝クアッドボール〟とは?

映画「ハリー・ポッター」シリーズに登場する架空のスポーツを、魔法が使えない人間でもプレーできるようアレンジされた球技。箒にまたがり、クアッフル(1個)・ブラッジャー(3個)・スニッチ(1個 ※人間が担う)という3種類のボールを用いて点を取り合う。男女混在チームの7名対7名の計14名で対戦するジェンダーフリーの競技である。ラグビー、ドッジボール、鬼ごっこ、ハンドボールなどの要素が含まれる複雑なルールであるが、世界40か国でプレーされ、アジア大会やワールドカップも開催されている。当初は原作と同じ「クィディッチ」の名称で競技されていたが、2022年7月に使用されるボールの数とポジションの数に準えた「クアッドボール(Quadball)」へと世界的に競技名が変更された。

日本人で競技歴最長のクアッドボーラー 日本代表キャプテン・小山耕平さん

アジア環太平洋選手権で優勝したチームを率いる小山さん(写真左)

—プロフィールを教えてください。

小山:小山耕平です。1995年東京都出身、現在28歳のサラリーマンです。クアッドボールを始めたのは2016年9月なので、競技歴はもうすぐ7年になります。我ながら〝そんなに経つのか!〟と驚いており、クアッドボールの面白さに魅了されていることを実感しています。ポジションはチェイサーから始めて、ルールや戦術などを理解してからはビーターをやっています。アジア大会ではMost Valuable Beaterに選んでいただき、アジアナンバーワンのビーターとして、日々腕を磨いています。

—素晴らしいですね!クアッドボールとの出会いは何だったんですか?

小山:大学3年生のアメリカ留学中にサークル活動で何をしようかと考えていた時、「クィディッチ部(現在はクアッドボール部に変更)」を見つけました。興味をそそられて見に行ってみると、自由な雰囲気がありながらもしっかりと真面目に競技に取り組んでいる様子が好印象で、入部を決めました。2016年9月から2017年5月までの留学期間のうち、週3回活動して、全米大会にも出場しました。当時のチームメートで、今も交流がある選手が3人いるんですが、それぞれ、アメリカ代表選手として、ブラジル代表選手として、そしてインド代表選手として活躍しています。それぞれの母国で腕を磨き続けたからこそ、今回のワールドカップで再会できるんです。留学中にクアッドボールにハマった僕は、チームメートにまた会いたいな、もっとクアッドボールをやりたいなと思って「俺、日本に帰ったらチームを作るから、次はワールドカップでそれぞれ代表選手として会おうぜ!」とみんなに言ったんですよね。念願叶って、このような形で再会できることが、嬉しくて仕方ないです。

—誰もクアッドボールをやっていなかった当時、日本で競技を普及させるのはすごく大変だったんじゃないですか?

小山:めちゃくちゃ大変でした。友達などに声をかけて体験会をやり、少しずつ仲間を増やしていきました。アメリカの大学では約200チームもあってかなり普及していたので、現地にクアッドボール専門用品店もあったんです。でも、帰国した2017年当時、日本ではまだクアッドボールの存在が知られていなかったので、道具もなくて…。クアッドボールを日本でも頑張りたい一心で、ホームセンターに通って塩ビパイプでゴールを作ったりしていたのですが、「そんな変なスポーツはやらない」とか「ダサい」と言われたこともありました。最初はたった1人だったけど、水越さんとゆうやさん(ともに日本クアッドボール協会代表 ※第1回連載の西村ゆうやさんインタビュー記事はこちら)と一緒に活動するようになって、協会設立から5年経った今は、全国に複数のチームも誕生しました。僕と同じようにクアッドボールを好きになってくれて、同じように真面目に打ち込んでくれる選手たちが集まってくれたことを、本当に嬉しく思っています。今年、日本チームとして初めて挑むワールドカップは、様々な困難を乗り越え、やっとの思いで迎える大切なワールドカップです。本来は2020年に開催されるはずでしたが、コロナの影響で延期になったり、緊急事態宣言で国内のチーム活動が止まってしまったりして、競技を離れてしまうプレイヤーもいました。大変なこともたくさんありましたが、日本のクアッドボール界を終わらせまいと必死に活動を続けてきた結果のワールドカップなので、〝待っていたら何となくやって来た〟というより、〝自分たちで掴み取ったワールドカップ〟だと思っています。

「クアッドボールは〝社会〟そのもの」型に捉われない競技の魅力

ビーターとして体を張ったプレーで魅せる小山さん(写真中央)

—帰国後も真摯にクアッドボールと向き合ってきた小山さん。ここまで競技を頑張り続けてこられた理由は何でしょう?

