特集2023.09.04

プロサッカー選手から会社員へ 「飛躍のカギは、あくなき目標とやり切る力」 元Jリーガー・阿部祐大朗 <前編>

幼少期からサッカーを始め、中・高と着実に実力を磨いたのち、約9年間、プロサッカー選手としてのキャリアを積んだ元Jリーガー・阿部祐大朗(あべ・ゆうたろう)さん(白ユニフォーム、写真中央)。引退後は心機一転、ブライダルや金融など、新たな環境でキャリアを構築する阿部さんにうかがった、現役時代や今の仕事、現役アスリートのセカンドキャリアへのアプローチについてのお話を、前編・後編に渡ってお届けします。

PROFILE【阿部祐大朗】

阿部祐大朗(あべ・ゆうたろう)
1984年10月5日生まれ、東京都町田市出身。桐蔭学園中学校・高校を経て、2003年に横浜F・マリノスよりプロデビュー。その後、モンテディオ山形、フェルヴォローザ石川・白山、徳島ヴォルティス、ガイナーレ鳥取での現役生活を経て、2011年に引退。引退後はブライダル業界に従事し、現在は金融業界にて活躍。現役時代のポジションはFW。

トントン拍子に叶った「サッカー選手になる」という夢とプロの厳しさ

Qこれまでのサッカー選手としてのキャリアを教えてください

5歳の時に、町田市のクラブでサッカーを始めました。小学校3年生の頃には、上級生の試合に出させてもらったり、小学校6年生になると、東京選抜にも選出していただき、海外遠征も経験しました。

その後、進学先の桐蔭学園中学・高校時代には、全国大会準優勝を2回経験、アンダー17の日本代表にも選出していただき、高校時代までサッカー一筋で頑張ってきました。

高校卒業後はプロのサッカー選手として、横浜F・マリノスに3年契約で加入しましたが、思うように活躍できず、2年目が終わった段階でレンタル移籍という形でモンテディオ山形にいくことになり、プロの厳しさというものを実感しました。新天地で気持ちを入れ替えたものの、華やかな活躍を残すことができず、横浜Fマリノス、モンテディオ山形ともに契約満了となってしまったので、一時、所属先がない状態になってしまいました。

そこからは、トライアウト(※次のキャリアを探す選手が一堂に会し、テスト試合をするセレクションの場)に参加し、石川県の地域リーグからオファーをいただけて、新たな気持ちで頑張ろうと思っていた矢先、今度はそこのチームのメインスポンサーが隣のチームへ移ってしまい、チームが解散するというアクシデントに見舞われてしまいました。

そこで、人生初めてのアルバイトと練習参加を並行する形で次の所属チームを探すことになり、最終的にご縁があった徳島ヴォルティスでお世話になることが決まりました。そこから1年半ほど、徳島ヴォルティスに所属していたのですが、契約満了とともにガイナー鳥取というチームに移籍、そこでの3年半ほどを最後に現役引退という決断に至りました。

新しい仕事と出会いが教えてくれた「プライドの脱ぎ方」


Qサッカー選手引退後のキャリアについて教えてください

引退後、どういうキャリアを築くかについてはすごく悩んだのですが、はっきりと自覚していたことは、「サッカーに関する仕事をするなら、プレイヤー以外はできないな」という感覚でした。なので、人材会社を経営する知人にお願いして、名刺の渡し方や履歴書の書き方などを一から教えてもらい、転職という形で就職活動を始めました。その後、「ずっとデスクワークをする仕事よりもサービス業のほうが向いているんじゃないか」という思いもあり、1番初めに内定をくださったブライダル業界の会社に入社することを決めました。

働き始めて感じたのが、「とにかく激務…!」という感覚。サッカー選手時代は時間換算すると、合同練習でも約2時間ほどなので、そんなに長時間勤務ではないのですが、一般企業に勤めると、あたりまえですが、早朝から夜遅くまで働かなければならないので、そのあたりのギャップはとても大きかったです。

最初の研修期間には、サッカー選手として頑張ってきた9年間のプライドが邪魔をして、現場で大きな声で「おめでとうございます!」と言えなかったり、電話対応が上手くできなかったりして、とても歯痒かったのを覚えています。そんな僕を見て、年齢や自分のバックグラウンドに関係なく、注意してくれたり、叱咤激励してくれる素敵な同僚の方々に恵まれたことで、凝り固まったプライドを脱ぎ捨てることができたことは、すごく大きな財産になりました。阿部祐大朗という1人の人間に、真正面から真剣に向き合ってくれたことも嬉しかったです。

研修後はウェディングプランナーとしてお客様のお手伝いを半年ほどさせていただいた後、営業を経て、最後はレストラン事業部でキャリアを積みました。ウェディングプランナーの仕事は、お客様の心にとことん寄り添って、同じ目線で考える共感力が問われる仕事。5歳からサッカー一筋、どちらかというと自分中心で物事を考えるプレイヤー気質が強かった僕にとって、この経験はすごく貴重でした。そして、入社から約3年間働かせていただいた頃、自分自身のキャリアや給与面での成長を考えて、金融系の営業に転職することを決めました。

金融系の新天地では、自分自身のやり方ではなく、まずは結果を出されている先輩や上司の方から話を聞かせていただいて、自分自身にも活かせることはどんどん取り入れていこうという気持ちでスタートしました。ある意味、ブライダル業界時代と比べて、変なプライドもなく、まっさらな気持ちで取り組めたのが良かったなと思っています。また、今の営業の仕事は、サッカー時代に培った契約更新に懸けるストイックな部分と、ブライダル業界で培った「相手の立場を考えて、自分自身に求められていることに徹する」という部分が両方活かせる職種だなとも実感しています。

「現役時代を100%でやりきること」が引退後を左右する

Qアスリートから会社員への転身を経て、現役中に「やっておけばよかった…!」と感じることはありますか?

正直、本当に反省点しかないので、たくさんあります…(笑)。今、あの時に戻れるとしたら、「2足の草鞋で大変だと思うけど、何か資格取っとけよ」とか、「戦力外になっても腐らず、真剣にサッカー取り組んどけよ」とか、過去の自分に伝えておきたいことは山ほどあります。

特に、「現役時代を100%でやり切る」ということは、本当に大切なことだと思います。現役中はあまり感じられないかもしれないけれど、アスリートとして活躍できる期間というのは限られているし、とても貴重な時間なんです。「100%やり切る」ということ対して悔いや反省点が残ってしまうと、必ずやってくるキャリアチェンジの時に、アスリート時代の自分自身に固執してしまったり、ビジネスパーソンになっても変なプライドが残ってしまって、無駄な時間を過ごすことになりかねない。決して楽ではない、アスリートとして100%頑張ってきた日々を次のキャリアに活かせなきゃもったいないので、現役生活の過ごし方を徹底することは本当に大切だと思います。

また、現役時代からあらゆる情報に触れて、アンテナを張り巡らせることも大切だと思います。今は昔に比べて、SNSやインターネットから情報を得やすくなっていると思うので、そこを上手く活用して、現役アスリートとして必要な情報だけでなく、引退後の自分のキャリアにも役立つような情報を集める癖をつけておくことは、セカンドキャリアにすごく役立つと思います。とはいえ、アスリートという職業は片手間でできるような仕事ではありませんし、現役生活に100%集中しながら、引退後にも思いを馳せるのは簡単なことではありません。アスリートみんなにとって難しいことだからこそ、そこを1歩踏み出した人だけに、価値ある未来が開かれるんじゃないかと思っています。

一流の人だけが知っている「目標を立て続けること」の大切さ


Qビジネスパーソンとしてのモチベーションは?

今はサッカー選手時代の同期も、引退を迎えている方が多いので、スタートラインが揃っている分、「他の同期よりも頑張る!」という気持ちがモチベーションになっています。

また、サッカー選手として頑張った9年間、自分が思うような成果を出し切れなかった経験や、ブライダル時代にやりきれなかったと思っていることもあるので、過去の「出し切れなかった」という思いを、今の仕事にぶつけたいという気持ちも大きいですね。日々の仕事も多岐にわたるので、いい意味で日々に追われている環境に感謝しながら、1歩ずつ着実にレベルアップしていきたいなと思っています。

また、「どんどん目標を立て続ける」ということも大切だと思います。振り返れば、僕はプロサッカー選手になることが目標になってしまっていたんじゃないかと思うんです。プロの世界に入った瞬間に、燃え尽き症候群のような状態になってしまった。他の活躍していた選手は「やっとスタートラインに立てた、ここから頑張るぞ!」というモチベーションでしたが、自分にはそれが足りなかったんだと思います。

多分、一流の方って現状に満足してしまう怖さや、どんどん目標を立て続けないとダメになってしまうことがわかっている。特にアスリートの世界では、プロになるまでにたくさんの挫折を経験して、それを糧にされてきた選手がたくさんいる。でも、僕はただサッカーが好きで、たまたまプロになるまで順調にレールに乗れてしまったから、現役時代は、プロとしてのメンタリティや自覚が本当に足りなかったし、目標の立て方もわからなかったんですよね。

そういった意味では、今の金融業界での仕事は半月、四半期ごとに成果が1度清算されてゼロスタートになるので、定期的に初心にかえることができますし、短期・中長期的に目標を立てないとブレてしまうということを知ったうえで、その経験を生かせる環境にいられているので、とてもありがたいなと思っています。

後編につづく】

文/秋山彩惠 アイキャッチ写真/ご本人提供 文中写真/GrowS