小山:1つめは、スポーツとしてすごく面白いからだと思います。僕は野球やバスケットボール、サッカーなど、いろんな球技を経験してきましたが、数ある球技の中でもクアッドボールという競技をすごく面白いと感じています。他の競技と違って役割の違うボールが3種類もありますし、パターン化されたプレーがあまりなく、その場で判断する力が求められます。毎週、日本代表チームで戦略会議をしているのですが、「こういう時はこうしたほうがいいんじゃないか」というような議論をずっとやれちゃうようなところが奥深くて楽しいし、ぜんぜん飽きないですね。2つめは、文化として面白いところです。このスポーツに集まる人たちはすごくユニークですし、まだ若いスポーツなのでルールも毎年変わります。そして、組織全体もプレイヤーも競技を消費するだけでなく〝このスポーツを自分たちが作っている〟という実感を得ながら競技に取り組めるところがすごくいいなと思っています。国際組織のIQA(国際クアッドボール協会)も、JQA(日本クアッドボール協会)も、今の日本の若い選手たちも、とてもディスカッションに積極的なんですよね。そういう人たちと一緒にプレーしたり、大会やコミュニティのことを考えていくのがすごく楽しいんです。
競技を続けてきて、クアッドボールは社会そのものだなというふうに感じています。例えば、男女混合でサッカーやフットサルをする時、女性がゴールを決めると男性より多く得点が与えられることがありますよね。クアッドボールにはそういうのがないんです。クアッドボールのジェンダールール(同じジェンダーの選手が4人以上出てはいけない)に則って、必ず違うジェンダーの人やいろんな特技を持った人が同じフィールドにいます。そういう前提条件って、社会でも一緒だと思うんですよね。今ここにいるメンバーそれぞれの個性を活かして、チームとしてどうやって結果を出していくかを考えなければいけないところが、社会をそのまま反映しているようだなと感じています。日本のスポーツは体育や部活動から、指導を仰いだり、指示に従うことが尊重されていますが、クアッドボールは純粋にスポーツを楽しむ自由さが尊重されているところが素敵だと思っています。選手自身がその場の判断で考えたプレーを自分の責任で自由に行うことができますし、いいプレーがあれば相手チームでも称えます。試合後も自分たちのチームのミーティングより、まずは相手チームと審判団に対しての感謝を伝える時間が先。日本でクアッドボールを普及するにあたって、そういった文化は意識して取り入れるようにしています。

キャプテンとして〝なんでも挑戦できるチームづくり〟を

代表練習で、円陣を行う小山さん(写真中央)

—今回の日本代表はどんなチームですか?

小山:間違いなく、今の日本にとってベストな選手たちが揃っています。ここ1年半ほどの間にクアッドボールを始めたフレッシュな選手たちも選出されていて、センスや才能を活かしてチームを引っ張ってくれています。競技歴が長い選手たちも、経験や戦略理解の観点でチームを引っ張っており、バランスが取れているように思います。

—小山さんがキャプテンとして意識していることはありますか?

小山:チームの中には競技歴の長い選手と短い選手がいますし、年齢も20歳から33歳までと幅広いです。経験が浅い選手や年齢が若い選手たちは、〝先輩の言うことが正しい〟と思ってしまったり、意見を鵜呑みにしてしまったりすることがよくあります。でも、クアッドボールは奥深いスポーツなので、僕たちも間違ってしまうことがあるんです。なので、「こうしたほうがいい」という押しつけではなく「僕はこう思うけど、どうかな?」という言い方をしています。「それぞれが自分の頭でしっかり考えて、一緒に議論していきたい」、「色々な可能性があるから、まずはなんでも試してみよう」とチームメートたちに話していますね。また、どんなスポーツでもそうだと思いますが、みんな最初は「面白い!」とか「楽しい!」という気持ちから、スポーツをやり始めると思うんですよね。でも、真剣に向き合っていくうちに、プレッシャーの重みや周りの目が気になったりしてきて、楽しめなくなってしまうことがある。僕は、クアッドボールを心から楽しいスポーツだと思っているので、失敗もクアッドボールの一部として楽しめるような、みんなが積極的に挑戦できる雰囲気作りを意識しています。

—クアッドボールというスポーツを通じて伝えたいことはありますか?

小山:クアッドボールは、消費者のスポーツではなく生産者のスポーツです。決まったセオリーがない分、誰かに教えてもらうのではなく、自分たちで考えて作っていくんです。なので、これからの未来をつくる子どもたちに親しんでもらったり、学校教育に取り入れられるとすごくいいんじゃないかなと思います。自分たちで戦略を考えてもいいし、大会を企画してもいいし、ルールを変えてもいい。ルールブックが英語なので、英語の勉強にもなります。男女混合という競技の特性上、ジェンダー観や真の平等について、早い段階から考えるきっかけにもなるんじゃないかと思います。

—最後にワールドカップに向けての目標を教えてください。

小山:目標は、優勝です!日本はアジアでは強国なのですが、欧米の代表チームとはまだ対戦したことがなくて、世界ランク的にはまだまだ低い部類に入ります。今回のワールドカップで欧米の国々とも互角に渡り合い、大会にサプライズを起こしたいですね。また、日本代表の選手たちが「やっぱりクアッドボールは楽しい!」という想いを強くしてワールドカップを終え、それぞれの所属チームにたくさんの熱量を持って帰ってくれることも、個人的な目標にしています。

▶▶日本クアッドボール協会の取り組みについて

日本クアッドボール協会では、7月のワールドカップに向けて日本選手団の渡航費などの補填のため、クラウドファンディングに挑戦しています。

https://camp-fire.jp/projects/view/653019

取材・文/森本まりな 写真/日本クアッドボール協会ご提供